1.昨日より少しだけ素っ気無いような。 


ほんの少し前までは暗かった景色が、鮮やかに目に映る。
いつの間にか猫背気味になっていた背筋が、このところぴんと伸びた。
なぜか体が軽く、それこそ羽が生えたような気分。
同様に、オーフェンの気持ちも浮足立つようだった。
世界に一人でも――例え暫定的であったとしても、自分のことをいちばんに気にかけてくれる人がいる。
それは何よりも難しく、貴いことだと今さらながらに思い知った。
「クリーオウ」
オーフェンはここ最近ではかなり機嫌の良い声のトーンで、その娘の名前を呼んだ。
彼女こそが、誰よりも自分のことを心配してくれるその人である。
アーバンラマに来てからはまだ日が浅いが、早くもこちらの生活になじんだようである。
「朝食か?」
ホテルの廊下を歩くクリーオウの隣に並び、彼は聞いた。
プランの関係者が買い取ったこのホテルは、もうずいぶん長い間使われていない調理場しかない。
そのため食事をするには、ホテルの外に出るしかなかった。
ホテルから少し離れたビルに、プランに参加する人間のための無料で食事を配る施設がある。
何か他に理由がなければ、オーフェンも基本的にそこで食事をしていた。
今まではそのほとんどが、一人きりの利用だったが。
「そうよ。オーフェンも?」
「ああ」
うなずく。
いつも朝食を摂る時間は眠っていたのだが、彼女が来てからはそうでもない。
慣れない場所からでは分からないことも多いだろうと、クリーオウのことをなるべく気にかけるようにしていた。
何より、彼女と話していて飽きることはない。
そこまで思い浮かべて、オーフェンは階段を降りながら首をかしげた。
「お前、めずらしく静かだな」
明らかに口数が少ない。
昨日までは質問攻めにされていたというのに、あの勢いがまるで嘘のようだった。
「体調でも悪いのか?」
多忙な毎日を送り、休みになったとたん体の調子を崩すということはよくある。
クリーオウの場合は特にこれまで酷かったと聞いているので、寝込んでもおかしくはないように思えた。
心配して、クリーオウの顔をのぞき込む。
室内にいるためはっきりとはしないが、顔色はあまり良くないようだった。
オーフェンの視線に気づいたのか、彼女は無理に明るい笑顔を作ってみせる。
「平気。ちょっと寝不足かもしれないけど」
「……無理しないで寝ててもいいんだぞ」
体を壊したりしては元も子もない。
せっかく安全な場所に来れたのだから、ゆっくりと休むべきである。
それをしても誰も文句を言わないだろうし、言わせるつもりもオーフェンにはなかった。
(なんなら、俺がそばにいてやってもいいけど)
出かかった言葉を飲み込んで、クリーオウの青い瞳を見る。
階段を降り切ったとき、彼女は困ったように足を止めた。
「わたしがいるとみんなの邪魔しちゃう?」
傷ついた表情で言ってくる。
オーフェンはあわてて首を振り、ぽんとクリーオウの金髪の頭を叩いた。
「悪い。そうじゃなくて、単に心配なんだよ、俺は。疲労もたまってるだろうし」
「ありがとう。でも大丈夫だから」
たたっと、ホテルのエントランスから出る。
朝日を背に受けながら、クリーオウはにっこりと言ってきた。
「早く行きましょ、オーフェン」
そのまま元気よくホテルを出て駆けていく。
朝っぱらからあのパワーはどこから出ているのやら。
相も変わらず、クリーオウは元気そうだった。
ただ気になるといえば。
(昨日より少しだけ素っ気ないような?)
昨日までのクリーオウはこちらにからみついてきたのに、今日はさりげないよそよそしさがある。
けれどそれも朝のせいだろうか。
ホテルから出ると、オーフェンは強烈な朝日に身を竦ませた。
手をかざして目もとに影を作りながら、クリーオウの姿をさがす。
彼女がいてくれるおかげで、今日も一日楽しく過ごせそうな気がした。
2009.1.15
さて、クリーオウはなぜよそよそしいのか。
もう決まってるけどまだ内緒(笑)
もっとコメディのはずなんですがね。ううむ。
まだオーフェンがクリラブをおおっぴらにできないからなー。
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