威嚇のつもり

男とは違い、女性は何かにつけてめんどうであると思う。
ファッションもそうだが、特に化粧が重要らしい。
毎日毎日早起きをして、少しでも綺麗にみせようとメイクをほどこす。
あまり過剰になってくるとそれもまた困るが、クリーオウの場合は適度であると彼は感じていた。
とても自然で、それでいてほんのり色づいている。
彼女はいつも春のように淡く、鮮やかだった。
そのはずなのだが。
「じっくり見ないで!}
なぜかその日、クリーオウは両手で盾を作り、オーフェンからの直視を嫌った。
「……どして?」
「化粧道具が足りなくてちゃんとできてないの!」
出先だから、ということだろう。
けれどぱっと見ただけでは、いつもとどう違うのか、オーフェンには分からなかった。
「普通にかわいいと思うけどな」
思ったことを素直に伝える。
するとクリーオウは、照れのせいか顔を赤くした。
手で作っていた盾はもう下ろして、こちらをにらみつけてくる。
威嚇のつもりだろうが、それすら愛らしい。
彼は満足して、笑顔でうなずいた。
「それに、化粧してない素顔だってお前が十七の頃から見てるんだから今さらじゃないのか?」
「そうだけど……」
やや不満そうにして、クリーオウがうめく。
金髪に口付けると、彼女は複雑そうな表情でこちらを見上げてきた。
もう隠すことはあきらめたのだろうか。
おかげでクリーオウの表情が良く見えたが、やはり彼にはどこがどう違うのかは分らなかった。
ただ、いつもよりは柔らかい印象ではある。
それはそれでかわいいと思うし、普段よりも劣っているなどとは微塵も感じなかった。
「今のままでも十分かわいいと思うけど。で、何が違うんだ?」
「え?」
青い瞳をぱちくりさせる。
数秒間見つめ合うと、クリーオウは失望したように口をへの字にした。
「マスカラが足りないの」
「マスカラ?」
「そう。まつ毛にね、ボリュームつけたり色をつけたりするんだけど」
「そんなことわざわざしてるのか?」
彼女の金色のまつ毛は、何もしなくてもとても長い。
まばたきをする度光が反射するのか、微かに光って見えた。
けれど、クリーオウは満足していないらしい。
オーフェンが褒めても、素直に喜んではくれなかった。
苦笑してから、もう少しがんばっておだててみる。
「マスカラがなくたって、十分かわいい」
「…………」
「そのままでも誰にも負けてないと思うぞ」
色々女性を見回しても、やはり最後にはクリーオウに戻ってしまう。
そして彼女の顔を見ると、オーフェンはいちばんかわいいと心の底から思うのだ。
「……がんばってるのに」
「そうやってがんばってきたから、こんなにも綺麗になったんだろうさ」
ぽんぽんと、褒めるように頭を叩く。
ようやく納得したのか、クリーオウは照れたように笑ってくれた。






2009.3.12
プーペにマスカラがあったことを知り、同時にそれが手に入らないのだと知り、こんなんでウェディングドレス着なきゃいけないの!?とショックだったんですけど、マスカラなくたって充分かわいい。
オーフェンもきっとそう言ってくれますよね。
でもこのオーフェンはきっと別人ですよね。
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