ダメダメオーフェンRe. vol.1





今回はパラレル、しかも現代編。

あの人は今日も今日とていつもの通りですが、文明の利器を手にしたオーフェンさんのダメっぷりはというと……。





いくらオーフェンははぐれ旅が似合うといっても、現代社会でそれが通るのは学生かフリーターのみである。

彼にもそんな暗黒時代があったらしいが、とある女性と出会うことで問題は一気に解決し、不自然なくらい自然にエリート街道へ戻ってきていた。

今ではマジクが学業の合間にアルバイトへ来ているとある大企業のエリート社員――プラス自分の世話係――だったが、近くで見るとオーフェンのダメっぷりは少々酷かった

それは自分たちのいる部署内でもかなり有名である。

本人はある程度は隠しているつもりらしいが、あまり隠れていないのが現状だった。

例えば、

♪ピル

何の変哲もない、携帯電話の呼び出し音がする。

だというのに、オーフェンは呼び出し音の一節が終わらないうち満面の笑みを浮かべて携帯電話を手に取った。

パカンと画面を表示させ、ボタンを素早く連打してでれっと笑う。

内容は分かるわけがないが、誰からの連絡が来たかは聞かずとも分かった。

オーフェンがこんな反応を示す相手は、ひとりしかいない。

しばらく――五分ほどか――して、彼が携帯電話から顔をあげると、パソコンのディスプレイを挟んでちょうど正面にいるマジクにそれはそれは嬉しそうに報告してきた。

「あんな、今日の夕食、サバの味噌煮だって」

「はぁ……聞いてないです

仕事中のため、冷たく返す。

が、それは通じなかったようで、オーフェンは嬉しくて仕方がないという顔で言ってきた。

「なんかこう、家庭料理って気がしないか?おふくろの味っていうか。サバの味噌煮……夫婦って感じだ♥」

ちなみにオーフェンは、まだ独身である。

けれど婚約中でもあった。

三か月後に控えた恋人の大学卒業と同時に結婚する。

新居はすでにマンションを借りているらしく、オーフェンが先に住んでいた。

そこによく恋人が遊びに来ているらしい。

楽しみだ……♥

「って、それだけですか!?

幸せそうな表情で再びディスプレイに向かうオーフェンに、思わずツッコむ。

すると彼は、キーボードに指をのせたままきょとんとした。

「いや、だって五分くらいもぼーっとしてたのに、内容はサバの味噌煮だけ?」

「ん?ああ。文面とか絵文字がかわいいなって思ってたんだが、そんなに時間経ってたか?」

「……………………」

返す言葉が見つからない。

だがまあ、これはマジクの経験不足なのだろう。

まわりにも仕事仲間はたくさんいるが、誰もが我関せずという状態で、無表情に仕事をしている。

私語厳禁というわけでもないのだが。

「……けど、すぐに返信しようとはしないんですね」

勤務中だからだろうが、この男の性格を考えると感心に値する。

だがオーフェンは、爽やかな笑顔でけろりと言ってきた。

「ん?返事はするぞ、もちろん。電話で。けど今この仕事、手が離せなくてな。あと五分くらいは待っててもらわないと」

にこやかに話しつつ、オーフェンの手はTVの中でしかお目にかかることがないくらいの速さでキーボードを叩いていた。

マジクには真似できそうにもないのだが、この男にはまだ余裕があるらしい。

マジクがしゃべりかけても、あまり邪魔に思わないようだった。

「メールの返事?をわざわざ電話で?」

今聞いたような呟きメールならば、普通はスルーか、簡単なメールを返す程度である。

けれどオーフェンの場合は違うようだった。

だって、声聞きたいだろ。メール打ってくるってことは、むこうも暇はあるわけだし」

じゃなくて

こちらが仕事中であるというのだ。

マジクも彼女のことはよく知っているが、返信を期待しているわけでもないだろう。

いろいろと型破りな女性ではあるが、決して常識を知らないわけではなかった。

けれどそんなことを仮にも上司に言えるわけがない。

上司のさらに上司も何も注意しないのであれば、マジクが口を出すことではないのだろうが、何となく腑に落ちなかった。

「……けどそれだけで電話するなんて、通話料すごそうですね」

金ならあるだろうが、こんな些細なことで電話をするのであれば、軽く万の単位で数字が動くだろう。

とてもではないが、マジクにはできそうにもない。

しかしオーフェンは、金の件で自慢するのではなく、さらに別方向で自慢してきた。

「いや、あいつはケータイ二個持っててな。一個は俺用なんだ」

「へぇ」

言われてみれば、彼女は携帯電話を二台持っていたような気がする。

使い分けるのもめんどうなので、一台減らそうかなとも言っていた。

「それが?」

「一個は俺の名義のケータイなんだよ。つまり家族割だから、どんだけ電話しようがメールしようが無料ってわけだ」

「ああ、あるほど」

「ただあいつも二個あんのはめんどうらしくてな。姉貴たちともけっこう電話するらしくて、あっちの家族割もあるし。俺があっちの乗り換えてもいいが、名義とか料金をどっちが持つかとか考えるとどうもな。悩んでるところなんだよ。ケータイ代は別の口座で引き落とせるかな?そこらへんもまた調べないといけなくて……暇がないから困ってるんだよ」

と、まったく困っていないような顔で悩みを打ち明けてくる。

実のところ、悩みはなさそうに見えた。

と、今度はブーブーと聞きなれた機械が振動する音が聞こえてくる。

誰かの携帯電話のバイブの音だろうと知らないふりをしてマジクは仕事に戻った。

しかしよくよく見ると、オーフェンの携帯電話が鳴っているらしかった。

色のついた小さなランプが点滅し、その機械は机の上をわずかに移動している。

先ほどは音が鳴っていたのだが、いつの間にかマナーモードへ切り替えたのだろうか。

「……鳴ってますよ、オーフェンさん」

気付いてないのだろうかと、マジクが指で示す。

「ん?ああ」

だがオーフェンは興味なさそうに一瞥し、仕事を続けていた。

簡単に予想できることだが、彼女ではないということだろう。

「……取らないんですか?」

今忙しいんだ」

恋人からのメールは速攻で取ったというのに、差が激しい。

「けどなんか、緊急なんじゃないですか?ずーっとコールしてますよ」

「ん?そうらしいけど、今取ったらあいつに電話するのが遅れるじゃねーか。後でかけ直す。

恋人>>>>>>>>>>>>>>仕事緊急事態。

(よくクビにされないな)

注意されないということは――あきらめもあるのだろうが――これまでどうにかなってきたのだろう。

実際、オーフェンは部署の中で誰よりも仕事ができた。

ちなみに本当の緊急事態には仕事を優先させたような気もしないではないことをフォローとして入れておく。





きっかり五分後に、オーフェンはいそいそと恋人へ電話をかけるために席を外した。

昼休みが終わってからずっと根を詰めて仕事をしていたので、妥当な休憩である、かもしれない。

その間に、味くはオーフェンの席に移動した。

彼のパソコンにしかないソフトを使うためで、オーフェンの許可も得ている。

オーフェンのデスクはいかにも仕事ができる男、というようにマジクが感嘆するほど物が綺麗に並べられていた。

同時に(やはりというべきか)呆れる。

良く目立つ場所に恋人の写真が飾られていた。

枚数は――意外に――多くない。

デスクマットの間に数枚と、メモスタンドに数枚。

どれも良く撮れているので、お気に入りなのだと思えた。

文房具類も、会社で支給されるものとは違う、何やらやたらファンシーなものがいくつかあるが、深く追求しまい。

そしていちばんおそろしいのは、オーフェンのパソコンだった。

デスクトップは恋人の写真!ということはない、まだ

けれどマジクは、彼がそうしたいのを知っていた。

家族の写真をパソコンの壁紙にしている同僚をオーフェンはうらやましそうに見ている。

が、彼のパソコンの中は恋人の写真で詰まっていることも事実だった。

証拠に、スクリーンセーバー代わりの、画面の隅にある小さなスライドショーには、恋人の写真が次々と映し出されている。

オーフェンは仕事中ににやけて静止することがよくあるのだが、これを見ているのだろうと容易に想像できた。

スライドショーがあるということは、もちろん元になる画像が保管されているだろう。

現在のパソコンはメモリ容量が大きいので、数えきれない量があるに違いない。

そうこうしているうちに、オーフェンが返ってきた。

意外と早い――とは思ったが、十五分は経っている。

ちょうど切りがついたので席を立つと、見違えるほど機嫌の良いオーフェンがぽんとマジクの肩を叩いてきた。

「もういいのか?」

「あ、はい。済みましたから」

「ふぅん。なあ聞いてくれよ。あいつ、新しい料理の本を買ったって言ってたんだよ。それって俺のためってことだよな?」

あーそうですね。もうすぐ結婚ですからね」

オーフェンのくだらないのろけ話でも、しっかりと相づちを打ってやらないと怒り出す

めんどうに思いながらも、マジクは適当に返事を返した。

「本屋のついでに雑貨屋にも寄って食器の類も見てたんだと。それって俺との新生活を想像してたってことだよな?」

「そうですね。そう思えば幸せなんでしょう――ってすみません」

ポケットの中の携帯電話(もちろんマナーモードにしてある)が鳴っていることに気づき、会話を止める。

取りだすと、着信はマジクの幼馴染からのようだった。

怪訝に思いながらも、電話を取る。

「どうしたの、クリーオウ?」

背後を気にしながら、小声で幼馴染の名前を呼ぶ。

と、幼馴染――クリーオウは、電話越しでも良く通るきんきん声で言ってきた。

「あ、マジクー?ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「え?ごめん、今仕事中なんだ。急ぎじゃないなら後でかけ直したいんだけど」

「そうなの?オーフェンとさっきまで話してたから休憩かなんかだと思ってたんだけどー。まーいいわ。じゃ、待ってるからー」

「うん。ごめんね。じゃあねー」

手短に話して、ピッと通話を終了させる。

今のは仕事をしている人間として、なかなか良い対応だとマジクは胸中で満足していた。

と、背後で何やらドス黒い気配を感じて振り返る。

会話中、マジクは自分の席へ戻ろうとしていたのだが、どうやら後をぴったりとついてきたらしい――オーフェンが般若のような表情でこちらに顔を近付けてきていた。

「クリーオウだと?クリーオウの声だったよな、今?」

「は、はい……。それが何……か?」

素早く会話の内容を思い返すが、特にやましい部分はない。

けれど、そんな常識が通用しないのがオーフェンだった。

クリーオウ――オーフェンの婚約者のことになると、彼はどんな些細なことでさえ喜怒哀楽が何倍にも膨れ上がる。

「それが何かじゃねえ!俺なんて仕事中にあいつから電話があったことなんて一度もねえんだぞ!?メールだって、仕事の時間は一日一回あるかないかだ。それをっ……!

「えーっけどそれは彼女がオーフェンさんの仕事の邪魔をしないようにってちゃんと考えてるからですよ。いいじゃないですか、何も考えずに電話してくるような人なんかよりはよっぽど分別があって。ぼくに電話がかかってきたのはえーと……えーと……」

完全に目を逸らして冷や汗を流しながら、必死で言い訳を考えていた。

ここでうまくはぐらかさないと、大変なことになってしまう。

「そう、彼女、ぼくがバイト中だってこと知らないからかけてきたんですよ。バイトの曜日とか時間とか、恋人でもあるまいし把握なんてしてないですもん、お互い」

半分以上嘘だが、何でも良いのでごまかしたかった。

ところどころクリーオウのことを褒めるのも、ごまかしテクニックの一種である。

オーフェンはクリーオウの話をすれば、たいていは喜んだ。

「あー、そういえばデスクマットにはさんであるクリーオウの写真すっごいよく撮れてましたね!?どどこどこで撮った写真なんですか!?」

「お。分かるか?かわいいだろ?あれは半年くらい前に日帰り旅行で撮ったやつでな。ちょうどデジカメを買い替えたこともあってメモリを――」

「へぇー」

完全な作り笑いを浮かべながら、相づちを打つ。

どうやら今回もうまくごまかせたようだった。

あとはオーフェンの気の済むまで自慢話をさせてやれば、何について怒っていたかなど忘れてしまうだろう。

オーフェンは仕事もでき、面倒見も良い信頼できる先輩なのだが――それから後は、伏せておくことにする。






2009.12.1
リクエストです。ダメダメオーフェン。何年ぶり?
現代ver.のダメダメ、婚約中という設定でして、年齢は現代風でいくとオーフェン25.クリーオウ22.マジク19になりますか?
大人過ぎてとても違和感が(笑
21.18.15でも良いですが、これもなんかおかしい?高校卒業と同時に結婚てねぇ。
ダメダメのオーフェンに現代利器を与えてしまうと犯罪というか変態なことをしまくってるんじゃなかろうかと心配してたのですが、たかが電話とメールだけでこの暴走っぷり。
途中追いつけなくて困りました(笑)。楽しかったー!
Re.は勝手に浮かんできましたが、なんのRe.でしょうね。
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