□ 生彩 □


木々のざわめく音、小鳥のさえずり、遠くに聞こえる川のせせらぎ。無数の葉を通して垣間見える濃い青をした空。まだ暑さの残る季節ではあったが、木々の生い茂る森の中では、熱した空気も心地良い温度に変化していた。
時おり吹く風も、爽やかに彼の頬を撫でていく。
「気持ちいいなあ……」
ぐつぐつと沸騰する鍋の中の料理をお玉杓子でかき混ぜながら、マジクは上機嫌で独りごちた。
道中で見つけた、無人になった家か遺跡かわからない建物。レンガ大の大きさの石を積み重ねて建てられたそれは、自然のゆっくりとした侵食を受け、あちこちを苔で覆われている。人が去って何十年―――あるいは何百年も経っているためか崩れている部分もあったが、一時の休息を求めて立ち寄った彼らにとっては些細な事に過ぎなかった。
マジクの位置から、二人の男女と一匹の小動物が見える。
一人は、全身黒ずくめという格好をした男―――彼の師である魔術士―――が、遺跡のふちに腰掛けている。そのすぐ隣には金色の長い髪をした少女。その彼女の友達―――ディープ・ドラゴンの子どもは、いつもの定位置ではなく彼女の細い肩に乗っかっていた。
そして、マジクの位置からは石の壁に阻まれて見えないが、すぐそばにロッテーシャがいるはずだ。見えなくても、彼女が何をしているのかだいたい想像がつく。彼女はいつも遠くを見つめ、必死に体を鍛えていた。
片手で料理をかき混ぜながら、マジクはもう一度二人の男女(と一匹)に視線を戻した。
自分の今いる場所からでは二人の会話は聞こえてこなかったが、ときどき彼らの頭が小さく揺れる。
風に運ばれ笑い声も聞こえてきたので、きっと楽しく話をしているに違いない。
(なに話してるんだろ……)
思いながらお玉に少量のスープをすくい、味見してみる。
鼻歌交じりに作った料理は、森で作ったとは思えないほど美味しく出来上がっていた。
「よし、上出来」
満足そうにうなずき、マジクは鍋を両手で持って立ち上がった。
「ごはんできましたよー。嬉しそうに何話してたんですか、お師様クリーオウ?」
師と少女はくすくすと破顔したままこちらを振り向く。
笑いながらオーフェンは先に立ち上がって、クリーオウを立たせてやっていた。
彼の手をかりて立ち上がった彼女は、そのままの笑顔でロッテーシャを呼びにいく。

瞳に映る世界は、どこまでも穏やかで、平和だった。






(2003.8.30)
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