濡れた髪を


一日のしめくくりは、やはり入浴だとクリーオウは信じていた。
体の汚れをすべて落とし、湯船に浸かって気持ちを落ち着かせる。
それは毎日の習慣で、楽しみでもあった。
しかし癒される反面、めんどうもある。
誰でも例外はないだろうが、クリーオウは髪が長いために、乾かすにも相当な時間を必要としていた。
洗うのも乾かすのも手入れするのも、長い分だけ人並み以上に労力を使うのだ。
かといって、洗わないまま放っておくことはしたくない。
いつもめんどうで仕方がなかったのだが、オーフェンと暮らすようになってから、それはがらりと変化した。
ベッドの上に座り髪をタオルで拭いながら、変化はいつからだったかとぼんやり考える。
オーフェンが彼女の髪を乾かす手伝いをしてくれるようになったのは、暮らし始めてどのくらい経ったときからだろうか。
きっかけ――というか、はじめて手伝ってもらったときのことは覚えていない。
けれど、今でも飽きもせずに毎日乾かしてくれるからには、この作業というか時間というか、とにかく、その行為が好きだからだと、クリーオウは勝手に思っていた。
あるいは乾かさずに放っておいて、水分を含んでしまうシーツや濡れて冷たい彼女の髪に触れることに彼が辟易したのかもしれない。
冷たい思いをするくらいなら、めんどうでも自分でやった方が良いと。
後者であれば少し申し訳ないと思うが、特に文句を言われたことがないので、やはり趣味に近いのだろう。
クリーオウが一人で納得したところに、彼が自らの黒髪をタオルで拭きながら部屋に入ってきた。
あのくらい短ければ、乾くのも早いだろうと長い髪をうらめしく思う。
「オーフェン、お風呂の窓開けてくれた?」
色気のない、生活感あふれた質問だった。
が、同時に譲ることのできない確認でもある。
持ち家で暮らしていく以上、カビの発生は断固として阻止したい。
「お前、毎日その質問してるぞ」
「だって気になるのよ。もし開けるのを忘れてても、言っておけば最悪の事態を防げるでしょ?」
「はいはい」
うんざりしたように答えるからには、今日もオーフェンは窓を開けてくれたらしい。
心配の種が消えて、これでようやく安心できる。
ほっと一息つくと、その間にオーフェンはベッドに上がってきた。
そして当然のように彼女のすぐ後ろに陣取り、何も言わずにクリーオウの髪をタオルで拭く。
さらには、魔術でとても温かい光を作って髪に近づけた。
こうすると水分が蒸発して、タオルを使うだけのときよりも何倍も早く髪が乾く。
オーフェンは毎日何気なくしてくれているが、かなりの魔術の腕がないとできないだろうと、実は密かに思っている。
とても贅沢な魔術の使い方で、それは彼と一緒に暮らしているクリーオウだけの特権だった。
少なくとも、他の魔術士にはしてもらったことがない。
それを別にしても、タオルで頭をマッサージまでするというには、やはりこういったことが好きでないととてもできないと思う。
(甘やかしすぎよね。……わたしも甘えすぎだけど)
けれどこうやって甘えること自体を、クリーオウは悪いことだとは考えていなかった。
(甘えられるときに甘えないで、いつ甘えるっていうのよ)
濡れた髪がだいぶ解れてきた。
けれど完全に乾くまではもうしばらく時間がかかるだろう。
髪がまだ冷たいことが気になるが、クリーオウは仰向けに倒れるようにして彼の胸にもたれかかった。
見上げると、オーフェンはこちらのわがままを全て受け入れようとしているかの表情で、おかしそうに口のはしを上げている。
彼女はいたずらっぽく笑い、両腕で彼の頭を抱き、引き寄せた。
不自然な体勢でうまくできないが、かろうじて唇同士が触れ合う。
一度唇を離すと、今度は彼の方からもっと深いキスをくれた。




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送