一歳を何カ月か過ぎたラッツベインは、何も支えがなくてももう立派に一人で歩けるようになった。 自分で好きな場所へ行けるのが嬉しくて仕方がないというように、常に嬉しそうにしている。 歩きたい盛りなのだろう。 天気の良い日などは外に出て、歩いたり転んだり、活発に動きまわっている。 今の時期は気候も良く、外で遊ぶのにとても適していた。 まだまだ完成にはほど遠い庭で、それでも柔らかい芝生の敷かれた地面をラッツベインが歩きまわる。 不格好に足を動かす娘は、何ともいえず愛らしかった。 両足でしっかり立ちながら、時折母親であるクリーオウを見上げている。 クリーオウはにっこりと笑い、少し離れた場所からパンパンと軽く手を叩いた。 それにラッツベインは、つぶらな黒い瞳をきょとんとさせる。 彼女のそんな顔を見て、クリーオウはまたくすっと笑った。 「あのねラッツ、今からお母さんがお手本見せるから同じようにしてね?」 言うが、ラッツベインは不思議そうにしているだけである。 ただ、クリーオウのことをじっと見てくれているので、興味があることは分かった。 ラッツベインをまっすぐに見返し、彼女は有名な歌を歌う。 「幸せなら手をたたこう♪」 パンパン と、手拍子2回。 「幸せなら手をたたこう♪」 パンパン と、もう一度手拍子2回。 「幸せなら態度で示そうよ、ほらみんなで手をたたこう♪」 パンパン リズム良く手拍子をする。 これはクリーオウの大好きな歌だった。 シンプルなのが良い。 気分が良い時などは、ひとりで口ずさんだりもする。 だからというわけでもないが、ラッツベインにも好きになってほしいと思った。 「どう?分かった?」 大丈夫かな、というように聞く。 ラッツベインは、相変わらず立ち止まってこちらを見上げているままだった。 子供特有のしぐさである。 この瞬間も娘はすごい早さで知識を吸収しているのだろう。 まだ早いかもしれないと感じつつ、クリーオウはにっこりとうなずいた。 「じゃあ一緒にやってみましょうか。お母さんが歌うから、ラッツは手を叩いてね」 言うと、彼女はあどけなく笑う。 両手を胸の位置まで上げると、ラッツベインも真似をした。 準備完了らしい。 たったそれだけですでにフラフラしているが、おそらく大丈夫だろう。 クリーオウは幼い娘のために、少しゆっくりと歌を歌った。 「幸 せ な ら 手 を た た こ う ♪」 パンパン 立派な手拍子。 一瞬思考が停止したが、彼女は気を取り直して続けた。 「幸 せ な ら 手 を た た こ う ♪」 パンパン 「……幸 せ な ら 態 度 で 示 そ う よ、ほ ら み ん な で 手 を た た こ う ♪」 パンパン 「…………………………………………」 とてもリズミカルに歌えた。 合の手の拍手も力強く完璧だった。 クリーオウは娘にそれをお願いしたのだから、むろん彼女は手拍子などしていない。 補足すると、ラッツベインはまだできないレベルのリズムの取り方だった。 実際、ラッツベインは両手をはじめの位置から動かせず、じっとしている。 戸惑っているのだろうが、その気持ちを上手く表せないでいるらしかった。 大きくため息を吐いて、彼女が半眼になる。 「……オーフェン……邪魔しないでよ」 てっきり眠っていると思っていたのだが、起きていたらしい。 夫であるオーフェンは、庭の木にもたれて二番目に生まれた娘を抱きながら、満足そうに両手をかまえていた。 どうだとでも言いたげな表情。 彼に抱かれているエッジは、ぬいぐるみのように大人しくしている。 「せっかくラッツが新たな成長を遂げようとしてたのに!」 両手を腰に当てて物々しく言うと、オーフェンは心外そうに反論してきた。 「いいじゃねーか、このくらい。ラッツベインにはまだ早いと思ったから、代わりに俺がだな」 「どーしてまだ早いってオーフェンが決めつけるのよ。できるかもしれないじゃない。まったく……」 毒づいて、オーフェンからラッツベインに視線を戻す。 「ラッツベイン、ごめんね。もう一回するから、がんばって手拍子してね?」 気を取り直して言うと、ラッツベインはまだ両手を胸の前に上げたまま、こくっとうなずいた。 うなずき返して、クリーオウが再び歌を歌う。 「幸せなら手をたたこう♪」 パンパン 「……………………オーフェン」 げんなりして、彼女は再びオーフェンを見る。 彼は口笛でも吹きそうなほどひょうひょうとしている上、満足そうだった。 「幸せなら手を叩くんだろ?」 にっこりと、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。 そんなことを言われてしまっては、クリーオウに反論の余地はない。 代わりに、彼女も苦笑しながら手を叩いた。 2010.3.14 何だかんだでこのネタ三回目。 でもずっとこれを書きたかったんです。 無断だけど、無駄んじゃない(メイ、サツキ風に)! Aさんに捧げます。 |
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