□ 暗闇の中で □


何の特徴もなく、同じ景気しかないように思える荒野。
暗殺者との旅は陰鬱で、安らぎはなかった。
疲労は蓄積され、旅が始まってから何日目なのか、自分がどこにいるのかすら定かではない。
つらい。
苦しい。
でもだからといって旅を止めるつもりはない。
後悔もなかった。
けれど。
ただ荒い呼吸を繰り返す。
どこへ向かっているのかも分からないままひたすら歩いていると、今度は誰かに頬を殴られた。
意外だったが、それほど痛くはない。
手加減をされているような。
「………………」
そこでクリーオウは目を開けた。
夢から覚める。
すぐ近く、暗闇の中で、誰かが不安そうな表情でクリーオウをのぞき込んでいた。
数週間一緒に旅をした暗殺者かと警戒したが、違う。
あの男は、彼女のことを気遣ったりしない。
「クリーオウ、大丈夫か?」
名前を呼んで、心配してくれるのはオーフェンだった。
汗で髪が張り付いてしまった額を、タオルで拭ってくれる。
「うなされてたぞ」
だから起こしてくれたのだろう。
クリーオウは小さく息を吐いて、体を起こした。
悪夢を見るのは昨日今日に始まったことではない。
なれるというのも変だが、しばらくすれば落ち着くことを経験上知っていた。
それに今はオーフェンがいてくれるので、悪夢を見る回数も減っている。
クリーオウは目を閉じて、彼の首に腕を巻きつけた。
オーフェンがそばにいてくれるので、怖い夢を見てもひとりで耐えなくてもいい。
しっかりとしがみついていると、彼が背中を優しく撫でてくれた。
心地良い感触に、体の力が抜ける。
彼の腕の中では、悩みもすべて消えていく。
オーフェンと家族になれて、本当に良かった。
自分だけの安らぎが、そこにはある。
「…………?」
そこまで考えて、クリーオウはぱちりと目を開けた。
自分は今当然のようにオーフェンに抱きついているが、いつから家族になったというのか。
霧が晴れていくように、今の状況が整理されていく。
オーフェンとは家族どころか、恋人ですらない。
いったい何を勘違いして、そんなことを思ったのだろうか。
「ごめん、突然抱きついたりして。わたし、寝ぼけて……」
言いながら、あわてて体を離す。
ベッドの上なので、距離はほとんど取れなかったが。
自分の失態に赤面し、オーフェンの顔を見ることさえできない。
彼とは、船の部屋数の都合上、同室になっただけだ。
こんな夜中に起こしてしまって、さぞ迷惑なことだろう。
その上クリーオウに抱きつかれて、対応に困ったはずだった。
背中を撫でてくれたのは、彼女を哀れんだからか。
自己嫌悪やら何やらで、落ち込む。
「ごめんなさい」
苦い味をかみしめて、クリーオウはもう一度謝った。
痛い沈黙。
優しい抱擁。
(え?)
驚く間もなく、オーフェンがゆったりと抱きしめてきた。
「こんなんでお前が落ち着くんなら、安いもんだろ。落ち着けばの話だけどな」
彼女を労わるようにささやいてくる。
苦笑している彼の体温が心地良くて、クリーオウは目を閉じて彼に寄りかかった。
落ち着くに決まっている。
この人は、彼女が追いかけてきた人なのだから。
けれど早く離さなくてはいけない。
オーフェンは優しいから、クリーオウが頼っても許してくれる。
だが彼は恋人でも家族でもないのだ。
だから早く離さなくては。
(でも)
悪夢を見たとか心細いとか、そんな理由ではなく。
離れたくなかった。






2009.4.15
同部屋になるお話を書いてたら、こんなのも浮かんできました。
趣味です。
でも本当にもし同部屋になったとしたら、ありえなくもない?

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送