それいけ!ダメダメオーフェン vol.9





はじめまして、コギーです。

今わたしはアーバンラマで警官をやってるんだけど、手紙でオーフェンに観光案内をしてほしいと頼まれました。

別にそれはかまわないんだけど、どうやらそれはオーフェンの結婚相手のためらしくって。

結婚って・・・オーフェンが結婚ってどういうこと・・・!?







待ち合わせ場所に、オーフェンがつれてきたのはブロンドを長く伸ばした女の子だった。

まず意外だったのは、オーフェンが結婚したということ。

次に意外だったのは、彼の結婚相手が自分よりも年下だったということだ。

背も低く、美しい女性というよりはかわいい女の子である。

オーフェンは彼女の背中に手を置いて、コンスタンスを紹介した。

「クリーオウ。彼女が昔トトカンタにいた無能警官コンスタンス・マギー。通称コギーだ。アーバンラマを案内してくれる。んでコギー、こいつがクリーオウ。クリーオウ・フィンランディちなみに俺もオーフェン・フィンランディ

何かが嬉しいのだろう、オーフェンがでれっと顔をくずす。

その表情が、とても奇妙にコンスタンスには感じられた。

自分がトトカンタにいた時は見せたことのなかった笑顔。

思わず彼女が頬を引きつらせると、クリーオウは一歩こちらに寄り、ちょこんと小さい手を差し出してきた。

「はじめまして、コギー。よろしくね」

「あ、こちらこそはじめまして。よろしく」

心の準備ができておらず、どきまぎしながらあわててその手をにぎり返す。

するとクリーオウは上品というよりも、人なつっこい表情でにっこりした。

その様子をオーフェンは、彼女のとなりでひたすらにこにこと見守っている。

そんな彼の顔つき(主に笑顔)が昔とは違う気がして(というか笑顔なんてあっただろうか)、コンスタンスは思わずたじろいた。

オーフェンは頭でも打ったのだろうか

だが違和感があるのはどうやら自分だけらしかったので、コンスタンスはぎくしゃくと聞いた。

「えーと、観光だったわよね、観光。どこか行きたいところとかあるかしら。その前にお食事?」

ぎこちなく言ってから腕に巻いた時計に視線を落とす。

針は11時半を指していた。

「んー、そうすっか。クリーオウは何か食いたいもんとかあるか?

・・・・!?

オーフェンがナチュラルに口にした言葉に、彼女は耳を疑う。

彼が他人に食べ物のリクエストを聞くことなどありえない

自分がトトカンタにいたころ、オーフェンからは一度も聞かれたことのない質問を、彼はごく自然にさらっと口にした。

明日には世界が破滅するのだろうか

コンスタンスがすぐ横で恐れおののいているのには全く気付かないのか、彼らは続ける。

「んー、名物料理とかかしら」

「それは夜ゆっくりな。今夜は名物料理の出る宿を取ってあるって言っただろ」

「あ、そっか。じゃあオーフェンは何食べたい?

俺か?俺は――

オーフェンはにやりと笑ってクリーオウに何かをささやいた

それに彼女は青い目を見開いて、ばしっと腕を叩く

クリーオウはやや怒ったような表情だが、彼はそれすらも楽しんでいるようだった

くつくつとオーフェンはひとしきり笑い、一段楽したところでコンスタンスに目を向ける。

今まさに倒れかかっていたコンスタンスは、足を踏ん張って体勢を立て直した。

「ななななななに?き、き、き、決まったの?」

「いや・・・このへんでうまいレストランとかあるか?人気のとことか」

「そそそそそうね。ここの近くの裏道におい・・・おいしいパスタ屋さんが・・・」

「?何どもってんだ?」

きょとんとオーフェンが首をかしげる。

コンスタンスは大量の汗を流しながら、大きく手と首を振った。

「な!な!なんでもない!わ!それよりもイカスミ屋さんだったかしら!?」

「・・・パスタ屋だろ」

異常なものでも見るような目つきで、オーフェンは訂正した。

だが異常なものを見るという心情はコンスタンスも同じだった。

むしろこちらの方がより大きなショックを抱えている。

なるべく彼らを見ないようにして、コンスタンスはパスタ屋に先導した。

彼女がよくランチタイムに利用する店はあまり人気のない小道にある。

そこへ行くために大通りから小道へと曲がると、何の予告もなく小柄な人間が仁王立ちで道をふさいでいた。

それは黒の長ったらしいローブを着て、顔はフードで隠しており、見るからにあやしい。

雰囲気から察するに、その危険度はコンスタンスがトトカンタにいたとき――つまりオーフェンと一緒にいたとき――と同等のように思えた。

(そうだったわ、オーフェンがいるといつもわたしが巻き添えを食ってたのよ)

別の道にしようとくるりと踵を返す。

だがすでに遅かったようで、後をついてきたオーフェンはあやしい雰囲気をぷんぷんかもし出す人影を見つけてぴたりと立ち止まった。

コンスタンスががばりと振り返ると、フードを着た影がゆらりと手を挙げる。

そしてびしっと指をオーフェンに向けた。

「ついに現れたな親の仇・・・!」

「ああん?」

声からすると、このフード人間は男らしい。

突然親の仇呼ばわりされたオーフェンは不快そうに目をつり上げた。

そしてさり気なくクリーオウを背中にかばう

ただし自分には何の心遣いや配慮もなく、無防備にオーフェンとフード男の間に立たされていた。

「両親の死から30年。やっと追いつめたぞ、覚悟しろ!」

「・・・俺はそんなに長く生きてない。人違いだろ」

「そんなはずはない!俺は今朝この道で待ってたら親の仇が現れると夢に見た!お前がそれだ!」

「それこそ何の根拠もねえじゃねーか!それに俺は生まれてないって言っただろ!」

「つまり預言者ってわけ!?オーフェンがいつかあのフード男の両親を殺すのを今阻止しようって魂胆ね!?」

クリーオウがひょっこりと顔を出し、びしっとフード男を指す。

するとオーフェンがまたあわてて彼女のことをかばった

こら、出て来んな。あんな変態に付き合ってやるこたねーんだよ危ないだろ!ってなわけで行け、無能警官!

と、いきなりオーフェンがコンスタンスを見た。

彼は軍隊の指揮官のように手を大きく振り、彼女を促す。

ほらコギー出番だぞ、正義の味方!

「はあ!?ちょっと待ってよ。さっきあんたあの男を変態だって言ったじゃないどーしてわたしがそんなのに近づかなきゃいけないのよ!?絶対にいやよ!あんた行きなさいよ!」

コンスタンスは道ばたに置かれたゴミ箱のかげに隠れて怒鳴った。

だったらわたしがやっつけてやるわ!

と、またもやクリーオウがオーフェンの背中から身を乗り出す。

彼もまたあわてて彼女を背中にかばった

だから危ねーって言ってんじゃねーか!大人しくしてろよ。ったく」

「ちょっと待ってよ!危ないってことならわたしも一緒でしょ!?わたしはどーなるの!?

「むぅ!勝手なことをごちゃごちゃと!」

思い切り変態呼ばわりされた小柄なフード男が、しびれを切らしたのか叫ぶ。

そしてフード男は、手をこちらに掲げた。

「食らえ!純白の世界!」

男の言葉と同時、彼の手のひらから光が生まれる。

昔オーフェンが見境もなく街を破壊した魔術と同じものだとコンスタンスには思えた。

「ちょっとぉ!?」

制止の声も虚しく、真っ白な光が迫ってくる。

そこに、オーフェンの声が響いた。

我は紡ぐ光輪の鎧!」

何かの音がして、オーフェンが防御の魔術を使ったのだと分かる。

コンスタンスが安堵した瞬間、

きゃあああああ!?

ものすごい衝撃がコンスタンスの体をおそう。

ちょっとおおおおお!

涙ながらに叫ぶが、彼女の体は軽々と途中に浮いた。

空中から小道を見下ろすと、真剣な表情でフード男を見据えているオーフェンと、彼の背中にかばわれながらぽかんとこちらを見上げているクリーオウが目に入った。

次の瞬間には、スーツに身を包んだコンスタンスの体がぼてっとコンクリートに落下する。

さらに転がらないことから察するに、魔術の効果も切れたのだろう。

痛む体を何とか起こすと、すぐそばでオーフェンの優しい声が聞こえてきた。

「大丈夫だったか?」

耳に届いたのは、今まで聞いたことのないような甘く優しい声

ああ、やっぱりオーフェンはわたしのこともちゃんと心配してくれるのね・・・

実際は大丈夫ではなかったが、それでも彼女は気をよくしてオーフェンに起こしてもらうべく手を差し出した。

「ええ、だいうじょう・・・ぶ?」

期待したはずの支えがなく、伸ばした手が宙を切る

ええ!?

驚いて声のしたほうを見ると、オーフェンは心配そうにクリーオウの頭を撫でていた

当のクリーオウは怯えたようにコンスタンスを見つめてくる。

「ええ、大丈夫よ。でも、コギーが・・・」

彼女の声に反応して、オーフェンは思い出したようにこちらに視線をよこした。

が、つまらないものでも見たかのように、すぐにその視線はクリーオウに向けられる。

けがはないみたいだな。だから言っただろ、危ないからあいつには近づくなって」

・・・・ちょっと

ボロボロになってけがだらけのコンスタンスがうめくが、オーフェンは聞いてくれないし、返事もしてくれない。

すると同じく無視されていたフード男が、横から口を出してきた。

「ぬぅっ!魔術で防御するとは卑怯な!」

びしっと指を突き出し、大仰なポーズを取る。

それが気に障ったのかどうかは知らないが、オーフェンはぎろりとフード男をにらんだ。

にらまれたフード男は、びくりと肩を震わせ数歩後ずさる。

「てめぇ、こんな街中で魔術なんか使いやがって。俺が守った♥からいいものの、クリーオウがけがでもしたらどう責任取るつもりだ!?

わたしは・・・?

コンスタンスの声に、オーフェンは一瞬だけこちらを見る。

が、やはり無視

クリーオウに何かあってみろ、半殺しじゃすまねぇぞ!?

「む!すまなかったらどうなるのだ!?」

「こうなるんだよ!我は放つ光の白刃!」

「ああああああああ!」

オーフェンのかざした手から、白い光が膨れ上がりフード男にぶつかる。

フード男ははるか上空に飛ばされ、すぐに視界から消え去った。

それを見届けたオーフェンは満足そうにでれっと顔をくずし、クリーオウに向きなおる。

彼が自分を助け起こしてくれることは、とりあえずなさそうだった。





「今日はあんたの変わりぶりに本当驚かされたわ」

コンスタンスはオーフェンらが泊まることになったホテルのロビーで愚痴をこぼしていた。

彼女の前ではオーフェンが幸せそうな表情で疑問符をあげる。

「そうかあ?」

「そうよ。わたしは誰と行動してるのか分からなかったくらいだもの。何度か気絶しそうにもなったしね」

そういや何回か死にかけてたな

「そうじゃなくて」

やはり自覚なくオーフェン。

彼の言う通り、日中は痛い目にもあったが、肉体的ダメージよりも精神的ダメージが強かった

姉のドロシー・エドガー夫婦とまではいかないものの、似たような感覚である。

今はクリーオウがいないので、昼間よりはオーフェンとのまともな会話が成立していた。

オーフェンの話によると、クリーオウは部屋で入浴しているらしい。

その隙を見計らって、このように自分と翌日の観光の打ち合わせ――ほとんどが世間話だったが――をしているのだった。

オフシーズンのこの時期、従業員をのぞけばロビーにはコンスタンスとオーフェンしかいない。

静かなその雰囲気はトトカンタのバグアップズ・インを連想させた。

ほんの数年前のことなのに、とても懐かしい。

あの頃はオーフェンが知らない誰かと結婚するとは夢にも思わなかった。

やっぱり少しは切ないわよ。かわいがってた男が知らない子と結婚しちゃうんだもの

甘酸っぱい気持ちがわずかに胸をよぎる。

コンスタンスは切ない眼で彼を見つめるが、それを当のオーフェンがぶち壊してくれた

数分前から無駄にそわそわし、体を揺すったり周囲を見渡したり時計を見たりしている。

「ちょっと、トイレならあっちよ?」

「んあ、ああ」

彼女の言葉にオーフェンは上の空で答える。

かと思うと、急に顔を輝かせた

突然こちらにまっすぐ向き直って、朗らかに話しかけてくる

「そういえば昔こんなことがあったよな。ボギーとキースの奴が――」

「え?うん。あなたがやっぱりいつものように暴れまわって、わたしも巻き添えを食ったわ」

「そうだったな。ははははは

相槌をうって、オーフェンは笑わなくて良いところで笑い出した

意味がわからないながらに、コンスタンスも一緒に声をあげて笑う。

なんなのかしら・・・

と、他人からすると盛り上がっているように見える場面に、クリーオウが近付いてきた。

パジャマにカーディガンをひっかけ、スリッパをぺたぺたとひきずっている。

心なし、唇をとがらせているようだった。

彼女は近くまで来ると、オーフェンに向かって拗ねたような声で抗議する。

「オーフェン、こんなところにいたの?」

オーフェンは一瞬だけとろけたような表情をしたが、すぐにまともな表情をしてからクリーオウを振りかえった。

「ん?ああ、クリーオウか。どうかしたか?」

彼は絶対に彼女に気付いていたはずなのに、なぜか空とぼける。

そのようにする理由が、コンスタンスにはさっぱりわからなかった。

それを知らないクリーオウは、不機嫌そうに続ける。

「べつに、どうもしないけど・・・。いつまで経ってもオーフェンが帰ってこないから、もう髪、やっちゃったわよ」

(かみ・・・?)

コンスタンスが小首をひねるが、二人の間ではそれだけで通じるらしい。

オーフェンが即座に切り返した。

ただし、昼間には考え付かないような素っ気ない口調で(声は相変わらずとろけている)。

「そうか。悪かったな」

「悪くはないけど。・・・・・・・・・・まだ部屋には戻らないの・・・?」

「ああ。先に寝てていいぞ」

「・・・わかった」

不満そうな声でクリーオウが答え、それから笑顔をこちらに向けた。

「おやすみ、コギー」

「ええ、おやすみなさい。また明日」

笑い返す。

まだ心残りがありそうだったが、彼女はすたすたと元来た道を戻っていった。

クリーオウの後ろ姿を見送り、コンスタンスは大きく息を吐いた。

いくらオーフェンの結婚相手とはいえ、初対面なため必要以上に神経を使う。

いや、オーフェンの相手だからこそ気を使うのだろうか。

ともかくもコンスタンスは小さく伸びをして、改めて彼を見た。

だが、そのオーフェンは何やら様子がおかしい。

彼はうつむき、小さく震えていた

「なに。どうかした?」

心配してうつむいた彼の顔をのぞきこむ。

と、オーフェンはぱっと顔を上げ、完全に崩れた笑みをこちらに向けた。

見たか、今の!?

「な、なにを?」

その動きにぞっとしながら彼女が聞き返す。

クリーオウに決まってんだろ!あいつやきもち妬いてたぞ♥

「ああ、そう言われると・・・妬いてたかもね・・・」

だろ!?クリーオウがやきもち・・・やきもち♥俺に対して♥たまんねーな!はっはっはっ

「・・・・・・・・」

これ以上ないというほど幸せそうに笑う(照れている?)オーフェンを、コンスタンスは絶望のまなざしで見つめた。

何が彼をここまで変えてしまったのだろう。

原因があるとすればクリーオウだが、彼女の態度は普通の人間と同じように思えた。

「ねえ、気になってたんだけど、さっきクリーオウが言ってた『かみやっちゃった』って何のこと?」

聞くと、オーフェンは楽しそうに切なそうに言ってきた。

「ああ・・・いっつも風呂あがりにはあいつの髪をタオルで拭いてやるんだよ。風邪ひかないようにな。けど今日はしてやれなかったから・・・そのことを言ってたんだよ」

「へ、へえ?」

(ずいぶん甘やかしてるのね・・・)

うめくが、その心境がオーフェンに伝わることはない。

「俺の毎日の楽しみのひとつなんだが(うっとりと遠い目)・・・・・それをあきらめるくらいの価値はあったな

わたしと一緒にすごすことが?

オーフェンがとても優しい目をするので、コンスタンスはついうっとりとしてしまった。

不倫をするつもりは毛頭ないが、意志に反して心臓は早鐘を打つ。

誰も見ていないかと、つい周りを確認してしまった。

と、突然オーフェンがソファから立ち上がり、こちらに顔を向ける。

まだ心の準備が・・・!

コンスタンスが思わず自分を抱きしめると、オーフェンは冷たい声を放った。

じゃコギー、また明日な

・・・・・・・・・・・・・・・・は?あなたさっきクリーオウに先に寝てていいって・・・

その方がクリーオウがやきもち焼きそうだろ?

心底嬉しそうに、オーフェンが笑う。

そしてコンスタンスの返事を聞く前に、彼は早足でロビーを去っていった。

呆然とした彼女だけが、泊まる予定もないホテルに残される。





「・・・うふふ」

自嘲めいた笑いとともに、コンスタンスの目から涙が一筋こぼれた。






(2005.4.29)
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