□ 二日目 □


船に乗り込んでから十二日目。
やっと馴染んできた船旅は、想像以上に楽しいものだった。
行動できる範囲や、できることも限られてはいるが、それほどストレスには感じない。
あの人がそばにいるから、きっと自分はそれだけで満たされるのだろう。
クリーオウが彼に追いついたとき、この船はすでに出航していた。
それに無理矢理混じり込んだから、当然船は彼女のいる場所までは用意していない。
何百人もの人が参加している船旅なので、食料を気にする必要はなかった。
移住を目的にしているので、衣服も新しいものがいくらか積み込まれている。
問題になったのは、クリーオウが寝泊まりする部屋だった。
常識的に考えて、出航してから人が増えるようなことは(子供が生まれるのを除き)まず、ない。
それ故、部屋数に合わせて乗船する人数は決まる。
だからというべきか、船の中にはクリーオウが寝泊まりできるような余りの部屋はなかった。
それでも何とかならないかと、オーフェンが彼女のために手を尽くしてくれたのだが、こればかりはどうにもできなかったらしい。
彼は困り果てた様子で、自分の部屋を譲ると言ってきた。
しかし良く聞けば、オーフェンは責任者の中でも特別良い部屋を用意されたらしく、広い部屋をひとりで使うように割り振られたと説明される。
そしてその部屋は、ベッドが二台あるとのことだった。
ならばわざわざ労力を割いてまで、別の部屋を探す必要はない。
二人きりとはいえ、まったく知らない他人とひとつの部屋に閉じ込められるわけではないのだ。
クリーオウは同室でも大丈夫だということをオーフェンに伝え、結果彼女たちは同じ部屋で生活することになった。
本来なら特別なことだろうが、一年以上前も似たようなことをしていたのだし、気負いすぎることもない。
それからというもの、オーフェンとは夜ごとたくさんの話をして、彼女は新しく始まった旅を楽しんでいた。
消灯時間になればそれぞれのベッドで清潔な毛布に包まれる。
いつものようにおやすみと告げて、クリーオウは眠りに落ちた。


夜中、目を覚ましたクリーオウは寝ぼけながらトイレに行ったのを覚えている。
部屋に戻ってきて、彼女は再び眠りについた。
スイートルームのベッドは柔らかくて、とにかく居心地が良い。
特にそこは温かくて安らかで、眠るのに数秒もかからなかった。
夢の中にもオーフェンが出てきて、彼女の名前を呼ぶ。
彼に名前を呼んでもらうのは好きだ。
ずっと聞いていたくて、夢から覚めまいと半分眠ったままとにかくがんばる。
しばらくするとふわりと体が浮き、さらに気持ち良くなった。
どうしたのかと目を開けると、オーフェンが困ったような、でも優しい表情で自分を見下ろしてきている。
たまに見せてくれるその笑顔が、クリーオウは好きだった。
彼女もまた微笑んで、眠気に逆らわずに目を閉じる。
夢なので、オーフェンの笑顔は次に起きたときには忘れているだろうが、覚えていられたらいいと思う。
だから懸命に記憶を刻みつける。
そのうち温かさが去って、クリーオウは悲しい思いをした。
温かさはそのままオーフェンのような気がして、思わず手を伸ばす。
その手が何かをつかむことはなかったが、ほんの少しだけ温もりが戻った気がした。






2009.4.21
短いですが。
クリーオウの心情も入れておきたかったので。
ここまではとりあえず、純粋に。

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