4.困るのは僕のほうなんだから。 


結局クリーオウを一人で部屋に帰すことにしたが、無事に着いただろうか。
オーフェンの目がないからといって、仕事をしに行ったりはしていないだろうか。
あの状態で出歩くのは、はっきりいって無茶である。
時間が経つにつれ、明らかに口数が減っていたし、どんどん顔色も悪くなっていった。
「……あ」
今ごろ思いついて、間の抜けた声を出す。
もしかすると、船酔いかもしれない。
オーフェンは平気だったが、すれ違う人々――特にデッキにいる――青い顔をした者も少なくなかった。
船酔いなのだとしたら、気楽そうにしゃべるオーフェンがそばにいるのは苦痛だっただろう。
オーフェンはくるりと歩く方向を変え、とある部屋を目指した。


コンコンと、やや強めの力でその部屋の扉をノックする。
エンジン音が常に響いている船内では、それくらいしないと聞こえない。
しばらくして扉を開けたのは、彼の目的の人物と同室であるサルアだった。
「お前か。何だ?」
「メッチェンいるか?」
「?ああ」
サルアはやや眉をひそめるが、おい、と部屋の中に呼びかける。
幸運なことに彼女もまだ部屋にいたようで、すぐに顔を見せた。
「何かしら」
「悪いな、早くから」
「……どうかした?」
なぜか怪訝そうに、彼女。
オーフェンは首をかしげたが、こほんと咳払いをした。
「あのな、あいつ――クリーオウのことなんだが」
「ええ」
「気分があんまり良くないみたいなんで、様子を見てきてやってくれないか?」
「おっ」
彼はメッチェンに頼んでいたのだが、そばで話を聞いていたサルアが、嬉しそうに目を見開く。
オーフェンはちらりとそちらを見やったが、すぐにメッチェンに視線を戻した。
「船酔いでもしたんじゃないかと俺は思ってる。とりあえず朝食は食べてた。少しだけど。クリーオウには部屋に戻るように言ったから、あいつがこっちのことを聞いてくれたんならいるはずなんだが」
「了解。少ししたら行くわ」
これも仕事のうちだと思ったのだろう――ため息を吐いて、彼女は準備のためか部屋に戻っていく。
その後ろ姿に、オーフェンは声を投げかけた。
「悪いな。迷惑をかける」
「優しいじゃねーか」
にやにやと、おもしろがるようにサルアがこちらの腕を肘でつつくいてくる。
からかわれているのが分かって良い気分ではなかったが、オーフェンは答えた。
「困るのは俺のほうだからな」
「へえ。どうして。てっきり暴走娘が大人しくなってラッキーだと思ってるかと」
酷いことを言う。
「……あいつが元気ないと、俺の気苦労が増える」
オーフェンは眉をひそめ、ぽつりと呟いた。
せっかく会えたのに、明るいクリーオウが見られないのは寂しい。
たとえ船酔いであっても、体調がすぐれないというのも不憫だった。
クリーオウが近くで笑っていてくれないと、他のことに集中できない。
「ふーん、なるほどね。けど俺はあの嬢ちゃんが元気ないのは船酔いしてるからじゃないと思うけどな」
相変わらずにやにやと、サルアは言ってきた。
「どうしてそう思う?」
「いや、まぁ何となく」
「?」
「お待たせ」
疑問に思うが、問い返すよりも先に部屋からメッチェンが出てくる。
「すまん。じゃあ行こうか」
オーフェンはうなずいて、彼女とクリーオウの部屋に向かった。
2009.1.20
クリーオウをおさえてこの二人が自然に出てきた。
そんなつもりなかったけど、そういうのは嬉しい。
っていつも言ってますね。
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