髪を切る


髪の毛は長ければ長いほど、当然ながら髪の質は悪くなっていく。
毛先のほうが痛むのは、もう何年も前からが外気にさらされているからだ。
古い髪ほど、艶はなくなり痛んでいく。
「切っちゃおうかな、またバッサリ……」
見つけてしまった枝毛を指でつまみ、クリーオウは嘆息した。
手入れには充分は時間をかけている。
おかげで知り合いになった人たちからは綺麗な髪だと褒められることも多い。
だが、それにしたって枝毛を見てしまえば素直に喜ぶことができない。
いっそ短く切ってしまえば、こんな悩みからも解放されるだろう。
洗う手間も、乾かす時間も、今よりずっと短縮できる。
クリーオウはそれを知っている。
だが知っていてもそれを実行しないのは、オーフェンが長い髪の方が好きらしいからだった。
直接聞いたことはないけれど、ただなんとなくそうではないかと思っている。
隣にいる彼に、ちらりと目をやる。
先ほどの呟きは聞こえていたみたいで、オーフェンは彼女の方を向いていた。
あからさまに驚いてはいないが、全ての動作を止めている。
髪のことで口出ししたりはしないけれど、そんな態度でなんとなく感じるのだ。
「どう思う?」
しかし本当のところはどんな髪型が好きなのかは知らなかったので、クリーオウは直接聞いてみた。
「どう思うって」
「短い方が似合うと思う?」
「まぁ……似合ってた……かな」
あまり明確ではない答え。
「長い方が好き?」
「さあ……」
さらにわかりにくくなる。
クリーオウが勝手に長い髪の方が好きだと思っているだけで、本当は長くても短くてもどちらでも良いのかもしれない。
けれど、できるならオーフェンの好みに近づきたい。
「どっちなのよ……」
不満を吐きつつ、クリーオウは彼の首に両腕をまわした。
不機嫌な顔をしながらも、キスを求める。
それに対してはすぐに答えが返ってきた。
甘い口付け。
激しくはないけれど、お互いを求め合うような口付け。
オーフェンは彼女の体を抱き寄せ、指に金髪を絡ませた。
髪を梳き、撫で、離してはまた絡ませる。
それは無意識だろうか。
それとも質問への返事だろうか。
考えてみればいつも、オーフェンは彼女の長い髪に触れていた。
例えばショートヘアにしたとして、彼の指は対象を失い手持ち無沙汰になるかもしれない。
想像すると、なんだか哀れな気がした。
けれど何より、クリーオウ自身が髪に触れられるのが好きなのだ。
オーフェンが金髪で遊んでいるのを見ると、なんとなく幸せになれる。
唇を離す。
目が合うと、オーフェンは言葉にせずに短くするのかと問いかけてきた。
やはり先ほどの触れ方は、彼なりの主張だったのかもしれない。
らしくないことが不思議だが、答えてくれたことは嬉しい。
クリーオウはくすりと笑って、彼に啄ばむようなキスをした。
「今回はそろえるだけにしようかしら」
「そうなのか?」
またもはっきりしない返事。
だが、これ以上は意地悪をしてもかわいそうだろう。
オーフェンの好みもわかったことだし、今日はこれで許すことに決めた。




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