普段めったに泣かない君が

人を好きになると、その相手のために何でもしてやりたくなる。
相手の喜ぶ顔が見たくて、何をしようか頭をひねる。
毎日毎日気の利いたプレゼントを贈るとか、物理的にも金銭的にもできるわけがない。
ゆえに些細なことしかできないでいるが、それでも彼女は笑ってくれた。
例えば料理がおいしかったと言うとか。
目が合うと笑うとか。
微笑まれればキスをするとか。
半分近くが自分のためではあるが、クリーオウはいつも喜んでくれた。
さて、今日は何をしようか。
何をしてクリーオウを喜ばせようか。
どうしたら喜んでくれるだろうか。
歌や手紙は、贈ってみたいが得意分野ではない。
「他になぁ……」
天井を仰いで、呟く。
べつに、思いつかないのなら無理をすることもないのだが。
こうしてひとりで悩んでいる時間も、実は好きだった。
「オーフェン?どうしたの?」
のんきに考えている最中に、当のクリーオウに声をかけられる。
タイムアップだと気付いて、オーフェンは苦笑した。
「クリーオウ、今時間あるか?」
苦笑をかみ殺し、くるりと彼女の方を向く。
「あるけど、何?」
「散歩にでも行こうか」
「……今?」
疑わしそうに、クリーオウが訊いてくる。
すでに夕食を終え、外も暗いのでクリーオウがすぐに返事をしないのも無理はないだろう。
彼が散歩と言ったのもただの思いつきなので、絶対に行かなくてはいけないというわけでもなかった。
二人で夜を歩きたいと思ったのは本当だが。
「そうね。行こっか」
「……本当に?」
拒否しなかったことが意外で、逆にオーフェンが問い返してしまう。
するとクリーオウは、案の定頬をふくらませた。
「オーフェンが行こって言ったんじゃない」
「まーそうだけど。まだ寒いから、何か上に着ろよ」
「うん、コート持ってくる」
うなずくと、早速彼女は服を取りに部屋を出て行ってしまう。
彼もそれにならって、羽織るものを探した。


もう春になったとはいえ、夜は冷え込む。
おかげで空気は澄み、星が良く見えた。
どちらともなく手を繋ぎ、空を仰ぎながら呟く。
「綺麗だな」
「うん。綺麗ね」
息はまだ白く、すぐに夜に溶けていく。
まわりは静まり返っており、だからなのか頭の中で歌が流れた。
その歌詞の一部分を、何となく声にしてみる。
昔はただ聴いていただけだったそれは、恋唄だったようだ。
それに自分たちを重ねるわけではないが、悪くはないと思う。
まだ稚拙な自分では無理だが、いつか本当に彼女に伝えることができるなら。
そう考えながら、隣のクリーオウを見下ろす。
「って、泣いてんのかよ!?」
クリーオウは手を繋いでない方の手で、うつむきながら目元をぬぐっていた。
オーフェンが気付いたからか、鼻もすすっている。
「だって、オーフェンが……」
「あー……さっきのは……昔聴いてた歌の歌詞で……」
罪悪感で満たされながらも、オーフェンは正直に答えた。
本当の気持ちは、盗作ではなく自分の言葉で伝えたい。
言うと、クリーオウは傷ついたようにこちらを見上げてきた。
口をぱくぱくさせているが、声にならないのだろう。
オーフェンは気の毒に思って、彼女の頭に手を乗せた。
「いつかちゃんと言うから、それまで待っててくれるか?」
まだ言葉にできない。
代わりに、オーフェンはそっと彼女を抱き寄せた。







2009.3.7
安心して涙が出たのでこのタイトルを選んだのですが、あれ違う話に?
どこもうさぎチックじゃないなー。
ていうか全体的に失敗。
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