このお話は20巻クライマックスネタバレです。原作のシリアスで素敵な雰囲気をぶち壊し・侮辱しております。本文の引用もありますので、いろいろな意味で危険な作品です。苦手な方はお戻りください。後悔しても知りません。 |
大陸の滅亡を目前にした最後の時。 その日、世界の中心というべく聖域で、恥ずかしげもなく繰り広げられるラブシーンを、選ばれた4人の人間が目にしていた。 コルゴン、ロッテーシャ、領主、ハーティアである。 彼らはオーケストラでも聞こえてきそうな知人による壮大な愛の告白を聞きながら、それぞれが物思いにふけっていた。 これは本編では語られなかった、別の物語である。 「オーフェンに殺されるのなんて嫌だもの。でも、でも――」 「なに言ってるんだ?」 「でも……オーフェンを殺すなんて、もっと嫌だ」 「……っ!?」 クリーオウの握りしめた小さなナイフが、オーフェンの腹をかすめた。 だが彼は驚愕の表情を浮かべるだけで、傷を負った様子はない。 オーフェンは額に汗を浮かべながら、目の前にいる金髪の少女を見つめた。 動揺が、第二世界図塔全体に広がっていくようである。 その雰囲気を肌で感じながら、ロッテーシャは思い切り舌打ちした。 惜しい、惜しいわ。もう少しだったのに・・・。あと少しであの男を殺せたのに・・・! あの黒魔術士があんな服を着てるからいけないのよ。 旅でずっと着てた黒のシャツなら確実にあの人を仕留めることができたはずだわ。前も思ったけれど、あのうすっぺらの服はどうしたの!? それに、あの人も反応が速すぎるのよ。 愛しのクリーオウが涙を見せているんですもの、もう少しくらい反応が遅れてもいいはずだわ。 いつもなら「クリーオウ〜〜〜」ってオタオタするくせに。まぁ今もしてるけど。 でもそうね、少なくともナイフは当たったわ。 それにあの男の心底傷ついた表情!おかしいったら!そう、動揺はしてるのよ、確実に。 もう一息であの人を再起不能にできるわ! がんばって、クリーオウ! 「だからっ……邪魔をしないで!」 「レキのことなら――むざむざ犠牲になんてさせない。俺だってあの大怪獣にゃいろいろ借りがある。だから」 「どうしてくれるの?オーフェンがあの女神を殺してくれるの?」 ナイフを床に叩きつけて、クリーオウは声を荒げた。 「無理でしょう!?ここに来るまでだって、魔術士の人がいっぱい死んでたじゃない……どうせ勝てたって、死んだ人は死んだ人じゃない。女神に勝てたって、レキは死ぬんでしょう!?」 「だからって――」 クリーオウはオーフェンの制止も聞かず、コルゴンのもとへ走っていく。 オーフェンも彼女の体を捕らえようとしたが、それも届かない。 長いクリーオウのブロンドが揺れる。 オーフェンの失態に、領主は一瞬だけ目を閉じた。 やれやれ、鋼の後継め。 体調が好ましくないとは分かっていたが、よもやこれほどとは。ここで彼女をつかまえずにどうする。まったく情けないことだ。 ところで彼女の目指すコースは・・・そうか、クリーオウはコルゴンのもとへ走っていくつもりだな。 ・・・それもしようがない。他の輩に彼女を殺すことなどできないのだから、正しい選択と言えるだろう。 コルゴンもこれからがおいしい展開になると分かっているとは思うが、手加減のできない男だからな。 こんな愉快な舞台にどんな傷をつけるか分かったものではない。 めんどうだが、今回ばかりはわたしが介入するしかないだろう。 そっとだ。 彼女を傷つけずにコルゴンから離せるよう、少しだけ”力”を使う・・・。 「クリーオウ、お前――」 領主に壁際まで吹き飛ばされたクリーオウに、オーフェンが走り寄る。 理性などもはや残っていないような顔つきで、彼はクリーオウに拳を振りあげた。 かなり鋭い拳打。 それを正面から受ければ、華奢な少女などひとたまりもないような勢いだった。 その様子を見て、コルゴンは口もとに微かな笑みを浮かべる。 先ほど彼女がこちらに向かってきたときはどうしようかと思ったが――これがどうして、なかなかいい展開になった。 領主め、粋なことをする。 それにしても、キリランシェロはとうとう女に手を挙げるようになったか。 奴にそんな度胸はないと思っていたのだが、成長したな、キリランシェロ。 思えば、凶暴は姉2人に都合の良いように育てられ、いまいち覇気の欠ける柔らかい気性の持ち主だった。 それが今ではどうだ。 こんなにも立派になったではないか。 やはり俺を尊敬し、旅に出たのが良かったのだな。 だが、その勢いでは彼女は死ぬぞ。 キリランシェロは彼女を止めたいのではないのか? 殺すなら殺すで、それもまた選択肢のひとつだが―― オーフェンは拳を壁に叩きつけた。 至近距離でクリーオウと見つめ合う。 「――嘘をついてるだろう」 「オーフェン、わたし……」 「言えよ。今さら遠慮することか。言えば俺がなんとかする。女神だって殺してやる。それが必要なら、そうする」 きっぱりと宣言し、オーフェンはクリーオウをしっかりと抱き寄せた。 それを見たハーティアが、拳を硬く握る。 うわ、言っちゃったよ、キリランシェロってば!状況が状況だけど、それにしても大胆だなぁ。メモにでも残しておきたくなるほど感動的な言葉だし。 すっごいなぁ。見直しちゃうよ。 えーと、お前の為になら女神を殺すのなんて簡単だ、だっけ。 コルゴンとかがいろいろ工夫して女神を殺そうとしてるのを、キリランシェロはクリーオウのためだけにあっさりと言ってのけるんだもんな。 こりゃコルゴンも形無しだね。 言わせる方もすごいよ、クリーオウ。 トトカンタで君らを見たときは、まだ全然そんな感じじゃなかったのに。 キリランシェロも成長したんだ・・・。 おめでとう、親友! 「アーバンラマでね、レキがわたしの身体を入れ替えちゃった時…… 略 「女神なんて関係ないの。勝とうが負けようが、レキは絶対に死ぬつもりでいるの。そうしないとわたしを解放できないから」 クリーオウがオーフェンに銃口を向ける。 彼は苦痛に顔を歪め、ゆっくりと後じさった。 その時、ロッテーシャは思った。 あはははははは!拒否よ!オーフェンさんたら拒否されてるわー! あれだけ優しくせまったのに拒否されるなんて哀れな男。 それにしても・・・あの人ったらクリーオウにはてんで甘いのよねぇ。 わたしがそんなことしたら反射的に手刀が入るでしょうに・・・まったく。 いい気味だわ。やったわね、クリーオウ! その時、領主も思った。 甘いな、鋼の後継。そんな態度ではクリーオウに振られるのはむしろ当然だ。 クリーオウは年頃といえ、まだ幼いのだ。 抱きしめるだけでなく、髪を梳いてやらねば。 話を最後まで聴いてやりたい気持ちは分かるが、彼女を止めたいなら彼女の関心を違うところに向けさせるべきだ。 寛大な許容とさりげない誘導。 やはりこれが大切だ。 その時、コルゴンも思った。 キリランシェロもまだまだ甘かったようだな。少し評価を下すのが早かったか。 奴はまだ修業が足りない。 彼女に言うことを聞かせたいのならば、もっと強く抱きしめるなどして力ずくで黙らせるべきだ。 眠らせてやるのも優しさのひとつだろう。 それに、銃を向けられたからといってなぜ離れる? 銃の仕組みならばチャイルドマンに教えられただろう。基礎の基礎だ。 キリランシェロはムラが多すぎる・・・。 その時、ハーティアも思った。 あーあ、だめだよキリランシェロ、そこで離れちゃ。 クリーオウは落ち込んで泣いてるんだよ? そんな時は優しい抱擁に優しいキス。決まってるじゃないか。 途中までいい雰囲気だったのに、どうしてかなぁ。 奥手だからかな、あいつは。 あ、もしかしてクリーオウのファーストキスだからって遠慮してるのか?そりゃ違うよ、キリランシェロ。 むしろファーストキスだから効果があるんじゃないか。 初めて知る唇の感触に立ってられないくらい腰を砕けさせなきゃね。 女の子の扱いに関しては、やっぱりぼくの方が上みたいだ。 「でもわたしが先に死んじゃったらさ…… 略 「オーフェン……オーフェンは、誰も死なせないなんてことはできないんでしょう?わたしが死ぬのだって止められないでしょう」 「俺を撃つと脅したところで、俺はお前を殺しはしないぞ。そんなこと言われなくても分かってるだろう」 「うん……そうだね。わたしがオーフェン撃てるわけないしね」 そしてクリーオウは、銃口をコルゴンへと向けた。 その時ロッテーシャは混乱した。 まぁうらやましい。わたしなんてエドを撃ちたくってしょうがないっていうのに。 それにエドはエドで、わたしが銃を向けたら話をする暇もないくらいに動くのよね。動くなんてもんじゃないわ。木刀で打たれるのよ!あの男ったら・・・思い返しただけで腹が立ってきた! オーフェンさんもそういうタイプじゃなかったかしら・・・って思い出した! 彼、アーバンラマでわたしに「悪いな――武器を持った相手には手加減しないことにしてるんだ」とか何とか言わなかった!?言ったわ!絶対に! 手加減しないどころか手出しさえしてないじゃない! 何なのこの差!?これこそ差別じゃない!?わたしが怒るのも当然よ。 こうなったらわたしがクリーオウの代わりにオーフェンさんを殺してやろうかしら! その時領主は嘆いた。 これはまずいな。彼女はまたコルゴンに銃を向けてしまったか。 これではさらなるフォローに身を費やさねばならなくなる。 わたしとしては若人達の恋の行方をもっとじっくり見ていたいのだが。 そしてできれば紅茶を飲みながらゆっくりと。紅茶はアールグレイがいい。 さらに叶うのならば、今ではすでに失われてしまったが、旧い屋敷の庭にあったアンティークのテーブルセット。 そこに足を組みながら優雅に腰かけ、最適な気温と湿度の中で摘みたての紅茶を味わう。 そして青い春をそれと気付かないまま過ごす男女の逢瀬を垣間見るのだ。 それこそが究極の至福。 その時コルゴンは狼狽した。 ・・・またこちらに銃を向けてきたか。困ったものだ。 彼女もキリランシェロにもっとつっかかっていればいいものを。 先ほどまでは完全に2人の世界に入っていたはずだ。 だからこそキリランシェロは俺や領主やあろうことかハーティアの前でさえ彼女を抱いたのだ。 ロッテーシャも見ている。それを無いものとして見ていた。並大抵の神経でできるわけがない。 それが何だ突然。 都合の良い時だけ俺を利用するのか。 そもそもなぜこちらにばかり攻撃を加えようとする? ロッテーシャはどうした。 フォローのひとつやふたつあってもいいんじゃないか? どうせまた他人の恋愛に興味があるのだろうが。 領主といいハーティアといい、役に立たない奴ばかりだな、ここは。 その時ハーティアは感心した。 すごい覚悟だなぁ、キリランシェロは。 これはもうお前になら殺されてもいいって言ってるようなもんじゃないか。 ここまで言われて気付かないクリーオウもすごいな。あの様子じゃまだ分かってないよね、きっと。 言ってる方も気付いてないようだけど、ぼくから見れば恥ずかしいくらいだよ。 いくらぼくが女の子と遊びなれてるとはいえ、ちょっと言えないせりふだし。 さっきの、お前は俺の女神だ発言にも驚いたっていうのに、それよりもさらに上を行くんだもんな。 ああ、今ここでしゃべっちゃいけないのがとてつもなく悔しい。 だけど・・・一人の女の子にそこまで夢中になるってどんな感じがするんだろ? ぼくたちがそばで見てるのも忘れちゃうくらい好きなんだろうなぁ。 青春だねー。 「そうだな。この世界には奇跡なんてない。 略 「もしこれが奇跡なら、だったらなおさらわたしだってレキのためになにかしてあげなくちゃいけないでしょう!?」 叫び、クリーオウは銃の引き金を引いた。 あ、動いたわね。もう少し見ていたかったのに、残念だわ。 ふぅ、気を取り直して無表情を作らなきゃ。 どうでもいいどうでもいい。わたしは何も関心も持っていない。世界には素敵なことなんてひとつもない。 ・・・こんなところで大丈夫かしら。 おっと、のんびりかまえている暇はなかった。 めんどうでも動かなくては。 ふむ。それにしてもおもしろいものを見せてもらった。 紅茶とケーキを用意できなかったのが本当に悔やまれる。 彼らも事前に言っておいてくれればこんなことにはならなかったはずなのだが。 実に、惜しいことをした。 よし、では行くか。 終わりか。それにしても長かった。 こんな状況でさえ10分はやっていたんじゃないか? 俺とロッテーシャの場合、どんな状況でも1分持てば良い方だと思っていたのだが・・・上には上がいるものだ。 さて、ではそろそろやるか。 彼女を傷つけないようにしなければ、キリランシェロは後がうるさいからな。 俺に向かってくるのはこれで最後にしてもらいたいものだ。 結局止められなかったか。ま、あれじゃしょうがないけど。 だけどおもしろかった! これをネタにしばらくは遊べるな。 キリランシェロに聞かせると、悶え苦しむんじゃないか? いつ話せるかわかんないけど、楽しみだなぁ。 その時はコルゴンと一緒に、あ、ティッシもさそってからかってやろうっと。 そして2人だけの世界から通常の世界へ戻り、時間はまた進み始めた。 それぞれが別の思いを抱きながら、自分の役割へと戻っていく。 何事もなかったかのように・・・・・・・・・。 完 (2004.8.10) |
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