それいけ!ダメダメオーフェン vol.8
初めてお目にかかる。
チャイルドマン・パウダーフィールドだ。
わたしは原作で死んでしまったため、もはや現実の世界に姿を現すことはできない。
よって今日は夢の世界を通してキリランシェロに接触することにした。
「先生・・・」
目の前に立つかつての師を、キリランシェロ――オーフェンは震える声で呼んだ。
それに応えるように、チャイルドマンは微笑を浮かべる。
久しぶりにじっくりと見る彼の表情は、穏やかに柔らかい。
だがその中にも哀惜の念が混じっていた。
「元気にやっているか?」
問うと、オーフェンがこちらに一歩近付く。
あくまで、彼の夢の中の出来事に過ぎないが。
「元気です。幸せにやってますよ。先生は・・・そういうわけにもいかないんでしょうが」
彼が無邪気に苦笑する。
そういう姿は、5年前とどこも変わることがなかった。
チャイルドマンもにやりと笑って返す。
「確かに肉体がないのは不便だ。しかしたまにならこうしてお前に会いにくることができるんだ」
「どうして・・・今日?」
オーフェンが怪訝そうに問う。
「今日はお前の誕生日だろう?」
「覚えていてくれたんですか」
感動する彼に、チャイルドマンはこっくりとうなずいた。
それにオーフェンはますます嬉しそうにする。
「知っているさ、何でも。お前が・・・結婚したことも」
震えながら
彼は呟いた。
逆に愛弟子は弾けるように大きな声を出す。
相手が尊敬する師であろうが、喜びを抑え切れないほど満ち足りているらしい。
「
そうなんです!
結婚して、今はかつてないほどの幸せを感じているところで。あまりに幸せすぎて怖くなるくらいに。妻は」
「クリーオウ・エバーラスティン、だろ?」
オーフェンの言葉を遮るようにして言う。
彼はぽかんと口を開けた。
おそらく、自分が彼女の名前を言い当てたことに驚いているのだろう。
「よく知ってますね。
今は俺の姓を名乗ってます
が。もしかして先生は彼女を知ってるんですか?バルトアンデルスの剣も彼女の家にあったし。他の天人の遺産も」
「知っている。金髪碧眼、小柄で元気な娘だろう?」
「そこまでご存じなんですか。俺はそのクリーオウと結婚しました。今は毎日が輝いています」
「
・・・可愛さ余って憎さ百倍・・・
」
蕩けるように話すオーフェンに、冷めた声音で返す。
続いて殺気を込めて彼を見た。
「はい?」
チャイルドマンの殺気に気付き、彼はきょとんとする。
「わたしが生きてさえいれば・・・」
「え?」
「師を差し置いて彼女と結婚するなど・・・」
「あの、先生?」
困惑したオーフェンに、彼はさらに続けた。
「なぜ彼女はお前などを選んだんだ?」
「その言い方って・・・」
「
大方純情な彼女をお前がたぶらかしたのだろう。
昔からお前はたくさんの女性をはべらしていたからな
」
「・・・・・・・・」
呆然とする彼に一歩近付く。
しつこいようだが、オーフェンの夢の中で。
「
別れろ
」
きっぱりと命令する。
「彼女と、別れるんだ」
「嫌です」
対抗するようにオーフェンもきっぱりと断った。
「これは
師匠命令だ。彼女とは別れろ
」
「いくら先生の命令だからって、俺はクリーオウと別れるつもりはありません!どうしてそんなこと言うんですか!?」
激昂する弟子に、チャイルドマンは吐き捨てるように、
「
そんなに聞きたいなら教えてやる。
わたしは!
クリーオウを好・・・いや、
愛しているからだ(現在形)!
」
「
・・・・・・・・・・・・・・
」
「
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
」
予想はしていたが、長い沈黙がおりた。
その場の空気も完全に固まる。
オーフェンは直立不動、チャイルドマンは仁王立ちのまま。
「・・・・・・・・・・・冗談でしょう?」
やっとのことで吐き出した弟子の声が震えている。
オーフェンが――白魔術に対抗できるようにと精神制御を習得させた――戸惑いを隠せずにいるのも尤もだった。
「わたしが冗談を言っているように見えるのか?」
彼の瞳をまっすぐに見据える。
さらに沈黙が降り、やがて静かに首を振った。
「見えません。でもそんな・・・
先生がクリーオウを好きだったなんて
、俺は信じられないし」
ふむ、と呟いてチャイルドマンは腕を組む。
あくまで否定しようとするオーフェンに、どうやって諭そうとしばし黙考した。
「よくわたしは・・・格言を生徒たちに話さなかったか?」
「そういえば」
「わたしはその時何と言った?」
「先生の友人の富豪から聞いた格言とか・・・」
言葉にしながら気付いたようだった。
はっとしたように、こちらを見る。
「わたしの友人のとある富豪、つまりエキントラ・エバーラスティンだ。お前は彼女から格言などを聞いていなかったのか?」
「聞いていました。でもまさか、クリーオウの父親が先生の友人だったとは・・・」
動揺したように言うオーフェンに、チャイルドマンは顔をしかめた。
「ふん、友人ね・・・」
「違うんですか?」
彼が片眉を上げる。
「友人と言えば友人には違いない。同じ思想を共有した友だ」
「だったらどうして言葉を濁すような・・・」
「確かに友人なのだが、奴とわたしの考えは微妙に違っていた」
「それは?」
チャイルドマンは神妙にうなずいた。
「奴は・・・
エキントラは自分の娘を両方愛していたのだ!わたしはそれが受け入れることができなかった
んだ!」
「そりゃあ・・・親子の愛情と恋愛感情は違うでしょう。まだ信じられないけど」
「強情だな、キリランシェロ」
なかなか分かろうとしない彼に、嘆息する。
素直なかつてのキリランシェロは一体どこへ行ってしまったのだろうか。
「
わたしがたびたび授業を休んだのは
他でもない
クリーオウに会いに行っていた
のだとしたら?」
「それはないでしょう。先生が定期的に長老に会わなければいけなかったのも、王都に行かなければならなかったのも知っています。クリーオウに会いにいけるはずがない」
彼は首を左右に振りながら否定した。
「そういうところは昔から変わっていないな。だがそれが甘いと言うのだ。
むさ苦しい長老どもやプルートー
に会って、そのままでいられると思うのか?」
「どういう意味です?」
「空気の読めない奴だ。不味いものを食べた後は口直しが必要だろう?つまり、外出期限を延長してわたしはクリーオウに会いに行っていたのだ!」
「会いにって・・・けど、彼女は先生のことを知らないって言ってたし。そんなに頻繁に行ってたら、クリーオウが覚えてないはずがない」
「
お前は頭が悪いのか?
わたしがクリーオウを嫁にするつもりで幼い彼女に近付いてみろ!
犯罪になってしまうではないか!
」
「
・・・・・・・・・・・・・・
」
今のはかなりの説得力があったようで、オーフェンがやっと押し黙る。
そう、彼女との年の差が13もあることが、チャイルドマンにとっての最大の問題だった。
年を取れば気にならなくなるだろうが、クリーオウが幼いうちはそうもいかない。
彼女が成長するまで、彼は待つつもりだった。
「結納(あるのか?)の品も、少しずつエバーラスティン家に運んでいたのだ。世界でいちばん高価で価値のある品々を。いくらエキントラが金を持っていようとも、決して購入できない物だ」
「もしかして天人の遺産を?」
「そう。彼らの遺産を<塔>外に持ちだすなど、わたし以外にできると思うか?まあ、わたしの監視下から離れるのだから、先に送ったのは安全性の高いものばかりだったが」
チャイルドマンは、エバーラスティン家に贈った数々の品を思い出した。
オーフェンは呆然とこちらを見つめてきている。
「指輪ももう贈ってあったのだ。お前のその」
言いながら、視線でオーフェンの左手の薬指にはまった指輪を示す。
弟子も同じように指輪を見た。
「
安っぽい指輪とは比べ物にならないほど高価なものを
」
「
安っぽくてもいい!
」
オーフェンは叫びながら、大切そうに左手の指輪を右手で包んだ。
「クリーオウは、このペアのリングを受け取ってくれた。毎日、指から外さないで幸せそうにしてる!値段なんて関係ない!」
オーフェンはとても傷ついたように――その反面誇らしそうに言った。
チャイルドマンはそんな彼を見て、嘲ることしかできない。
なぜなら。
「あれ?だけどその指輪って・・・」
「
その通りだよ、キリランシェロ
」
彼は、切なく笑った。
「こともあろうにお前は!
わたしがクリーオウにプレゼントしたあの指輪を飲み込み破壊した!
」
「おかげで俺は救われましたけどね、アザリーから」
のほほんと弟子は告げる。
それが癪に触ったのは言うまでもなかった。
どうしてくれよう、この男
。
「アザリー、アザリーか」
「
彼女のせいでさんざんでしたね、先生は
」
オーフェンはにやりと笑いを向けてくる。
が、チャイルドマンは彼の嫌味にも動じず、言った。
「アザリー。
お前の大好きなアザリー、か?
」
鼻で笑ってやる。
「な・・・!?」
「
昔からあっちへふらふらこっちへふらふらと。この
青二才が!
」
「
む、昔の話だ!
」
「ふん、どうだかな。
その点、わたしはずっとクリーオウだけを想ってきた!お前の、大好きなアザリーの気持ちを知っていてなお!わたしは他の女になびかなかったんだ!
」
一言一言を力の限り強調して言った。
それは確実にオーフェンを動揺させる。
彼の狼狽ぶりは、見ている者の優越感を煽った。
「過ぎた話だと言っている!
今はクリーオウだけだ!彼女が俺のすべてだ!
」
「
はっ!
すべてか。では・・・
お前のすべてであるクリーオウにわたしが愛を囁いてやろう
」
「なんだと・・・!?」
オーフェンは殺意を放ってこちらをにらみつけてきた。
鋼の後継に相応しい殺気。
常人ならそれだけですくみ上がってしまうだろうが、師である自分には嬉しいと思う程度のものだった。
弟子は持てる全ての殺気を放ちながら続ける。
「
クリーオウは俺の奥さんだ!
誰であろうと手出しはさせない
」
その『
奥さん
』というオーフェンの言葉は、鋭くチャイルドマン心を貫いた
。
怒りの臨界点を易々と突破し、笑いさえ込み上げてくる。
低く笑う自分の姿は、大陸最強の名とともに、ひどく不気味に映っただろう。
「
よく言った、キリランシェロ
」
ゆらりとオーフェンを見る。
「だが果たして、そんなことが本当にできるのか?」
「なに・・・?」
彼は不信気に表情を歪めた。
チャイルドマンも同じように歪んだまま口を開ける。
「見ての通り、わたしは死んでいる。幽霊だ。お前ごときに止められるわけがないだろう?」
「なにを・・・!」
「今日は、お前の誕生日だったな」
「ああ」
「どうせお前は、
クリーオウのあの愛らしい顔と声で『オーフェン、お誕生日おめでとう(声真似付き)』と開口一番に言ってもらうことを期待しているのだろう?
」
瞬間、オーフェンの顔がさっと朱に染まった。
図星のようである。
「わたしからの誕生日祝いだ。その
蜜のように甘い言葉を、苦痛に変えてやろう。
彼女の夢へ入り、わたしが彼女と会話をする
」
チャイルドマンは喉の奥でくつくつと笑った。
今度は、弟子の顔が青くなる。
「
誕生日の朝のクリーオウの第一声はわたしの名前ではじめてやろうか?『
チャイルドマンってどんな人だったの?誕生日なんだし、その先生のこと教えて♥
』という風に
」
「やめろ・・・」
「
嫌か?ならばこんなのはどうだ。お前が今まで好きになった女と、付き合ったことのある女を順に挙げていく。どうせならお前を想っていた女の名前も並べてやろうか。クリーオウは言うかもな、
『
オーフェンてずいぶんたくさんの女の人と付き合ってたのね。わたしの後にもまた何人か出てくるのかしら
』
と!さぞや彼女は冷たい目をするのだろうな!
ははははは!
」
「
やめろおぉぉお!!
」
オーフェンは絶叫した
。
理性を全て失い、ただまっすぐにこちらに向かってくる。
だがここは夢の中だ。
掴みかかったところでどうにもならない。
「おっと。久しぶりで話が長くなってしまったな。今日は時間がないのでこれで失礼するとしよう。
今からわたしは、愛しのクリーオウの夢へ行ってくる。
目覚めを楽しみにしていろ、キリランシェロ。
ではさらばだ!
」
チャイルドマンは
黒いローブを盛大に翻し
オーフェンに背を向けた。
「
行くな、チャイルドマン!待ってくれ!
」
制止の声が聞こえたが、かまわず彼の夢から姿を消す。
求める場所はひとつだった。
「今いくぞ、クリーオウ!」
高らかに叫ぶ。
チャイルドマンは喜びに胸を踊らせた。
(2004.2.14)
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