家族の笑い声は、ただ聞いているだけで自分も幸せになれる。 クリーオウは長女に夕食の片付けを手伝ってもらいながら、にっこりと微笑みを浮かべた。 彼女の家族は、全員の仲が良い。 性格の違いがあって、おおっぴらに甘えてこない娘もいるが、それでも好かれているという自信がクリーオウにはあった。 なぜなら、家族の全員がいつもリビングに集まっているから。 それぞれが自分だけの部屋があるのに関わらず、だ。 もし嫌いであるなら、さっさと自室にこもってしまうだろうというのが理由だった。 クリーオウはそれがとても嬉しく、誇らしかった。 きっと、自分と夫との教育方針が良かったに違いない。 皿を持ったまま、彼女は満ち足りた気持ちで家族のだんらんをながめる。 その時、いちばん下の娘が、きゃーと笑い声をあげつつ、彼女の夫であるオーフェンに抱きついた。 夫は、突撃する娘を軽々と抱きしめ、一瞬だけぎゅっと抱擁してからぽいっと娘を離す。 娘は気にもせず、再びディープ・ドラゴンとのじゃれ合いに戻った。 「………………」 その光景を目撃し、クリーオウは目をぱちくりさせる。 ほんの数秒、何かが脳裏をよぎった。 何かは分からないが、あまり嬉しいものではない。 かといって怒るようなことでもなかった。 悲しいわけでも悔しいものでもなくて。 けれども何となく突き止めたくはなかったため、彼女は気付かないふりをした。 具体的な何かを無理矢理抑え込みながら、皿洗いを再開させる。 「どうかした?」 不思議そうに聞いてくる長女に、クリーオウは何でもないと微笑みを返した。 風呂からあがって寝室に行くと、先にベッドに入っていたオーフェンが顔をあげた。 読んでいた本をサイドテーブルに置き、何を思ったのか笑顔で両腕を広げる。 来い、ということなのだろう。 「…………」 未だ正体不明のもやもやを胸に抱えたまま、彼女は素直にオーフェンのもとへ歩いた。 ベッドにのぼると同時、熱烈なキスで迎えられる。 人前では絶対に見せられないような、濃厚なキスだった。 これはあれだ。 夫婦の営みの前にされるキスだ。 ものすごく分かりやすくて身構えてしまうこともあるが、このような愛され方は嫌いではない。 特に今日は、なんというかクリーオウもそんな気分だったことは否めないので、彼からの口付けをいっさいの抵抗もせず受け止めた。 こういう場合、オーフェンはとても喜ぶ。 少し抵抗しても、やはり喜ぶが。 ともかく熱いキスが終わってお互い顔を見合わせると、またもやオーフェンがにやっと笑った。 子供っぽい、無邪気な顔である。 「……なに?」 疑問6割、不満2割、不審2割で訊く。 と、彼はクリーオウの唇を啄んでから言った。 「さっき、ものほ……いや、うらやましそーな目で見てたから」 「……いつ?」 夫の失言を追及してやっても良かったが、寛大な心を以て見逃してやる。 彼はこちらの心境に気付いていないのか、うきうきと続けた。 「ラチェットが俺に抱きついてきたときくらい」 「…………」 しっかりと見られていたらしい。 だがうらやましいとは思っていなかった。 つきつめていけば似たような感想を抱いたかもしれないけれども。 「娘にやきもちか?」 「そんなわけないじゃない」 なぜか嬉しそうに問われたが、クリーオウは即否定した。 オーフェンはきょとんとするが、すぐに楽しそうに笑って軽く口付けてくる。 「じゃ、なんだ?」 今日は本当に機嫌が良いらしい。 腰を抱かれながら、クリーオウは視線を上に向けた。 その理由を考えてみる。 「んー……ちょっと、いいなって思ったかも」 「うん?」 「ラチェットがオーフェンに抱きついてたでしょ?そういえばここ何年かはあんな風に無邪気に抱きついたことってなかったかなって」 「そっか?俺的にはお前をいちばん抱きしめてると思うけどな」 「……そーゆうことじゃなくてね」 胸元に伸びてきたオーフェンの手を、ぺしっと叩く。 それに彼は黒い目をきょとんと瞬いた。 彼の手はその程度で離れるほど、かわいらしいものではなかったが。 「わたしに対してはオーフェンてそーゆう下心があるじゃない?そうじゃなくて、もっと純粋に大好きだよって抱きしめてほしいっていうか……」 口をとがらせて主張する。 しかしそんなクリーオウの想いが理解できなかったのか、オーフェンはますます不思議そうに言ってきた。 「つまり?」 「…………」 彼女にしてみれば、だいぶ噛み砕いて説明したのだが、彼にはまだ足りないようである。 というよりもこれは男女の差というやつで、男の人には難しいのだろう。 根本的な違いだとすると、今度は説明する方が困難に思えた。 どれだけ語り聞かせないといけないのかと想像すると、次はめんどうくさくなる。 少し拗ねて甘えてみたものの、もう冷めてしまった。 小さくため息を吐く。 「クリーオウ?」 悩んでいると、困ったようなオーフェンに顔をのぞきこまれた。 今まで甘い雰囲気だったのに、今度はもうその気配はない。 オーフェンはちゃんと彼女のことを気にしてくれている。 そういえばこんな風な愛され方は、ごく最近も覚えがあった。 抱きしめられていないだけで、同じくらい純粋に接してもらっている。 クリーオウが彼に抱きつくと、やんわりと抱きしめ返された。 その感触にうっとりと目を閉じる。 彼女が求めていたのはこれだった。 形が違うだけだと彼女の方が理解できたので、これからは娘にやきもちをやかなくても済むだろう。 いつまでもこの腕に抱かれていたい。 と思った瞬間押し倒された。 2010.4.9 ラチェットがお父様に抱きあげられひざの上にのせられてね。 ちょっとうらやましかったというかね。 うん。 |
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