□ 六月は真紅のバラ □


愛、恋、嫉妬、秘密、恥じらい、自慢、恩恵、戦争


薔薇には花言葉が多くある。
そのどれもが情熱的で激しいものだ。
わたしの内にあるものは―――


六月は真紅のバラ



途中、立ち寄った小さな町。 そこで宿を取ることに決まったのだが、夕暮れにはまだ時間があるため、クリーオウはひとりで町を散歩していた。
目的もなく、ただ気の向くまま角を曲がる。
目茶苦茶に歩いてきたため、すでに帰り道など分からなくなってしまった。
が、小さな町なので宿ならきっとすぐに見つけ出せるだろう。
彼女はしばし、異空間にでも迷い込んだような感覚を楽しんだ。
夢見のような足取りで進んでいると、ふと何かの強い香りがした。
(なにかしら……)
それはどこかで嗅いだことのあるものだった。
見当をつけて香りのもとを辿る。
その先には、鮮やかな色で溢れた、小さな花屋があった。
店の前と中に色とりどりの花が所狭しと置かれている。
特に目を惹くのは店頭に並べられた赤い薔薇だった。
「綺麗……」
思わずつぶやく。
クリーオウは花を良く見るために顔を近付けると、香りがいっそう強くなった。
匂いの元は、薔薇だったらしい。
「いらっしゃい。まあかわいいお客さんだこと」
店の奥の方から声をかけてきたのは、中年の女性だった。
「綺麗ですね」
クリーオウは視線で薔薇の花を示しながら答えた。
「そうだね。薔薇っていうのは今が盛りだからね。種類もたくさんあるよ」
「そうなの?そういえばわたし、いつが盛りなのか知らないわ」
一年中花が咲くとはさすがに思わないが、花屋に行くといつでも薔薇は売られていた。
そのため薔薇が咲く季節というものを失念していた。
「今はハウス栽培もあるからね。一年中いつでも買えるようになったけど。今がいちばん良い時期だよ、薔薇は」
「へえ……」
言われてみれば、確かに数も種類も多い気がする。
何より、薔薇の放つ香りがいつもより数段強かった。
「じゃあ、一本もらうわ」
「ありがとう。どれにする?」
「やっぱりこの赤いかしら」
するとその女性は、どういうわけかくすりと微笑む。
「はい、これね。包むからちょっと待ってね」
「いいです。このまま持って帰るから」
「そう?だったらリボン結んであげるね。刺に気をつけて」
「ありがとう」



花を眺めながら宿に戻ると、オーフェンもちょうど帰ってきたのだろうか―――宿の前でばったり出くわした。
「お前……また何か妙なもん買ってきたんじゃねーだろうな?」
自分の顔を見たとたん、眉を寄せて聞いてくる。
「む。そんなことしてないわ。今日はね、これを買ってきたの」
言いながら、クリーオウはリボンのついた赤い薔薇を突き出す。
「バラ?」
「そうよ。綺麗でしょ?」
「綺麗だとは思う……けどそんなもんどうするんだ?」
「どうするって……」
自然と言葉が詰まる。
どうするも何も、花とは愛でるものではないだろうか。
クリーオウはじっと赤い薔薇を見つめた。
微笑しながら彼の顔を見る。
「あげるわ」
「はあ?」
「なによ!女の人が男の人に花をあげちゃいけないって決まりでもあるわけ!?」
叫びながら、強引にオーフェンに花を押しつける。
彼はうろたえながらも薔薇を受け取った。
「どうしろってんだよ……」
オーフェンは心の底から困ったような声を出す。
「うーん……」
うなりながら、彼女は首をかしげた。
「食べれば?」
「食うかっ!?」
即座にオーフェンが怒鳴り返してくる。
「まあ、好きなように受け取ってよ」
「でもなあ……」
隣から見た彼は、途方に暮れているようだった。



真紅のバラの花言葉。

わたしは あなたを 愛して―――






(2003.6.30)
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