フィンランディ家の長女と次女が学校を卒業してからは、オーフェンと三女のみで馬車を利用することになっていた。 あと数年すれば、三女もまた学校を卒業し、いずれはオーフェンだけで登下校するようになるのだろう。 三女――ラチェットとの会話が途切れていた馬車の帰り道、オーフェンはそんなことを考えていた。 先ほどまでラチェットは、昼間あったことを必死にしゃべっていたのだ。 今は落ち着いたのか、大人しく外を見ている。 と、あっと声をあげて、ラチェットは身を乗り出してきた。 三女のこんな様子はいつものことなので、オーフェンは慌てずに聞いてやる。 「どうした?」 「エドさんに今日、ラチェは本当にパパの娘か?って言われたんだけど、わたしってパパの娘だよね?」 「………………………………ぇ」 とんでもない発言に固まる。 また一体どんなことを外(というかあの男)から聞いてきたのだろうと、本気で心配になった。 オーフェン以外が父親だというなら一体誰がそうだというのか。 自分は妻を信じているし妻もオーフェン一筋である。 妻が妊娠した時期のことは今でもきちんと覚えているし、その際に他の男がいたような気配はなかった絶対になかった。 総じてオーフェン以外の男がラチェットの父親である可能性などゼロに等しく以下省略。 オーフェンが動かずにいると(正確には動けなかったのだが)、ラチェットはまた思いついたように背もたれに体を預けた。 「ごめん、これってパパに聞く質問じゃないよね。ママに聞かなくちゃ」 てへへとラチェットはくったくなく笑って、自分の意見にうんうんとうなずく。 納得したのか、それ以上は続けてこない。 「…………」 父親が誰であるのか母親に聞く、それはある意味正しいが、そういう問題ではない。 断じてない。 あってたまるかというかやっぱりあの男はいつまでたっても成長しない以下省略。 「……エドが?そんな風に言ったのか?」 オーフェンは無理矢理思考の一部を回復させ、娘との会話を試みた。 そう聞いてはみたものの、そんな突拍子もない思い付きだけの質問がいかにもコルゴンらしかった。 あの常人と考えることがまったく違った男なら、そんなことを言い出しかねない。 信じるつもりは毛頭ないが、娘の誤解を解かないことには父親としての面子に関わるのだ。 ラッチェットはオーフェンの様子にきょとんとしたが、こくんと首を縦に振った。 「そうだよ。わたしがどうやってエドさんの隙を付いたかって話をした後、少し考えて唐突に」 「ほぅ」 いかにもありそうだと、オーフェンは意味深にうなずいた。 その、話をした後少し考えて唐突に、ということが重要だ。 コルゴンのことだ、その少しの間に何かとんでもない思考回路になったに違いない。 オーフェンはラチェットを真正面から見て、含めるように言った。 「ラチェット。お前は間違いなく父さんと母さんの娘だ。母さんのお腹が大きくなるころから出産まで父さんは見てたし」 「ママの娘かとは聞かれなかったんだよね」 「…………父さんとお前は似てるだろ。黒髪だし」 三姉妹とも母親似ではあるが、自分の面影も探せば見つかる。 オーフェンは絶対の自信を持ってラチェットに言った。 「疑うなら母さんに聞いてみろ。絶対にうんって言うから」 「まぁ、違うとも思ってないんだけどね」 「なら言うなよ……」 うめいて、オーフェンはぐったりと脱力した。 オーフェンの目から見ても、三姉妹は賢いと思う。 そんな娘に、真正面からよりにもよって父親が誰かなど聞かれれば、動揺しないというほうがおかしい。 家に帰ってこの話を妻にするかどうか。 オーフェンは瞬時に決めかねた。 2011.10.8 あんまり広がらなかったですね。 ラチェット登場記念ということで。 |
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