聞けない理由


肩より少し長くまで伸びた金髪を、オーフェンは複雑な思いでながめた。
彼女の髪は、再会したときよりも幾分か長くなっていた。
あの頃より時間も経過しているので、どれを比較しても変わっているのは当然かもしれない。
そしてその変化の最たることは、自分達がこうして一緒に暮らしていることだろう。
それがとても穏やかで自然なことが、彼はとても不思議だった。
「クリーオウ」
オーフェンは彼女の名前を呼ぶ。
斜め前のソファに座っていた彼女は、顔を上げ明るい表情で彼を見た。
「なに?」
ずっと黙っていたのだが、どうやら機嫌は悪くなかったらしい。
呼べばこちらに寄ってくると思っていたが、彼女はその場で首をかしげている。
離れた場所にいるわけでもないし、ごく普通のことなのだろう。
勝手な思い込みに苦笑して、オーフェンは彼女の隣へ移動した。
大きめのソファではあるが、あまり距離を取らずに彼女のすぐそばに座る。
「どしたの?」
聞かれるが、理由があっての行動ではない。
「べつに」
他にもっともらしい理由を思いつけなかったので、オーフェンはどうとでも取れる返事をした。
クリーオウの金髪を指で抄う。
羽のように柔らかくすべらかな髪は、カーブを描きながらすぐにオーフェンの指から滑り落ちた。
髪の長い姿を良く知っていた自分は、肩を過ぎていてもまだ短いと感じる。
当初はもっと短かったと言っていたから、この長さでもずいぶん髪が伸びたのだろう。
それだけに、あれだけ伸びた髪をばっさり切ってしまうのは、オーフェンには信じられないことだった。
なぜか、と聞いたことはない。
クリーオウなりの決意や、覚悟や、それに似た感情からだと思う。
少なくともオーフェンのために切ったと思い込むほど、うぬぼれてはいなかった。
細い髪をもう一度指に絡めて、なんとなく口付けをする。
同時に息を吸い込むと、彼女の金髪からは微かに甘い香りがした。
「どうしたの、オーフェン?」
驚いたように、クリーオウは目を丸くして聞いてくる。
ふと我に返って思い返してみると、自分でも異常な行為を取っていたようだった。
(けど別に、いいんじゃねーか?)
今さら触れ合うことを遠慮する仲ではない。
それでも違和感があるというならば、いつものようにすればいいだけだ。
オーフェンは彼女の金髪を再度指で梳いた。
「いや、髪が伸びたなと思って」
「あ、うん。そうね」
「また伸ばすのか?」
「うん。そのつもり」
うなずくと、クリーオウは嬉しそうにこちらの目を覗き込む。
「オーフェンは長い髪の方が好きなんでしょ?」
「俺、そんなこと言ったことあったか?」
「そうだっけ?」
クリーオウは不思議そうに首をかしげる。
女性の髪形の好みを伝えた覚えは無い。
が、長い髪の彼女を気に入っているのも事実だったため、彼はそれ以上は強く弁解することはしなかった。
彼女はまだきょとんとした表情で疑問符を浮かべている。
それにオーフェンはうすく笑って、もう一度クリーオウの金髪を撫でた。
髪の長さにこだわりはない。
彼女が彼女らしければ、それでいいと思っている。
オーフェンは彼女の頬を手でなぞり、あごに手を添えた。
するとクリーオウはふわりと笑んで、瞳を閉じる。
いったい、いつからこんな雰囲気もこんな行為も自然に受け止めるようになったのだろうか。
吸い込まれそうになるのを自覚しながら、彼は口付けを交わすために目を閉じた。




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