12.見なかったことにして?
「見なかったことにして?」
そんなことを言われても、すでに胸がいっぱいだったので、オーフェンは嘘でうなずくしかなかった。
彼女が見ないでと言ったのは、今しがた何もないところで盛大に転んだことだろう。
めずらしくはいている短めのスカートがふわりと舞い、オーフェンはその姿を細部まで見てしまっていた。
女性としての恥じらいと、また訓練を受けた立場での恥じらいが混じっていると思われる。
オーフェンとしては、正直そのどちらでも呆れたりはしない。
ただ「お願い」も含めて、クリーオウが愛しくて仕方が無かった。
でもそれはきっと通じないだろう。
彼女からすれば、早く忘れてほしいと思っているに違いない。
「大丈夫だったか?」
彼女に手を差し出して、起き上がるのを手伝う。
クリーオウは素直にこちらの手を取り、よろよろと立ち上がった。
無意識だろうが、目に涙を溜めている。
「……!」
上目遣いで見つめられれば、意識が飛びそうになる。
高鳴る心臓をどうにかしようと、オーフェンはわずかに目を逸らした。
それでも繋いだ手は離したくない。
「見なかったことにするけど、覚えててもいいか?」