9.どうすればいい? 


会議の内容は全く覚えていないが、終わった後クリーオウは早々に席を立った。
こちらを一度も見ることなく、ノートを抱えて部屋を出ていく。
オーフェンは彼女のことを、病人のようにどんよりとした瞳で見送った。
「お前さん、大丈夫か?」
こちらの様子を見かねたらしいサルアが、がたがたといすを引っ張ってくる。
オーフェンは彼を一瞥して、適当に手を振った。
「どーでもいいだろ」
自分で言っておきながら、返事としておかしいような気がする。
けれどそれこそ『どーでもいい』。
彼は力なくいすの背もたれに体重をあずけた。
「お前のそんな様子は見たことがない。だからこそ原因が分かる気がする」
(どーでもいい)
どうせこの男は、自分をからかって楽しみたいだけだろう。
いつだって退屈しているのだから。
次々に部屋を出ていくメンバーをぼんやりと眺めながら、オーフェンは黙殺した。
「原因はあの嬢ちゃんだろ」
「…………」
当たっていたが、答える必要を感じず、オーフェンは白い天井を見上げる。
この色が黒ずむまでこの船を使い続ける計画が立っていたが、すでに興味を失っていた。
彼女が微笑んでくれないのなら、このままいっそ諸共に沈んでも?
「嬢ちゃんは怒ってる。どうして怒ってるのか、お前には理由が分からない」
凶悪な妄想を、あわてて振り払う。
サルアの声がなければ危なかったかもしれない。
オーフェンは現実に意識を留めるよう、サルアの声に集中しようとした。
「でも俺はその理由を知ってる。俺の言う通りにすれば、嬢ちゃんの機嫌も一発で直るだろう」
予想外にも重要な情報を持っていたらしい。
オーフェンは思わず尋ねていた。
「……どうすればいい?」
助言を請うのは癪だったが、こだわっていても仕方がない。
自分たち以外はすでに全員が退室していたらしい。
それを確認して、改めてサルアの顔を見た。
サルアはオーフェンの気を引いて満足したのか、心底嬉しそうにしている。
「ありゃな、やきもちだ」
「やきもち?」
意味が分からない。
オーフェンは眉をひそめて、続きを促した。
「愛されてるようでうらやましいねぇ」
「いいから、続きを言えよ」
おどけようとするサルアに、凄みをきかせる。
彼は動じず、むしろいたずらをする子供のように笑った。
「お前さんはすでに誰かとできてるって思ってんだよ。嬢ちゃんはずっとお前さんを追っかけてきたのに、他人のもんになっててどうしていいか分からなくなったんだろう。で、さしずめ自分にかまうなとでも言ってきたんだろ?かわいそうに」
「……なんだってそんな勘違いを?」
オーフェンは誰とも深い関係になどなっていない。
そういう勘違いをされるようなことをした覚えもないし、理由が分からなかった。
なぜこの男が知っているのかも疑問である。
だが、彼は尋ねた。
それにサルアはまたもや楽しそうに言ってくる。
「俺が吹き込んでやった」
「!おっまえ……!」
かっと頭に血が昇る。
するとサルアは意味もなく手を振って、照れたように笑った。
「いや、船ん中って何もすることがなくてよ。ちょっと暇つぶしに。あの嬢ちゃんもコロっとだまされてなぁ。さっき見たらお前さんらが予想以上に深刻な顔してて、さすがにやばかったかなと。まー笑えたからいいが」
「殺すぞ、本気で」
がたっと立ち上がり、うつろな目でサルアを見下ろす。
こぶしを握ると、彼は顔を引きつらせた。
「いや、だからちゃんと説明したじゃねーか。誤解を解けってんなら俺が今から行ってこようか?」
「……もういい。何もしないでくれ」
これ以上ややこしい事態になってほしくない。
こぶしを下げると、サルアはほっと息を吐いた。
「変なことしやがったらお前を海に放り込んでやるからな」
にらみつけて、宣言する。
了解の印か、サルアは降参というように両手を上げた。
2009.1.28
お前か原因は!?
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