「フォルテ!」 聞き覚えのある声に呼び止められ、フォルテは足を止めた。 振り返ると、やけににやけた表情で、キリランシェロが手を振っている。 あの男がそんな顔をしている時は、大抵がろくなことではない。 しかしながら付き合いということで、フォルテは呼びかけに応じた。 「キリランシェロか。どうかしたのか?」 「今ちょうど、写真屋に行ってきたところなんだよ。クリーオウのドレス着た写真ができあがったんだ」 「ほう」 気のない声であったが相槌をうつ。 嬉しそうに話す後輩を、邪険にするつもりはなかった。 キリランシェロはまだ新婚なので、新妻を自慢したい気持ちは何となくわかる。 「ドレス姿のクリーオウがまたかわいくて・・・」 言って、頼んでもいないのに彼は大事そうに胸に抱いた封筒から写真を取り出す。 あまり興味はなかったが、フォルテさ差し出された写真をのぞきこんだ。 「・・・・・・・・・」 キリランシェロの妻は、彼が言う通り確かに可憐である。 写真の中の彼女は、キリランシェロの隣で花のように微笑んでいた。 だがその写真は二人の笑顔だけを大写しにしている。 フォルテはいぶかしんで、確かめるようにゆっくりと問いかけた。 「・・・ドレス姿?」 「そう」 「肝心のドレスが写っていないようだが・・・」 「は?」 こちらの言葉にきょとんとして、キリランシェロは写真をまじまじと見つめる。 一拍おいた後、彼はぽんと手を打った。 「ああ!」 納得したのか、キリランシェロは次の写真を封筒から取り出した。 「そうそう、こっちだな」 と、不必要なほどにこにこして、大きめのそれを渡してくる。 最愛の嫁の晴れ着姿に、とても満足しているようだった。 キリランシェロが現在幸せかどうか、聞くまでもなくわかる。 多少迷惑であっても彼のその幸せを壊すつもりは、フォルテには毛頭なかった。 自分なりの微笑みを、彼に向ける。 「かわいいな。とても」 「ああ」 即答して、キリランシェロは一層幸せそうに笑った。 その笑顔が見られるなら、彼の嫁自慢も――そう悪くはない。 (2005.5.20) |
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