それいけ!ダメダメオーフェン vol.4
ぼくのこと、覚えている人は何人くらいいるのでしょうか、ティフィスです。
チャイルドマン教室の「死のキーニング」ことレティシャ・マクレディが、ぼくの魔術の先生です。
今日は久しぶりに休みが取れました。
一日何も予定がなく街をぶらぶらしていたところ、どうやらデート中のキリランシェロさんとクリーオウを見つけました。
二人は一体どんな風にデートしているのか気になり、付いていくことにしました。
よく晴れた空に太陽が南中しようとする時刻、オーフェンとクリーオウは一軒の白いレストランに入っていった。
ティフィスもそれに続く。
レストランの従業員に案内されたテーブルは、彼らがよく見える席だった。
二人の位置から近すぎることもなく通すぎることもなく、絶好のポイントである。
二人を気にしながら、ティフィスは適当に料理を注文した。
ほどなく料理がテーブルに運ばれる。
オーフェンたちのテーブルを見ると、そちらもすべてそろったようだった。
彼はランチメニューを注文したのだろう、白い皿の上にはフライやハンバーグといったものが並んでいる。
一方クリーオウは、ミートソーススパゲティとオレンジジュースを注文したようだ。
二人は嬉しそうに運ばれたばかりの料理に取りかかる。
ティフィスも自分の料理を口に運びながら、注意深く楽しそうな彼らを観察した。
クリーオウは、オーフェンが何か言うたびにくすくすと笑っている。
仲の良い二人のことなので、きっと些細なことでも楽しいに違いない。
こうして見ていると、ふたりも
一応
恋人同士に見えた。
なごやかな気持ちで彼らを見守る。
と、オーフェンが彼の皿のハンバーグをナイフを使って小さく切り、フォークで刺すと、クリーオウの口元まで運ぶ。
彼女はきょとんとしたが、すぐにクスッと笑いオーフェンの出した料理にぱくついた。
嬉しそうにもぐもぐと口を動かす。
彼はそれを見て、今度はエビフライをナイフで切り分けもう一度クリーオウの口元に差し出す。
彼女もまた嬉しそうにそれを食べた。
少女の嬉しそうな顔を見つめるオーフェンは、とても幸せそうだった。
と、今度はクリーオウがスパゲティをフォークに絡みつけ、オーフェンに差し出す。
それに彼は幼い子供のように目を輝かせた。
そのままかぶりつくだろうとティフィスは思ったのだが、黒魔術士は
わざわざ
クリーオウの小さい手を握ってから、彼の口元まで運ばせる。
オーフェンは幸せそうにフォークごとスパゲティにかぶりつき、それを食べている間も彼女の手を握ったまま離さなかった。
(う、うわぁ……)
大陸最強の黒魔術士、チャイルドマン・パウダーフィールドの後継者であるキリランシェロ。
ティフィスの目の前で恋人と戯れているのは、まさしくキリランシェロ当人のはずなのだが、ティフィスには
最強どころか
どこもかしこも隙だらけ
に見えた。
この
隙だらけの後継者をすぐにでも魔術で吹き飛ばしたい
衝動にかられたが、ティフィスはなんとか思い止める。
ようやくオーフェンが少女の手を離し、二人はまた何事もなかったように食事を続ける。
ティフィスは自分の料理を全て平らげてからも、じっと彼らを見守った。
ほどなくして二人も食事が終わったらしい。
クリーオウはミートソースで汚れた口をぬぐうためだろうか、オーフェンのほうにある紙ナプキンを指す。
彼は心得たように微笑み、各テーブルに常備されているものから一枚抜き取る。
ティフィスはそのまま彼女に渡すと思ったのだが、彼は空いている左手で彼女のあごを持ち上げる。
クリーオウが素直にそれに従い目を閉じると、彼は優しい手つきで彼女の唇についた汚れを拭き取る。
全てを綺麗にぬぐい終わると、彼は紙ナプキンを持った右手を下ろす。
が、クリーオウのあごを支えている左手はそのままだった。
オーフェンはぼうっと、そしてうっとりと彼女の唇を見つめている。
そして、彼は吸い寄せられるように彼女にゆっくりと顔を近付けていった。
(おお……!?)
が、クリーオウが目をパッチリと開けるとオーフェンはあわてて彼女のあごから手を離す。
少女は不思議そうに首を傾げたが、すぐに笑顔を取り戻した。
(バカップル……)
他人が見たらストレスの溜まるようなことを当人たちは楽しげにやってのける、それが今の二人だった。
呆然と見ていると、オーフェンたちが伝票を持って席を立つ。
ティフィスもあわててそれを追った。
タフレム市の商店街のメインストレートを、ティフィスは歩いていた。
もちろん、オーフェンとクリーオウを尾行するために。
だが尾行といっても、彼らのほんの数メートルあとをただ歩くだけで良かった。
なぜなら、オーフェンは彼女しか目に入らないような状態であったし、クリーオウもそれはほとんど変わらないだろう。
そんなわけで彼らの注意を引くような行動させしなければ、デートが終わるまで気づかれずに尾行することが可能だった。
後ろから見る二人は、とても幸せそうに手をつないで歩いていた。
オーフェンがクリーオウのこととなると人が変わるようになるのはすでに周知のことだったが、よく見ると、彼女にも言えることのように思えた。
少女は普段家にいるときも変わらずに元気なのだが、オーフェンがそばにいるとき、彼女はとても安心しているように感じる。
周りが見ればかまいすぎのような彼の行動も、クリーオウにしてみれば安らげるものなのだろう。
言わせやがって
そう、ぼんやりと考えているとクリーオウがオーフェンの手を引き洋服店を示した。
彼は少女の指した店を見てにっこりとうなずいた。
その店は全面ガラス張りになっていて、店内の様子がよく見える。
鮮やかな色の服がたくさん並べられていて、いかにも彼女の好みそうな店だった。
オーフェンも、ティフィスが出会った頃とは違い、今では高額の収入があるためか、クリーオウの買い物にも文句をつけない。
文句どころか、喜んで支出している。
(甘いなぁ……)
思いながらティフィスは大通りに設置されているベンチに腰かける。
もちろん、店内の様子が良く見えるベンチに。
かくして、クリーオウのファッションショーが始まった。
彼女が服を選び、試着してオーフェンに見せるたび、彼は嬉しそうに笑う。
今にも手を叩いて喜びそうなほどだった。
実際、ティフィスのいる場所から少女まではかなりの距離なのだが、それでも彼女は際立って綺麗だった。
整った容姿と長い金髪、すらりとした四肢。
先ほど大通りを歩いた時も、多数の男が彼女を振り返った。
隣にオーフェンが歩いているせいで、決して声をかけてきたりはしないが。
数十分後、ようやくオーフェンとクリーオウが店から出てきた。
大量の荷物を抱えているだろうと思ったのだが、意外にも増えた荷物はない。
たぶん、直接家に届けるようにでも言ったのだろう。
二人が再び歩き出したので、ティフィスもベンチから離れ、彼らの後を追った。
商店街をひと通り歩き、彼らは大通り沿いにあるカフェテラスの店へ入った。
正午からすでに数時間経っていたので、休憩には良い時間だ。
ティフィスもオーフェンたちと同じ店に入る。
昼食の時とは違い、今度は二人の会話が聞こえる位置のテーブルを選んだ。
かなりきわどい席なのだが、今までの彼らのことを考えると大丈夫のような気がした。
オーダーを取りに来たウェイトレスにアイスティーを注文する。
飲み物だけあって、運ばれてくるのも早い。
ティフィスのアイスティーよりやや遅れて、オーフェンたちのテーブルにも注文の品が置かれた。
かすかに聞こえたウェイトレスの声で、コーヒーとアイスミルク、それにケーキが運ばれたとわかる。
ティフィスはアイスティーにミルクとシロップを入れてストローでかき混ぜながら、彼らの声に耳を傾ける。
会話の内容は、ケーキやクリームや、運ばれてきたものについての他愛ない感想だったのだが、何せ相思相愛の二人である。
会話は普通なのだが、やたら甘い内容に聞こえる。
(ミルクとシロップ、入れなきゃ良かった)
近くのテーブルについたことも後悔する。
席を移動しようにも、込みやすい時間なため移動できる場所もなかった。
さっさと帰れば良いのだが、帰ることだけはしたくない。
知り合いのデートほど困惑しておもしろいものなどないのだ。
これ以上口の中が甘くなるのは避けたかったので、とりあえず紅茶は飲まないでおく。
気を紛らわすものがなくなったため、二人の会話がよりはっきりと聞こえてきた。
「
このケーキ、おいしいのよ、オーフェン
」
「
へぇ。良かったな
」
「
オーフェンも食べる?
」
「
食わしてくれるんだろ?
」
「
なんでよ
」
「
皿ごと渡してくれるんなら俺全部食べるぞ?
」
「
やーよ。じゃあ、一口だけね
」
「
ああ
」
「
はい、どうぞ
」
「
『あーん』は?
」
「
え?
」
「
ほら、良く食べさせる時に言うだろ?『あーん』って
」
「
……オーフェン……
」
「
くく。悪ぃ悪ぃ。じゃあ……
」
「
どう?
」
「
うまい
」
「
でしょ?
」
(あああああ……)
ティフィスの体から力が抜け机に伏す。
(大陸最強の……黒魔術士の……後継者……)
仮にも歴史に名が残るような人間が、『あーん』などとは言ってはいけないのではないか。
いや、言っても良いとしても、心理的には言ってほしくはなかった。
できることならば、聞きたくもなかった。
混乱しながらも、ティフィスは何とか体を元の位置に戻す。
落ち着きを取り戻すのにはかなりの時間がかかったようで、彼女のケーキはすでになくなっていた。
フォークが皿の上に行儀良く置かれている。
(あ、もうそろそろ出るかな?)
ティフィスはそう思い、コップからストローを抜き取り、残りのアイスティーにスパートをかける。
と、隣のテーブルから、
「
クリーオウ、ほっぺたにクリームついてるぞ
」
「
!!
」
甘い……声が聞こえてきた。
ティフィスは飲んでいたアイスティーを吐きだしそうになるのを必死でおさえる。
恋人たちの、これはある意味『お約束』のようなものだ。
指でクリームをぬぐうのが普通、である。
が、
クリーオウの頬にクリームなどついていない
。
(なんだ……冗談だな)
きっとオーフェンはあわてるクリーオウが見たいに違いない。
ティフィスは気を取り直しアイスティーを征服にかかった。
横目で二人を見続ける。
「え?どこ?」
彼女は頬に手をあてる。
「違うって」
オーフェンが言いながら頬に当てているクリーオウの手を握る。
「ここ」
そう言って彼は腰を浮かせた。
ブハッ!
ティフィスは口に含んだアイスティーを盛大に吐き出す。
周囲の目が一斉に自分に集まる。
だがオーフェンとクリーオウだけは二人の世界に入り込んでしまったようで自分の姿は映っていないようだった。
咳き込みながらクリーオウを見ると、彼女は頬に手を添えながら赤くなっている。
「あ、ありがと……」
小さく呟く。
それにオーフェンは微笑して立ち上がる。
「そろそろ行くか」
言いながら彼がクリーオウに手を差し出す。
彼女も立ち上がって差し出されたオーフェンの手を取り、二人で店を出て行った。
ティフィスは呆然と彼らの後姿を見つめ、考える。
クリーオウの頬にはクリームなど付いていなかった。
彼女の様子からすると、キスされたかなめられたかしたのだろう。
クリーオウは赤くなり、ありがとう、と言った。
おかしいではないか。
クリーオウ、君、だまされてるよ!?いいの、それで!?
ティフィスにはすでに二人を追うだけの気力は残されていなかった。
一足先に家に帰ろう。
夕食までには二人とも帰ってくるだろうから。
(2003.7.3)
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