□ 三日目 □


何となく、朝する話ではないと考え、オーフェンは昼食の際にその話を切り出した。
「お前、昨日と一昨日、俺のベッドにもぐり込んできたぞ」
大人数がざわめいている食堂の隅で、彼が目の前のクリーオウに呟く。
クリーオウはパンを千切ろうとしていた手を止め、きょとんとした。
その表情は心底不思議そうで、まったく心当たりがないと物語っている。
何言ってんの、この人?とでも聞こえてきそうな怪訝顔だった。
「だから、たぶんトイレの後か?部屋に戻ってくるだろ。そのときに自分のベッドと間違うんだろうな。起こそうとしてもちっとも起きやしない」
「……わたし、ちゃんと自分のベッドで寝てるけど」
不服というよりは確認のためというように、クリーオウが言ってくる。
オーフェンは半眼になって、きっぱりと否定した。
「それは俺が運んでやってるからだよ。ったく、迷惑な」
「迷惑なら出てくわよ」
毒づくと、彼女は視線を下に向けて唇をとがらせる。
それにオーフェンは言ったことを少し後悔した。
基本的に他人の迷惑など考えない娘だが、面と向かって告げると落ち込む。
それが一瞬だとしても、傷つけたことには変わりない。
特に今回は、場合によっては洒落にならない背景があるため、言葉は選ぶべきだった。
気まずい思いで弁解する。
「べつに出てけとまでは言わないさ。俺が言いたいのは、こう……気軽に男のベッドにもぐり込むなってことで」
「…………」
まだ怒った表情のまま、クリーオウはちらりとこちらを見やる。
彼女はパンを千切って飲み下すと、ぽつりとつぶやいた。
「ごめん、気をつける」
「……ああ」
とりあえず、分かってくれたらしい、いろいろと。
しかし沈黙が続いたので、オーフェンはこっそりと溜息を吐いた。
他の誰と話が途切れても気にしないのだが、クリーオウのときだけはどうにも気分が良くない。
すべての沈黙が悪いわけではなく、彼女が負の空気をまとってしまうのが嫌いだった。
関わりたくというわけではない。
何とかして元気付けたい。
「いっそのこと、ベッドを交換するか?」
「へ?」
提案すると、クリーオウは素っ頓狂な声を出した。
落ち込んでいるような声ではなかったので、意外である。
「何だった?」
しかも聞いていなかったらしい。
オーフェンは苦笑して、もう一度言い直す。
「あんまり間違うようなら、ベッドを交換しようかなって言ったんだ」
「嫌よ」
えらく強気に、クリーオウが反対してきた。
「……何で」
「わたし、窓側がいいもの。それに誰かが侵入してきたら真っ先に襲われるのは入り口側の人だし。そんな危険な場所でわたしを寝かせる気?」
「…………」
誰も侵入などして来ないと思うが。
しかし説明してもどうせ聞かないだろうから、オーフェンはそれ以上反論しなかった。
「べつにいいけど。とにかく気をつけろよ」
「?オーフェンが先に襲われるんだから、わたしは特に気をつけなくていいんじゃないかしら」
「………………」
話の内容まで忘れてしまったらしい。
何を言っても無駄だと、オーフェンは深く深く嘆息した。






2009.4.21
忠告は必要なのです。
後は自己責任(笑)

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