□ one's way home □


キエサルヒマでの短い滞在も終わり、オーフェンはまた長い船旅を楽しんでいた。
事前にたてていた目標は、概ね達成できたと言える。
妻の家族へのあいさつも済ませたし、姉の家族にも会えた。
魔王としての視察と仕事も予定通りこなした。
そしてもちろん、妻を奪われないように釘もしっかりと刺しておいた。
(ぬかりはない)
満足してうなずく。
唯一気にかかることといえば家で留守番をしている娘たちのことだが――まぁ大丈夫だろう。
心配こそするものの、虫の知らせなどはなかったし、妻も同じだったらしい。
こういう勘はだいたい当たる。
だから焦りもしない。
そのことにも満足し、オーフェンは改めて妻――クリーオウを見やった。
彼女は家まで待ちきれないのか何なのか、早速部屋中に荷物を部屋中に広げている。
荷物の整理もしていたが、クリーオウは特に土産物に夢中だった。
「すごい荷物だよな。行きの三倍くらいあるんじゃないか?」
少し呆れた口調で、オーフェンは床に座っている彼女に話しかける。
彼女は顔を上げると、当然だという顔をした。
「いろいろ街をまわったらね、おもしろいものがたくさんあったのよ。むこうではなかなか手に入らない物も多いから、たくさん買っちゃった♪」
「そうだったか?」
ぱっと見た限りでは、よくある品物に見えたのだが。
オーフェンが訪れたのは土産物屋ばかりだったので、そう思ったのかもしれない。
彼は笑ってうながした。
「例えば?」
「んっとね、ほらこれ、魔除けの仮面。ちょっと不気味でしょ?これを玄関に飾ると悪い空気もはね返しちゃうんだって♪」
「買うなんなものっ!」
即座に叫ぶ。
思わず放り投げたくなるような意味不明な仮面を見て、オーフェンは顔をしかめた。
たしかに原大陸ではめずらしいだろうが、手に入ったところでありがたくも何ともない。
オーフェンが渋い顔になると、クリーオウは首をかしげたが、すぐに嬉しそうにまた何かを取り出して見せた。
「そう?じゃあこれ、くまよけの鈴。やせる効果あり♪」
「どこにくまがいる?そしてどこをどうすればやせることに繋がるんだ?」
「次はトカゲのミイラ。夫の浮気防止用」
「気味が悪いとかないのか?それにいつ俺が浮気した?」
「すごいのはこれよ!書いても見えないボールペン。秘密の伝言の必需品!」
「不良品だろ」
「あとはねー」
「いい。分かったから」
他にも似たような不用品がごろごろ出てきたので、オーフェンはぐったりとうなだれた。
妻はオーフェンが目を離すとすぐにおかしな物を買ってきてしまう。
今回は久しぶりの故郷ということで大目に見てやったが、クリーオウは少々不足そうだった。
「他には?えーと、幸運系とかじゃないやつ」
「あとはもちろん子供たちのお土産♪アクセサリーとか服とか、やっぱり流行も違うみたい。かわいいのが多かったの」
彼女はそう言ってうきうきと子供用の服を広げてオーフェンに見せてくる。
これらの買い物は自分から見ても妥当だと思えたので、彼は笑ってうなずいてやった。
「ああ、それはいいと思う。俺も買ったよ、大したものじゃないけど」
言いながら、自分のかばんを探る。
じっくり選んでいる時間はなかったが、それらを見せるとクリーオウは気に入ったようだった。
子供たちへの土産だというのに彼女は喜んでくれる。
子供想いの優しい妻をもらってよかったと、心の中で彼はこっそりのろけた。
ひと通り話終え、オーフェンは満足の息を吐く。
そしてちらりと、まだ触れていない土産物に目をやった。
正直な気持ちとしては聞きたくないのだが、避けても通れまい。
オーフェンはこれまでと違いやや緊張して、それらを指した。
「……で、それは?」
クリーオウはこちらを見て、それから彼の指先をたどり、そしてにこりと微笑んだ。
「ああ、これはわたしの」
あっさりと言ってのける。
ちなみにそれらというのは、隅にあるのにも関わらずやたらと存在感がある塊で、かばんが三個と服は最低でも五着はある群れだった。
そして一見して高級品だと分かる品々である。
ブランド品にうといオーフェンには、その総額はさっぱり分からない。
だが安くはないと、断言はできる。
(誰の金だ?)
家の金であれば、家計に大打撃。
だからといってエバーラスティン家の金ならば、それはそれで甲斐性なしだと言われているようで胸が痛くなる。
彼が物言いたげな目で黙っていると、クリーオウは安心させるように微笑んだ。
「お母様たちに買ってもらったの。欲しいってねだったんじゃないんだけど、素敵ねって言ったら、じゃあ買ってあげるわねって」
「……そか。久しぶりに会った娘だし、甘やかしたいんだろうな」
「そうね」
オーフェンは寛大なふりをして微笑んでやったが、内心ひどくうめいていた。
さすがエバーラスティン家というべきだろうか。
今回の旅費に匹敵しそうな金をぽんと出せるとは恐れ入る。
気持は分かるが、オーフェンには真似できそうになかった。
「質が良いから長持ちするだろうし、将来あの子たちに譲ってもいいかもね」
「……そうだな。せっかく買ってもらったんだから、大事にしろよ」
「うん」
素直にうなずく。
それは何の疑問も抱いていないしぐさだったので、小言を言うのはあえて避けておいた。
言ったところで返品などできないし、けんかにもなるだろう。
ティシティニーの好意を無下にするのも気が引ける。
純粋な愛情からであると、ありがたく受け取ることにした。
彼女は今回の里帰りを満喫できたようだった。
とても満足しているようだが、できればもっと笑顔にしたいと思う。
「……また、行こうな」
そう言うと、クリーオウは驚いたように顔をあげた。
彼女が笑うのを期待して、オーフェンが先に微笑を作る。
「今度は家族で。あいつら説得するのは苦労するだろうけど、楽しかったし」
「そうね」
彼女がこくりとうなずく。
そして、オーフェンが期待していた以上の笑顔を見せてくれた。
これだけ嬉しそうな顔をされたら、娘たちも少しは誘惑されるだろう。
早くも次のプレゼンテーションを練りながら、オーフェンは子供たちのいる家へ思いをはせた。






2011,1,16
終わり!

……UPするの遅れすぎてすみません。

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