6.誰だって苛立つことはあるけれど。 


結局その日――まだ夕方だが――は、クリーオウのことが気になって仕事に集中できなかった。
オーフェンができることはほとんどないが、それでも仲間には迷惑をかけたと思う。
けれどどうにか仕事を終え、あとはすることもなかったので、彼は気の向くまま船のデッキへ来ていた。
デッキはどの階にもあるが、ぐるりと景色を360度眺められるのは一階と三階だけである。
一階の場合、部屋を囲むようにして設けられているので、その場で海の全てを見渡せることはできないが。
その一階のデッキの船尾を選んだことに理由はなかった。
ただ外に出るための最短距離を歩いたらそこだったというだけで。
何の導きかは分らない。
けれどオーフェンが最初に見たのは、クリーオウの後姿だった。
手すりに体重をあずけるようにして、少しも動かず夕日を眺めている。
強風に、まだ肩より少し長いだけの透き通った金髪がなびいていた。
オーフェンは息をのんで、その光景を見つめる。
それは美しく、同時に儚げですらあった。
飾り気のない服装なのに、むしろそれが相応しいと思わせるような姿。
自分などがその完成された世界に入り込むのは愚かだとさえ感じたが、オーフェンはゆっくりと彼女の近づいて行った。
「クリーオウ」
風に逆らって声を届かせるために、強く名前を呼ぶ。
するとクリーオウはびくりと肩を震わせ、指で目元を拭う仕草をしてから、こちらを振り返ってきた。
「オーフェン……」
目が赤く見えるのは、夕日のせいばかりではないだろう。
オーフェンは眉をひそめて、手を伸ばせば触れることのできる距離まで近づいた。
「泣いてたのか?」
「べつに。泣いてないわよ」
怒ったような声で、クリーオウが答えてくる。
嘘のような気がしたが、オーフェンはそれを信じることにした。
「体調は?もういいのか?」
「平気よ。休ませてもらったし、もう大丈夫」
「そうか」
安心してうなずく。
たしかに、朝別れた時より顔色はマシになっていた。
ただ、今度は何かに腹を立てているように感じられる。
誰だって苛立つことはあるけれど、笑ってくれればいいのにと、オーフェンは思った。
「それなら夕飯でも一緒にどうだ?まだ早いかもしれんが、もしかしたら特別に用意してくれるかもしれないぞ?」
「いらない。食べたくないの」
「……体調が悪い時は無理してでも食べた方がいい。みんながいるとこがつらいなら、部屋に持って行ってやろうか?」
ぽんぽんと、彼女の頭を撫でる。
クリーオウはうつむき、それからオーフェンの手を跳ねのけた。
怒りのこもった瞳で、彼を睨みつけて叫ぶ。
「そんなことしてほしくない……!わたしのことは放っておいて!」
オーフェンが口を開くよりも早く、彼女は逃げるように船内へ走って行ってしまった。
(なんで……?)
気に障るようなことを言ったつもりはない。
しかしクリーオウは、見たこともないくらいこちらに対して苛立っていた。
(どうして……うまくできないんだろう)
彼はゆっくりと息を吐き出して、クリーオウと同じように海を眺めた。
夕日は思っていた以上に眩しく、そして熱を発している。
彼女が見ていたのはこの赤い夕日だろうか。
それとも、もう影すらもなくなってしまったキエサルヒマ大陸か。
帰してやろうにも、いつになるかも、必ず帰せる保証もない。
オーフェンの心臓が、傷があるかのように鈍い痛みを訴えかけていた。
2009.1.25
けんかだけんかだー!
彼らは私の意識とは別にロマンチックなシチュエーションを選びます。
私はフツーに船内の薄暗い廊下で鉢合わせ、とか考えてたのにぃ。
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