8.心地いい沈黙もあるけれど、今回のは違う。 


「クリーオウ」
考えても考えても分からない。
オーフェンは意を決して、会議室に来てから黙り込んでいる彼女に呼びかけた。
するとクリーオウは、気まずそうに顔を上げてこちらを見る。
気遅れを解こうと、オーフェンはあいまいな表情で笑いかけた。
「悪かったな、昨日は」
「……どうしてオーフェンが謝るのよ」
こちらの謝罪に、クリーオウは不服そうに顔をしかめる。
けれどオーフェンも、とりあえず何でもいいので謝っておこうと思ったわけではなかった。
自分は自分なりに反省する点を見つけて、謝罪したのである。
「きっと俺も、色々と無神経なことしたんだと思って。気を許せる相手がいるからって、お前に甘えすぎてた」
「……」
クリーオウは何も言ってこない。
だが悲しそうな怒ったような表情を作った。
「他にも色々と俺に対して不満なことがあるんだろうけど……それは本当に分からなくって……。言ってくれると、助かる。悪いところがあったら直すよ」
まるで恋人に対する謝罪のようだった。
しかも別れ話を切り出され、考え直してくれとすがる側の。
似たようなものだろう。
それを認める。
クリーオウに突き放されるのは寂しい。
彼女はそれにますます悲しそうにすると、ゆっくりと深く息を吐いた。
何かをこらえるように、オーフェンに向き直る。
「オーフェンに悪いところなんてないわ。わたしのことを気にしてくれるのも嬉しい」
にっこりと、悲しそうに笑ってみせた。
どうしてそんな風に微笑むのか、オーフェンには理解できない。
「ごめんね、嫌な態度取っちゃって。昨日は……心配してくれたのに、怒鳴ったりして、ごめん」
謝ってくれているのに、何かが決定的に違う。
わけが分からず、オーフェンはクリーオウを見た。
「ごめんね、まだ未熟で。だからね、わたしがもっとしっかりするまで、オーフェンとは少し距離を置いてもいい?そうしないと、わたしまた昨日みたいに癇癪を起こすと思うの。それはしたくないから」
どうしてかと、その理由を聞きたい。
けれど、それをする余地がなかった。
「……分かった」
声はしゃがれてしまったが、何とかそれだけを絞り出す。
――他に何が言えるというのだろうか。
自分が言ったのだ、望むことを言ってくれと。
それが希望とかけ離れていたからといって、撤回してくれと頼めるわけがない。
涙が出てきそうになるのを必死でこらえて、オーフェンは唇をかんだ。
なぜこんなにも悲しいのか、自分にも分らない。
ただ、何か大切なものを失ったような感覚を覚えた。
あとは沈黙するしかない。
逃げ出したくなるような重圧。
心地いい沈黙もあるけれど、今回のは違う。
すでにクリーオウのことを見ることができなくなり、一気に部屋が暗くなったように思えた。
そこに、ノックの音。
つい先刻まで待ち望んでいたはずだが、今となってはどうでもいい。
オーフェンは気だるい思いで、顔を上げる。
部屋に入ってきたのは、意外にもサルアだった。
定刻前に来るのはめずらしい。
彼はオーフェンとクリーオウを見比べて、にやっと顔を歪めた。
「何だおい、けんかか?にしては葬式みたいな空気だが」
冗談にもならない言葉を吐き、ひとりでげらげらと笑っている。
何も言う気になれず、オーフェンは沈黙を続けた。
2009.1.28
げろ楽しい。
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