5.原因を思いつけない。 


船は広く、散歩をするのには事欠かない。
けれどオーフェンは、とある部屋の前をひたすら行ったり来たりしていた。
もちろん、いうまでもなくクリーオウの部屋の前である。
たとえ広い船でも一人一部屋与えられるほどの余裕はなかったが、『何かあったときのための部屋』というのが用意してあった。
突然参加することになったクリーオウには、とりあえずそこを使ってもらっている。
四人部屋だったが、おそらく到着まで一人で使うことになるだろう。
そんな部屋の前を、オーフェンは苦い顔でうろうろしていた。
何人かが不審そうにこちらを見て過ぎ去っていったが、甘受するしかない。
メッチェンが出てきてクリーオウの様態を聞くまでは、彼はそこにいるつもりだった。
暇だと思われても、心配なのだ。
しばらくして、困ったような表情をしたメッチェンがクリーオウの部屋から出てくる。
こちらを見つけると、驚いたように目をぱちくりさせた。
「まだいたの?」
どういう意味だろうか。
引っかかったが、オーフェンはそれには答えなかった。
「クリーオウは?やっぱり船酔いだったか?」
「ああ、つわりみたい」
「はあ!?」
予想外の展開に、オーフェンは硬直した。
(つわりって……)
父親は誰だと思いつくまま男の顔を並べていって、コルゴンに当たった瞬間、殺意を抱く。
「冗談よ」
「えっ」
くすっと笑ったメッチェンに、オーフェンはぽかんとした。
「そんなこわい顔するってことは、自分が父親だとは思わなかったってことよね。まだくっついてないの?」
「いや、そんなまさか。俺なんかが……って、笑えない冗談はよしてくれ。クリーオウは?」
色々な考えがごちゃまぜになってわけが分からないが、オーフェンはそこをおさえた。
するとメッチェンは、分かりやすく頬杖のポーズで悩む。
「船酔いじゃないみたい。彼女も違うって言ってたし。寝不足みたいだけど」
「それは俺も聞いた。けどそんなくらいであの様子はおかしいだろ」
「ええ。だからわたしも聞いたわ。何か悩みがあるんじゃないのって」
「…………」
メッチェンには悪いが、それは愚問だった。
悩みなどいくらでもあるだろう。
こんな、どこへ行くか、どうなるかも分からない船に乗って、悩みがない方がおかしい。
「彼女は何も言わなかったんだけど。でもあなたが絶対にしつこく聞いてくると思ったから、わたしも食い下がったのよ。そしたら」
「そしたら?」
「オーフェンが……って。泣きそうな声で。あなたが何かしたんじゃないの?」
「え?」
そう言われて、オーフェンはクリーオウに会ってからのことをずらずらと思い浮かべた。
特に彼女が傷つくようなことを言ったつもりはない。
昨日別れるまでは、クリーオウは本当に楽しそうにしていた。
原因を思いつけない。
「他に何か言ってなかったか?俺が何かしたとか何か言ったとか」
「言ってないわ」
焦って聞くが、メッチェンはきっぱりと首を振る。
そして忠告をするのも忘れなかった。
「あまり問い詰めるのも良くないと思ったから、切り上げてきたの。あなたも無理に話しかけないで、距離を置いた方がいいんじゃない?原因を思いついたら会ってみれば?」
ひらひらと手を振って、任務はこれで完了したといわんばかりにさっさと歩いて行く。
そんな彼女の後姿をながめながら、呆然とする。
(俺が……)
続きが分からず、オーフェンはクリーオウがいるはずの部屋の扉をぼんやりと見つめた。
2009.1.21
メッチェン冗談言うんだー。
オーフェンさんストーカーみたいよ?
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