「お前、出かけるときは勝手にひとりで行くんじゃねぇぞ」

そう言うのは君が心配でたまらないから。

「このへんは、かなり物騒なんだぞ。だから出かける時は俺にちゃんと言え。ついてってやるから」

そう言うのは君と離れたくないから。

長い時間離れるなんて、耐えられそうにない。

俺は君に溺れているから。



096:溺れる魚



「オーフェン」

……ああ。

「オーフェンてば」

……どうした?

「オーフェン、聞いてる?」

聞いてるよ。

ずっと聞こえてる。

「オーフェンてば」

少しでも俺を意識させるために応えないだけ。

「観光に行きたいんだけど」

「はいはい」

「あー、なんでそんな嫌そうな声出すの?オーフェンがどっか出かけるなら声かけろって言ったんでしょ?」

そうだよ。

そう言った。

「文句言うんならはじめからそんなこと言わなければいいじゃない」

「別に文句なんて言ってないだろ」

「だっていかにもめんどくさそうな声出してるんだもの」

「そりゃお前、新しい街に着くたび観光観光言われてりゃ……。あーもー、行くんなら早く行こうぜ」

「んー」

「なんだよ?」

「オーフェンて、お父さんみたいね」

「俺がお前の親父さんに似てるってのか?」

「そうじゃなくてね。そうよ、前にマジクが言ってたみたいにかいがいしく子どもの世話をする父親っていうか。お母さん猫?」

「猫かよ!しかもメス!?」

「ぴったりだと思うけど」

「ちなみに俺のどんなところが母猫なんだ?」

「えーと。子猫が悪さしないようにみはってるとことか」

「まぁそれなら確かにな。ウチの猫は無駄にやんちゃだなぁ」

「……それってわたしのこと?」

「そうだろ。お前がはじめに言ったんだし」

「別にわたし、面倒見てもらわなくても大丈夫なんだけど」

「……どこらへんが大丈夫なんだ?そう言いながらかなりの確率でトラブルがついてくるじゃねぇか」

だけど君はひとりでも対処できる。

君が心配なんじゃない。

「そうかしら」

「自覚がないのがなお悪い。あとで空しくなるくらいなら、めんどうでもお前の後をついて回って、トラブルの予防をしたほうがましだとやっと悟ったんだよ」

君を失うと死んでしまう自分のために、守り続ける。

「そう言う自分もトラブルメーカーじゃない」

俺は君に溺れているのに、

「うるせ」

君がいないと息もできない。

「否定しないってことは、認めてるってことよね」

「うるせーな。でもそれを百歩ゆずって認めるとしても、だ。被害の規模を考えるとお前の方がよっぽどひどいぞ」

酸素よりエサより君が欲しい。

「う……」

「否定せんてことは認めてるんだよな?」

狂ったようなこの感情を、君に伝えることはできない。

「もう。オーフェンが変なこと言うから観光に集中できないじゃない」

この想いは俺と君との関係を断ち切ってしまうから。

「おいこら、逃げるな」

君が俺に溺れるまで、

「オーフェン、あれがほしい」

それまでは、このままで。

「いい子にしてたらな」

なにも、伝えないままで。








(2003.8.12)

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