それいけ!ダメダメオーフェン vol.2





こんにちは、マジクです。

今ぼくは、最高の黒魔術士であるお師様ことオーフェンさんと、幼なじみのクリーオウと3人で自由気ままに旅をしています。

お師様はクリーオウと両想いになってから人が変わったようになってしまいました。

クリーオウはいつも通りなんだけどね。

追伸:今ぼくたちは森の中にいます。





「我は放つ光の白刃!」

声と同時に、両手から純白の光が生まれる。

その光は一瞬だけ膨れ上がり、目の前の巨木に突き刺さる。

数瞬後、先ほどまで悠然と立っていた巨木は激しい炎に包まれていた。

「ま、こんなもんかな」

マジクは未だ炎上している木を見ながら独りごちた。

「筋トレも基礎練習もひと通り済んだし……」

ぐるりと周囲を見回す。





「我は放つ光の白刃!」

声と同時に、両手から純白の光が生まれる。

その光は一瞬だけ膨れ上がり、目の前の巨木に突き刺さる。

数瞬後、先ほどまで悠然と立っていた巨木は激しい炎に包まれていた。

「ま、こんなもんかな」

マジクは未だ炎上している木を見ながら独りごちた。

「筋トレも基礎練習もひと通り済んだし……」

ぐるりと周囲を見回す。

マジクが数回行った『魔術の練習』のせいで、森というよりは破壊された森林と呼んだほうがしっくりくるように、木々は根こそぎ掘り返されていたり、炭になっていた。

「あとはお師様に見てもらうだけなんだけど」

言いながらマジクは、少し離れたところにあるキャンプ地へ軽い足取りで歩き出した。





「あれ?」

キャンプ地に戻るなり、マジクは間の抜けた声を上げた。

左右を見まわしても、オーフェンらしき人影は見あたらなかった。

「どこ行ったんだろ?」

言いながらマジクはテントの中や、その周辺を歩く。

本日の食事当番はオーフェンで、本来なら昼食の準備をしているはずだった。

簡易かまどの火はまだ消えていない。

かまどの上には、いかにも作りかけ然とした食べ物が、フライパンの上であぶられている。

フライパンの上の半分以上の食べ物は、すでにこげて炭と化していた。

オーフェンはもう長いことここに戻って来ていないのだろう。

とりあえず山火事にならないように、かまどの火を土をかけて消しておく。

腹も空いていたので、フライパンの上のまだ焦げていない、食べられそうなものを見繕い、口の中へ入れる。

それを何回かくり返すと、腹一杯とまではならなかったが、六分目くらいにはなった。

また料理を作り直していたら、かなりの時間がかかるだろう。

今、補給することに越したことはない。

マジクは気を取り直して、再びオーフェンを探しに出かけた。





キャンプ地を中心にして、ぐるぐると歩き、5分くらいしたところでオーフェンを見つけた。

オーフェンはなぜか、草の上に寝そべるように、うつ伏せになりながら、両ひじを立てて顔を支えているようだった。

マジクは訝しがりながらも、とりあえず師に声をかける。

「お師様ー!」

自分の声に反応して、オーフェンは手だけをこちらに向け、ひらひらと合図してきた。

オーフェンはじっとその場で声も出さず、ただ一点を凝視していた。

マジクはさらに不思議に思いながら、オーフェンとの距離をゆっくりと詰めていく。

「お師様?」

するとオーフェンは、いつにも増してつりあがった目つきで、こちらを素早くふり返る。

「うっせぇな、お前は!クリーオウが起きちゃうだろ!?」

「お……起きちゃう?」

それだけ言うと、師はさっさと顔をもとの位置に戻す。

オーフェンの目線の先には木にもたれかかったまま、静かな寝息を立てているクリーオウがいた。

(自分が何言ってるのか分かってるのかなぁ、この人は?「起きる」ならともかく「起きちゃう」って……)

マジクはそう思ったが顔には出さずに続ける。

「お師様、こんなところで何をしてるんですか?」

しかも妙な格好で……と言いたかったが、これも心の中にしまっておく。

「なにってお前……」

オーフェンは、信じられないといった顔つきで首だけを動かし、マジクを凝視する。

「クリーオウの寝顔を見てるに決まってるじゃねぇか!

何の迷いもなく、やたらきっぱりと言い放つ師に、マジクは困惑する。

(大丈夫なのかなぁ、お師様。もしかして日射病とか……)

しかしマジクが見る限り、オーフェンはいつもどおり元気そうだった。

さらにクリーオウばかりを見つめ、ほとんどこちらを向こうともしないのではっきりとは分からないが、彼女を見つめる師の横顔は、心底嬉しそうだった。

「あの……クリーオウの横顔の、一体何がそんなにおもしろいんですか?野宿ならこれまで嫌ってほどしてきたじゃありませんか」

「お前、なんにも分かってないな」

オーフェンは―――やっとというべきか―――立ち上がり、首を左右に振りながら、盛大にため息をついた。 

真剣な瞳でこちらの目をのぞきこむ。

「クリーオウはな、眠ってる顔いちばんかわいい んだぞ(矛盾した表現)!?よく世間一般では寝顔は天使って言うけどな、クリーオウは天使どころか……あー、なんだかあれだ。天使より天使っていうか。まぁとにかく天使だ。寝てても天使だが起きてても天使だ。そこらの子供つかまえて来て、寝顔は天使だっていうのとは格が違うんだよ。おまえがどこでどんな子供拾ってこようが、クリーオウにかなうわけねぇんだ。俺のクリーオウが100%勝つ!!」

マジクはとりあえず、上目遣いでオーフェンを見ながら、生返事をしておく。

あまりにも意味不明なことをしゃべるので病院へ連れて行ったほうが良いかと思ったが、この狂ったような文法を使うのはクリーオウに関してだけなので、とりあえずこのまま放っておいても大丈夫だろう。

オーフェンの狂ったような演説は毎度のことながらまだ終わらなかった。

「それに今は昼だ、昼!野宿の時なんかよりもクリーオウのかわいい寝顔がはっきりと良く見える。めったにないことなんだぞ、これは。
しかも、クリーオウは今、木にもたれて眠ってるだろ?そうすっとだな、いろんな角度からクリーオウの顔を見れるんだよ。野宿と比較してみろよ!地面に寝てる場合は上からと左右からしか見れねぇが、今は頭が高い位置にあるから、なんと下から!下からクリーオウのかわいい顔を見つめることができるんだぞ!?野宿では味わえない素晴らしい体験だ!
さらに服装だ。今日はほとんど歩かないからって、何とスカートをはいてくれた!しかもロングじゃなくてひざ丈だ!いつものジーンズでは見られない白い細い足が――――」

と、そこまで言ったところでにこやに笑っていたオーフェンの顔が、急に表情を無くす。

オーフェンはクリーオウがマジクの死角になって見えなくなる位置に横歩きで移動した。

お前は見るな

あまりのことにあきれはてるマジクを無視して、オーフェンはまた笑顔で語りだす。

「今日のクリーオウの服装は白いワンピースに白い靴に麦わらぼうし!それにさっきまでクリーオウが書いていたクリーオウの日記に、クリーオウがどっかから摘んできた花!こんな素晴らしい組み合わせを俺の脳でしか残せないのが非常に残念だ!今ここにカメラ持った奴が通ればいくら出してでも絶対に買うぞ。そして撮った写真を一生の宝として毎日肌身離さず持ち歩くぞ、俺は。等身大のポスターを作ってもいいな。
ちなみにこのワンピースは俺が選んだんだけどな、めまいがするほど似合ってるだろ?まるでクリーオウのためだけに作られたような――――」

「あのー、お師様?」

「ん?なんだ?」

クリーオウのことを自慢できるおかげか、オーフェンはにこやかに聞く。

「あの……お昼ご飯は……」

「ンなもん後だ。俺にクリーオウより他に優先すべきことはない

!?

またしてもオーフェンはきっぱりと言い切った。

トトカンタのバグアップズインで下宿していた頃では信じられない言葉だった。

マジクのこれまでの経験からは、師に食より優先するものがあるとは考えられなかった。

「クリーオウが起きたら作る」

ということは、クリーオウが起きるまでは作らないということだろうか。

先ほど食べておいて正解だった。

「じゃあ……あの、お昼ご飯はもういいです。修業を見てほしいんです」

一人でやってろ

オーフェンは相変わらず嬉しそうにクリーオウを見つめたままで、マジクに背を向けながらたんたんとした口調で言う。

自分はオーフェンの答えそうなことを、ある程度予想していたので反論も用意できていた。

「お師様いつもそれじゃないですか。それにぼくは今まで一人でトレーニングしてたんです!月謝も払ってるんですからちゃんと付き合ってください!」

「クリーオウが起きたら見てやるよ」

「そう言いながら、お師様。クリーオウが起きたら起きたで、ずっと彼女から離れようとしないじゃないですか」

すると、言い訳する材料が見つからなかったのかオーフェンがやっとのことでこちらを向いた。

オーフェンのふり向きざま、何か舌打ちに似た音が聞こえた気がしたが。

オーフェンがむっつりとした顔をマジクに向け、むっつりとした声で言う。 

「じゃあ付き合ってやるよ。俺が魔術放つからお前は防御するんだぞ」

「はい、分かりました」

マジクがにこやかに答えると、オーフェンは凶悪な笑みを浮かべ、こちらにサッと腕を掲げる。

「我は放つ光の白刃!!」

瞬間、オーフェンの指先から眩しいくらいの光が放たれた。

心なしかいつもより威力もスピードも上がっている気がする。

マジクは緊張しながらも、ミスのないように防御の構成を編み上げる。

「我は紡ぐ光輪の鎧!」

オーフェンの魔術がこちらに届くよりも一瞬早く、マジクの魔術が発動した。

が、師の魔術の威力が強すぎたたためか、光の障壁が消えるころには、マジクは数メートル後方に吹き飛ばされていた。

地面に叩き付けられ、体中あちこち痛んだが、大した傷はなかったらしく、マジクはすぐに起き上がることができた。

少し離れた直線上、オーフェンは先ほどよりも鋭い目つきをしているように見える。

オーフェンの後ろでは相変わらずクリーオウがおだやかに眠っているようだった。

師は、彼女に被害が及ばないような構成なり何なり工夫したのだろう。

マジクはよろけつつも、オーフェンの魔術を防いだことに喜びを覚え、師に向かって大きく手を振る。

「お師様〜ぼく、できましたよー!」

ちっ!・・・・がって

「え?なんですか、お師様ー!?」

オーフェンと少々距離が離れてしまったため、間ジクは師に聞こえるように声を張り上げる。

先ほどオーフェンの声が聞こえなかったのも、たぶん距離があったせいだろう。

何でもねぇよ(舌打ち)!じゃあもう一回やるからな――!」

オーフェンはにこやかに―――目が笑っていなかったように見えたが―――笑い、マジクと同じような声量で言ってきた。

「じゃあいくぞー!」

「は――い」

オーフェンは再び、今度はゆっくりと腕をこちらに向ける。

「我は――」

瞬間、オーフェンの手のひらから光の奔流が生まれる。



先ほどよりさらに威力とスピードの増した爆炎がこちらに向かって押し寄せてきた。

突然のことで防御の構成を編む余裕さえなく、マジクは魔術の炎に包まれ涙ながらに叫ぶ。

お師様さっき呪文全部いわなかったでしょおおぉぉおお!!??

爆炎による衝撃で意識が遠のく間、マジクはかすかだがオーフェンの弁解する声を聞いた気がした。

「おー、すまんマジク。なんか知らんが呪文、忘れちまってな?あっと思ったときには魔術が発動してて遅かったんだよ。さてクリーオウ〜♪」          

遠く聞こえるオーフェンの声はとても楽しげだった。




(クリーオウといるところを邪魔されたくなかったからって、そんなあからさまな嘘つかなくたっていいのに……。ぼく、こんなお師様の下で修業してて魔術上達するのかなぁ……?」




意識が完全になくなる前、マジクは聞こえなかったはずの、オーフェンのせりふを思い出した。


(そっか……『ちっ(舌打ち)!起き上がってきやがって』だったのか……)


知らず、マジクの目から涙がこぼれていた。






(2003.3.8)
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