□ Clap your hands □


それはどこから伝わってきた風習だとか、そもそも何に向かって祈るのだとか、この際無視することにする。
そもそも本気で祈っているわけでもないし、気休めか、もしくは自分なりの決意を具体的にする行為だろう。
願いが叶わなかったからといって、自分でもよく分かっていない何かに一生恨みを抱くような人間を、オーフェンは見たことがなかった。
とまれ、オーフェンもさして抵抗することもせず、手を叩いて目を閉じる。
ほぼ同時に、自分の隣にいるクリーオウも同じことをしていた。
「何を祈ったんだ?」
神聖な(と呼ばれている)場所を出てしばらくしてから、オーフェンは彼女にそう聞いた。
季節は春で、そこら中に花が咲き乱れている。
暑すぎず寒すぎず、散歩をするには最適な気候だった。
ゆっくりと歩くクリーオウに歩調を合わせながら、彼女の返答を待つ。
なかなか返事がなかったのは、彼女が考え込んでいたからのようだった。
「……そーゆうのって、言ったら願いが叶わないって聞いたことがあるんだけど」
その質問自体が不服だったのか、クリーオウが口をとがらせてこちらを見上げてくる。
たったそれだけのことでも彼女が愛しく思えて、オーフェンはクリーオウの耳元でささやいた。
「教えてくれたら俺が叶えてやるよ」
実際にそう思う。
突拍子もないことは無理だが、不可能でなければ何とかしてやりたい。
深く考えていることではなく、単にオーフェンが彼女の願いを叶える役目になりたいのだ。
それでクリーオウが喜んでくれれば、自分は嬉しい。
彼女はそれに舞い上がるでもなく、微妙な笑みを浮かべた。
「早く赤ちゃんができるといいなって」
「何だよ。それこそ俺に言えよ」
呆れてうめく。
軽く彼女に口付けてから、綺麗な青い瞳をのぞき込んだ。
「早速――」
「違った。しばらくはオーフェンと二人きりで暮らしたいから、一年くらいは赤ちゃんいらないかなって」
言いかけたところに、真逆の願いを聞かされる。
オーフェンは目をぱちくりさせてから苦笑し、ぽんと彼女の金髪を叩いた。
「まあ努力はしてみるけど。できたらごめんな」
「…………」
真摯に告げるが、クリーオウは無言。
というか、曖昧な笑みを浮かべていた。
それがどういう意味を持つのか全く分からなかったので、オーフェンは彼女が話してくれるのを待つ。
二人で花の中を歩いているので、沈黙は少しも苦にならなかった。
しばらくすると、クリーオウはやや疑わしそうにこちらを見上げてきた。
話をする気になったのかと、オーフェンが視線で問い返す。
「オーフェンはさ」
「ああ」
「わたしがお願いしたら、本当に叶えてくれるの?」
「まあ、できることなら」
改めて尋ねられると、いささか不安になった。
けれど偽りはないため、こくりとうなずいてみせる。
すると彼女は急に立ち止まり、こちらに向き直ってきた。
「?」
何かと問う間もなく、ぱんぱんと手を合わせてくる。
「オーフェンがわたしのことを好きって言ってくれますように」
言ってから、クリーオウは薄く目を開いて、ちらりとオーフェンを見上げてきた。
「何だそれ」
こらえきれなくなって、笑い出す。
「……いいの、言ってみただけだから」
がっかりしたようにうめいて、彼女はこちらの返事を待たずに歩みを再開した。
苦笑して、彼がその後を追う。
クリーオウと手をつなぎ、彼女の気を引いてから、オーフェンは告げた。
「好きだよ」
素直な言葉を口にする。
それにクリーオウはまた立ち止まり、目をぱちくりさせた。
ぽかんと、オーフェンを見上げる。
「?」
その反応が意外で、彼もまた立ち止まって小さく首をかしげた。
べつに、おかしなことを言ったつもりはないのだが。
「はじめて聞いた」
ほんのり頬を桜色に染めて、クリーオウが呟く。
それもまた意外で、オーフェンはさらに首をかしげた。
「そーだっけ?」
彼女のことを好きになってから、何度でも伝えたと思っていたのだが。
しかしクリーオウがそう言うからには初めてなのだろう。
その事実こそが、オーフェンを驚かせた。
だからといって、何か変わるわけでもない。
オーフェンはまだ呆然としているクリーオウの手を引いた。
「んじゃまあ、帰ってからゆっくり愛でも語るか」
「……そーゆーいやらしい発言はけっこう聞いてるんだけどね」
苦笑しながら、クリーオウが指摘してくる。
「そーだっけ?」
自分ではあまり違いが分からない。
けれどまあいいやと、オーフェンは花の中を彼女を歩いた。






2009.4.11
「あいつが〜」終了して一作目。
はい、べ・つ・じ・ん!だから途中で書くの止めたんですけど……。
もういいかと。これが自分のけじめであるなら、それもありでしょ。
はぐれ旅と無謀編が終わってから書いた一作目の印象がけっこう強くて、ちょっと関連付けしてみたかったんです。
最近、私の書くオーヘンさんがクリーオウを好きすぎるせいか、「好き」ってぽんぽん言っちゃってます。キャラが違うぜ(涙
さあ、ここからまた始めよう。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送