何の特徴もなく、同じ景気しかないように思える荒野。 暗殺者との旅は陰鬱で、安らぎはなかった。 疲労は蓄積され、旅が始まってから何日目なのか、自分がどこにいるのかすら定かではない。 つらい。 苦しい。 でもだからといって旅を止めるつもりはない。 後悔もなかった。 けれど。 ただ荒い呼吸を繰り返す。 どこへ向かっているのかも分からないままひたすら歩いていると、今度は誰かに頬を殴られた。 意外だったが、それほど痛くはない。 手加減をされているような。 「………………」 そこでクリーオウは目を開けた。 夢から覚める。 すぐ近く、暗闇の中で、誰かが不安そうな表情でクリーオウをのぞき込んでいた。 数週間一緒に旅をした暗殺者かと警戒したが、違う。 あの男は、彼女のことを気遣ったりしない。 「クリーオウ、大丈夫か?」 名前を呼んで、心配してくれるのはオーフェンだった。 汗で髪が張り付いてしまった額を、タオルで拭ってくれる。 「うなされてたぞ」 だから起こしてくれたのだろう。 クリーオウは小さく息を吐いて、体を起こした。 悪夢を見るのは昨日今日に始まったことではない。 なれるというのも変だが、しばらくすれば落ち着くことを経験上知っていた。 それに今はオーフェンがいてくれるので、悪夢を見る回数も減っている。 クリーオウは目を閉じて、彼の首に腕を巻きつけた。 オーフェンがそばにいてくれるので、怖い夢を見てもひとりで耐えなくてもいい。 しっかりとしがみついていると、彼が背中を優しく撫でてくれた。 心地良い感触に、体の力が抜ける。 彼の腕の中では、悩みもすべて消えていく。 オーフェンと家族になれて、本当に良かった。 自分だけの安らぎが、そこにはある。 「…………?」 そこまで考えて、クリーオウはぱちりと目を開けた。 自分は今当然のようにオーフェンに抱きついているが、いつから家族になったというのか。 霧が晴れていくように、今の状況が整理されていく。 オーフェンとは家族どころか、恋人ですらない。 いったい何を勘違いして、そんなことを思ったのだろうか。 「ごめん、突然抱きついたりして。わたし、寝ぼけて……」 言いながら、あわてて体を離す。 ベッドの上なので、距離はほとんど取れなかったが。 自分の失態に赤面し、オーフェンの顔を見ることさえできない。 彼とは、船の部屋数の都合上、同室になっただけだ。 こんな夜中に起こしてしまって、さぞ迷惑なことだろう。 その上クリーオウに抱きつかれて、対応に困ったはずだった。 背中を撫でてくれたのは、彼女を哀れんだからか。 自己嫌悪やら何やらで、落ち込む。 「ごめんなさい」 苦い味をかみしめて、クリーオウはもう一度謝った。 痛い沈黙。 優しい抱擁。 (え?) 驚く間もなく、オーフェンがゆったりと抱きしめてきた。 「こんなんでお前が落ち着くんなら、安いもんだろ。落ち着けばの話だけどな」 彼女を労わるようにささやいてくる。 苦笑している彼の体温が心地良くて、クリーオウは目を閉じて彼に寄りかかった。 落ち着くに決まっている。 この人は、彼女が追いかけてきた人なのだから。 けれど早く離さなくてはいけない。 オーフェンは優しいから、クリーオウが頼っても許してくれる。 だが彼は恋人でも家族でもないのだ。 だから早く離さなくては。 (でも) 悪夢を見たとか心細いとか、そんな理由ではなく。 離れたくなかった。 2009.4.15 同部屋になるお話を書いてたら、こんなのも浮かんできました。 趣味です。 でも本当にもし同部屋になったとしたら、ありえなくもない? |
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