ダメダメオーフェンRe. vol.3
みなさんごきげんよう、マリアベルです。
妹のクリーオウが我が家に戻ってきて二日目、昨日は母に譲ったので、本日はわたしの番です。
そういえば妹の旦那様とは昔お見合いをした仲なのよね、と思うと、少し複雑な気分です。
母から聞いてはいたが、妹夫婦は本当に仲がよさそうだった。
ソファは決して狭くないはずなのだが、二人はその中央で
ぴたりと身を寄せて座って
いる。
そしてにこにこと、目の前にいるマリアベルに微笑みかけてきていた。
「本当にお久しぶりですね、オーフェンさん。クリーオウも」
以前に会ったのはもう二十年近く前になるだろうか。
当時とは立場がまったく違うが、とてもなつかしく思えた。
「マ、マリ……?ん、ごほん。あなたもお変わりないようで。やはり
クリーオウと
姉妹なだけあってとても
似て
いる。
美しい
」
「まぁ、オーフェンさんたら」
言われ慣れているとはいえ、褒められるのは素直にうれしい。
マリアベルは口に手を当て、上品に笑った。
「結婚されているとクリーオウから聞いていますが、今日は旦那さんと子供さんは一緒じゃないんですか?」
彼は自分の家族構成まできにかけてくれているらしい。
「ええ。オーフェンさんたちとは初対面ですし、無理に会わなくても良いかと思って。わたしがゆっくりオーフェンさんとお話したかったんです」
「ってお姉ちゃん。
いくら昔お見合いした仲だからって、今はわたしの旦那さんなんだからね
」
こちらの発言が気に障ったのか、クリーオウが口をとがらせて言ってくる。
大人になったのだが、こういうことは相変わらずらしい。
やはり妹は昔と同じでかわいかった。
と、隣のオーフェンが
呆れたような――というよりは嬉しそう
だったが――表情で、クリーオウの頭にぽんと手をのせ彼女をなだめる。
「
やきもち焼いてんなよ♥
」
「そうよ。大丈夫よ、クリーオウ。少し見ただけでもオーフェンさんがあなたを大好きということは分かるもの」
「
当然だろ?
」
「…………………………」
それはクリーオウに対するなぐさめだったのだろう。
そうは分かっていても、少し引っかかってしまった。
もちろん、オーフェンはそれで良いと思う。
夫が妻のことを好きならば、家庭は円満なのだから。
マリアベルは気を取り直し、またにこりと笑顔を作った。
「オーフェンさん、覚えてらっしゃる?初めてこの家にいらした日のこと。あの時ほど印象に残ってるお見合い、一度だってなかったんですのよ」
「
もちろん
です。
初めてクリーオウに会った日
ですからね。俺もまさか結婚するとは思ってなかったし」
「そうよねー。世の中って不思議よねー」
「
…………
」
オーフェンとクリーオウが、それぞれしみじみとした様子で(やはり嬉しそうだが)呟いている。
もちろんそうだろう。
自分との出会いよりも、生涯の伴侶のほうが印象強いに決まっている。
けれども、せっかくなので、
自分も話に加わりたい
ではないか。
マリアベルはめげずに笑顔を作った。
「後でクリーオウに聞いたんですけど、本当はあのお見合い、乗り気じゃなかったんですって?」
「ええ。とある迷惑かけるしか脳のない地人たちにだまされましてね」
そう言って、オーフェンはめずらしく苦笑してみせた。
「今思うと、どうしてあいつらの儲け話にのったのか、本当に不思議で。どうせろくでもないこと考えてるってのは分かりきっていたのに。けど、それを分かっていながらそれでも
逆らえなかったというのは、やはり運命
だったのかと……思いますよ」
「
ああー……クリーオウとの、ね
」
「
そうですね♥
」
「……。でもわたし、本当はあの時少し後悔してたんですよ。クリーオウみたいに、わたしもあなたを追ってみれば良かったかしらって……」
「はは、まさか」
「あら、冗談なんかじゃありません。姉妹ですもの。
あのとき、姉妹で逆の行動を取ってもおかしくはない
はずです」
ほんの少し
うっとりと、感情を含んだ瞳でオーフェンを見つめる
。
と、オーフェンはぽかんとした。
それを見て、少しばかりいたずらが過ぎてしまったかと懸念する。
マリアベルとしては冗談を言っただけなのだが、
もし彼が本気にしてしまった場合、自分はどうしたら良いのだろう
。
(でも、わたしには夫も子供もいる身ですもの。どうにもならないわ。
だけど、強く迫られたりしたら……
)
心の中だけで妄想をふくらませ、マリアベルは一人舞い上がっていた。
と、オーフェンは
しばらく絶句した後、急に悲しそうな顔になり隣にいるクリーオウの服の袖をぎゅっとつかむ
。
「あ、あの……オーフェンさん?」
「
……す、すみません。ちょっと想像してしまって……
」
オーフェンは苦笑して、クリーオウの袖から手を離した。
「まあ……ふふ」
やや驚いたもの、マリアベルは再び笑って話を続けた。
「
はじめはクリーオウも応援してくれた
んですよ。
オーフェンさんみたいな人がお兄さんなら
きっと毎日楽しいだろうな。
だからお姉ちゃん、がんばってね
って。
ね、クリーオウ?
」
「あ、うん――」
同意するも、クリーオウは気まずげに横のオーフェンを見やった。
「?」
そんなに変なことを言っただろうかと、マリアベルは首をかしげる。
自分は今、昔話をしているだけであり、当時そういうことを思ったからと言って現在に変化があるわけでもない。
そう考えるが、実際にオーフェンを見ると、彼の顔は
蒼白
になっていた。
「ど、どうかされましたの、オーフェンさん?わたし、そんなに失礼なことを言ってしまったのかしら――」
自分としては、マリアベル自身が彼に好意を持っていたと告白しただけなのだが。
だがオーフェンは照れたり困ったりするのを通り越し、
絶望
したような表情になっていた。
「おろおろと、マリアベルは助けを求めるようにクリーオウを見る。
「あ、ごめんなさい。オーフェンて、
ちょっと冗談が通じない
ことがあって。特にわたしのことになると」
「ええ……。?」
「なんていうか、
オーフェンの人生にわたしがいないっていうのが耐えられない
みたいなの。想像するだけで目の前が真っ暗になるみたいで……。ふだんはそんなこと言われても平気っていうかがまんしてるみたいなんだけど、わたしがいると甘えちゃうのかすぐこうなっちゃうのよ……」
こう、とは、目の前の彼のように思いきり沈んでいるということだろう。
「ちょっとオーフェン、大丈夫だから。わたしがお姉ちゃんを応援したっていうのは昔の話で、今はオーフェンとわたしは結婚してるでしょ?子供もいるじゃない。ラッツベインとエッジとラチェットが」
「
……そ……そう、だ……よな。ちゃんと現実だよな……
」
「うん、だから大丈夫よ。……家族の中ではオーフェンがいちばん甘えん坊なのよね。いちばん年上なんだけど、家の中では子供みたい」
「まあ……」
とても信じられない。
オーフェンはキエサルヒマで魔王と呼ばれるほど有名なのだが。
けれどもオーフェンは、小さな子供のようにクリーオウに背中を撫でられ、あやされていた。
「ちょっとオーフェン、しっかりして」
「あ……ああ。失礼しました」
「いえ……こちらこそすみません」
よく分からないが、とりあえず謝っておく
。
といりあえず、
もしオーフェンが妹と結婚しなかったら、という話題は避けた方が良さそう
った。
けれどそうすると、他に話になるようなことが、急には思いつかない。
子供のことを聞けばいくらでも話してくれるだろうが、そうなるとそれはそれで今度は話が止まらないような気が
した。
話を聞いているのも楽しいだろうが、できれば娘夫婦とは会話がしたい。
マリアベルが困っていると、ようやく気を落ち着かせたらしいオーフェンが顔を上げた。
「
恥ずかしいところをお見せしまして
。やはり
クリーオウの家族だから、気が緩んでしまったようです
」
「くつろいでいただけているようで、わたしも嬉しいですわ」
オーフェンの謝罪に、マリアベルはほっと――色々な意味で息を吐く。
とそこで、マリアベルはテーブルの上のケーキがまだ手づかずなことに気づいた。
食べ物の話は誰に取っても楽しいものである。
オーフェンの気分を変えるにはうってつけだった。
彼女は白い手で、彼らの前にあるケーキを指す。
「どうぞ、お食べになって。クリーオウも。覚えてるかしら、あなたが好きだったお店の、よく食べてたケーキよ」
「あ、ほんとだ。まだ営業してるのね」
「へえ。よかったじゃねーか」
「これ、あなたの好きだった種類でしょ?」
「そうか……。うん、たしかにうまいな」
作戦が功を奏したのか、オーフェンは急に目を輝かせ元気になった。
その様子にほっとする。
「
オーフェンさんの分はわたしの好きなケーキなんです。お気に入りをオーフェンさんにも食べていただきたくて
」
「
へぇ……
」
「………………」
返事が淡泊
だった。
ついでに言わせてもらえば、
相槌が短い
。
もう少しくらい、
何かコメントがあれば嬉しい
のだが。
「え……と。そうなんです。
クリーオウも好きだった
わよね。いつもそのふたつで悩んでたの。どちらかに決めるのだけれど、
一口ちょうだいっておねだりしてたわよね、あなた
」
「
そうなんですかぁ♥
クリーオウ、これ、
一口いるか?
」
「うん。――やっぱりおいしい♪」
「そっか。良かったな」
「
………………
」
何度考えてみても、
オーフェンの態度に差
を感じてしまう。
彼はクリーオウと結婚しているので、正しい態度なのだが、マリアベルに対しても
少し愛想をわけてもらいたい
。
嫌われているわけでもないだろうし、義姉なのだし。
だがそんな期待も、オーフェンと会ってたった数分で、ものの見事に崩れ去った。
他人――というか姉――の目の前だというのに、この
馬鹿
夫婦はケーキの食べさせ合い
などしている。
(
本当に……仲の良いこと
)
マリアベルの頬が、知らず引きつった。
もちろん最愛の妹が愛されていると分かって、安心はしている。
けれども何ともいえぬ孤独感が、なぜかマリアベルの中にあった。
2010.12.10
マリアベルのお話は実は2作目に考えてました。
だから、8年くらい前ですね。すごい(笑)。
その時考えた一節はちゃんと入ってます♪
次でラスト!
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