□ 追加のプレゼント □


まだ昼間だというのに、薄暗い室内。
いくつかある窓には全て色付きの硝子が嵌められていて、太陽の光を通常とは異なる色で取り入れている。
デザインの凝った照明たちも、ただ明るく照らすというよりは、光量を調節するために設置されていた。
音楽は会話の邪魔にならない程度の音量で、静かに流れている。
もう何年も通っている、馴染みの喫茶店だった。
オーフェンはそこでコーヒーを飲みながら、妻を待っている。
いつものところで待っていて、と言えば、自分たちはこの喫茶店を指した。
かれこれ三十分ほど居座っているが、この現実離れした空間にいるため飽きることはない。
時間はゆっくり流れており、思考に没頭することもできた。
店員とも顔見知りなので、どれだけ長居しようと気兼ねしなくても済む。
オーフェンが新聞の経済欄を読み終えるころ、客の来店を知らせる鐘の音がした。
時間的にもそろそろかと踏んでいたのだが、予想通りだったらしい。
彼女は店の奥に座ったこちらを見つけて、軽く微笑んだ。
両肩に荷物をたくさん下げており、買い物を存分に楽しんできたのだろう。
疲れた顔も見せず、クリーオウは彼の前のソファ――この店が気に入っている要因のひとつ――に腰かけた。
「待った?」
「まぁ、それなりに」
新聞をたたみ、にやりと答える。
彼女は空になった彼のコーヒーカップを見て、困ったように苦笑した。
けれど、オーフェンも怒っているわけではない。
それを知っているクリーオウは、脇に置いてあるメニューを開いた。
「他に何か頼む?」
「んじゃ、カフェオレ」
「じゃあわたしもカフェオレ」
「ん」
うなずいて、店員を見る。
あちらも気を配っていたらしく、彼が声をかけるまでもなく注文を取りにやってきた。
短いやり取りをして、奥に下がっていく。
それを見るともなしに見てから、オーフェンは改めてクリーオウに視線を向けた。
「満足したか?」
「うん。かわいいのがたくさんあったから、迷っちゃった」
「…………」
迷った割には荷物が多すぎる気がするのだが、これでも絞ったということだろうか。
あまり深く追求せず、オーフェンは興奮して熱くなる彼女の話を聞いてやった。
二人で外出する際、二回に一回はこの喫茶店に立ち寄っている。
居心地が良く、ここでなら妻と二人きりの時間を存分に味わうことができた。
家で過ごすのも好きだが、大抵どちらかの娘に邪魔をされる。
それを考えると――触れられないのは残念だが――この時間はとても貴重だった。
「クリーオウ」
彼女の話が途切れたのをきっかけに、オーフェンから話題を切り出す。
名前を呼ぶと、彼女は微笑んでこちらの話を聞く体勢を取った。
それを見ると、何でもないことなのに、なぜか緊張する。
彼は苦笑いをしながら、買ってきたばかりの袋をテーブルに置いた。
「なに?」
「買い物してるときに見つけて、ちょっと」
「わたしに?開けてもいい?」
嬉しそうに顔を輝かせる彼女に、無言でうなずく。
すると彼女は小さな紙袋から、手のひらほどの大きさの箱を取り出した。
箱のサイズから、アクセサリーだということが一目で分かる。
大げさにラッピングされた箱の中からは、リボンの形をしたイヤリングが出てきた。
それを見たクリーオウは、いたずらっぽく視線で問いかけてくる。
プレゼントをしているのに、どうしてこうも焦っているのか良くわからないまま、オーフェンは答えた。
「安物なんだが。バレンタインのお返しに」
「お返しって、昨日ちゃんともらったけど」
文句ではなく、クリーオウはただ不思議そうに首をかしげる。
確かに昨日、彼女には娘たちと同じクッキーを贈ってあった。
「そうなんだが、お前がくれたのは手作りだったし。なんていうか」
目を逸らしながら、オーフェンは言い訳をするように説明する。
とはいえ娘たちにもらったチョコレートも手作りなので、それだけで理由になるとは思えないが。
単純にプレゼントしたかった。
それだけのことだったが、オーフェンは言葉に窮した。
「ありがと。……似合う?」
髪を耳にかけて、彼女がイヤリングを見せてくる。
オーフェンはカフェオレを飲んでごまかしながら、うなずいた。
くすっと、彼女が笑う。
オーフェンも小さく笑い、カップを皿に戻した。
こういうとき、すぐにキスができないので、喫茶店にいるのは失敗したという気分になる。
けれど家では娘がいつ見ているのかも分からないので、プレゼントなど渡せそうもなかった。
「オーフェン」
「うん?」
「隣行ってもいい?」
彼女は細い指で、オーフェンが座っているソファを指す。
二人がけのソファなので、クリーオウの座るスペースは十分にあった。
「どうぞ」
心持ち座りなおして、場所を空ける。
クリーオウは嬉しそうにすると、ティーカップと一緒に移動してきた。
他人から見ても見苦しくない程度に、くっついて座る。
彼女の存在をすぐそばで感じながら、オーフェンは店に流れる音楽を聴いていた。






2009.3.15
今回は結婚して何年かしてからのお話です。
薄暗いレトロな喫茶店は印象に残りやすく、愛を語るのにもってこいなんですって(オーラの泉)。
レトロ喫茶で愛を語らせてみる+ホワイトデー翌日=今回の話
何年たってもラブラブだといいなーvv


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