□ 見れば分かる変化 □


危険だ危険だと言い続け、それでもオーフェンはこちらの警告を振り切って行ってしまった。
気を張っているのだろうが、最近の彼はコンスタンスの話をほとんど聞いてくれない。
冗談を言って気を和ませようとしても迷惑そうにするだけだから、かまってやる機会も減っていった。
昔はもっと可愛げがあっただけに、残念である。
けれどそれも彼を変えさせるだけの何かが、離れている間にあったのだろうか。
だがつい先刻、お?と思うことがあった。
あれ?と思うことが。
それはオーフェンが会議室に戻ってきたとき。
一人の得体の知れない男と、一人の少し汚れた女の子を連れて帰って来た時だった。
明らかにオーフェンの雰囲気が変わっている。
外部から見ると何も変わらないと思うかもしれないが、オーフェンを良く知っている人間なら違いが分かるだろう。
彼からとげとげしさがなくなり、表情も柔らかくなった。
もっとも全ての緊張が取れたわけではない。
だが確実に、オーフェンの中で何かが変わったのだろう。
それは自然と、表情や行動に表れる。
どちらかがオーフェンを変えたかは、見ればわかった。
サンクタム――一目で殺し屋だと分かる男――では無論ない。
殺し屋を対処すると言っていたオーフェンは、少なくとも楽しそうではなかった。
そして今オーフェンは、やたらと金髪の女の子をかまっている。
年齢はオーフェンよりもいくつか下だろう。
二十歳になるか、ならないか。
けれど宝石のような青い瞳には、外見にそぐわない確固たる意志が宿っていた。
「クリーオウ、こいつはコンスタンス。さっき紹介した技師の嫁さん。でコギー、クリーオウだ」
「はじめまして」
「あ、どうも……」
こちらをうかがっているような女の子――クリーオウに、彼女がぺこりと頭を下げる。
それからオーフェンは一通り彼女を紹介すると、ようやくクリーオウから離れた。
というよりも、クリーオウがもともと知り合いだったらしい死の教師たちとどこかへ行ってしまった。
「…………」
オーフェンは彼女が出て行った後も、ずっと部屋の入口を見ている。
コンスタンスはにまりとしてから、すすすとオーフェンに近付いた。
「そうなのね」
「何がだ?」
きょとんとオーフェンがまばたきをする。
その反応に、逆にコンスタンスが驚いた。
もしかすると無自覚なのだろうか。
「何がって言われても困るんだけど」
「いや、わけが分からん」
本気で分かっていないという表情に、コンスタンスは口を開けた。
以前からどこかずれてると思っていたが、こんなところまでずれているとは。
気付いてないだけなのかもしれないが、彼女は目を閉じて大きく嘆息した。
呆れるが、そんなこともあるのだろう。
彼女は目を開けると、優しい気持ちでオーフェンを見上げた。
「でも、良かったわね」
「何がだ?」
「あの女の子が来てくれて」
「…………」
言うと、オーフェンは何ともいえない表情になる。
「……昔からホント無茶するんだよ、あいつ」
困ったように告げてくるが、まんざらでもないようだった。
「一緒に行ってくれるといいのに、新大陸」
「本人は行く気満々みたいだけど」
「そうなの?」
思ったよりも――日にちはないが――早い彼女の決断に、コンスタンスは野次馬のように好奇心を含んだ声を出した。
それが正確に伝わってしまったのか、オーフェンは嫌そうにこちらを見下ろしてくる。
話はこれで終わりだというように手を上げて、こちらに背中を向けた。
「どこ行くの?」
「ちょっとな」
「あの女の子とところ?」
からかうように言うと、オーフェンは肩越しにコンスタンスをにらむ。
が、否定はしない。
意地の悪い笑みを浮かべると、彼はふいと顔をそむけて出て行ってしまった。
(照れてるのかしら)
くふふと笑う。
態度が悪いのはまぁしょうがない。
ともあれ、クリーオウという女の子が来てくれて本当に良かったとコンスタンスは思う。
オーフェンは重い荷物を背負っているから、支えになる人はどうしても必要だった。
その存在がもうすでにいるのだから、彼女も安心して目を離すことができる。
密かに心配していたのだが、とりあえずはお役ごめんということだろう。
コンスタンスは心の中でオーフェンにエールを送った。






2009.2.23
これは一か月前くらい前から書きたかった話です。
コギーから見たオーフェンの変化。
でもずっと「まだ時期ではない」と思ってました。
同時に「今しか書けない話を書かなきゃ」と思ったら、実はこれもそうだということに気づきました。
特に盛り上がりもないですが、内容的にはこんなもんかと。
コギー視点難しいです。でも彼女しか使わない表現がなぜか出てしまう。

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