□ この隙間を埋めたくて □


オーフェンと再会していちばん安心したのは、彼がクリーオウのことを追い返さないことだった。
彼女が現れた後はひとしきり混乱したようだったが、こうしてアーバンラマに連れて来てくれている。
もとから意外にもめんどう見の良い人だったから、再びクリーオウを危険な場所に放り出すような真似ができなかったのだろう。
そして自分の居場所がないことを気にしてか、忙しいはずなのにずっと同行を許してくれている。
とても嬉しかった。
(でも、それだけなのよね……)
一歩前を歩くオーフェンの後姿をながめながら、クリーオウは声に出さずに呟いた。
彼はもうすぐ、新大陸に向かう船に乗ってしまう。
離れてしまえば、もう二度と会えないかもしれない。
それを分かっているのに、クリーオウは自分はどうするかをまだ決めていなかった。
オーフェンもそれについては一切触れてこない。
ただ彼女の前で色々な人と色々な話をしながら、その旅の危うさを遠まわしに知らせてきているようでもあった。
そばにいるのは許してくれているが、一緒に旅をしていた頃よりは確実に距離を感じる。
オーフェンが意識してやっているのか、それとも自分たちが変わってしまったからか分からなかったが、くだらない言い争いはまだ一度もしていなかった。
今思い返すと、自分はそれがとても好きだった。
現状は言い争いをしようにも、時間がないのだろう。
準備はいよいよ大詰めで、ゆっくり食事をする暇もない。
(一緒に行くって言ったら止めるかしら)
変わらない黒ずくめをながめて、自問する。
答えはすぐに出た。
止めるだろう、確実に、一度は。
けれど、クリーオウが言い張れば勝てるのも知っている。
オーフェンもたぶん、彼女を止められないことも知っている。
つまり、クリーオウの好きな通りにできるということだった。
その上で自分はどうするのか。
行くのか、留まるのか。
じっくりと悩む時間はない。
オーフェンとの距離は一歩。
近くにいるのに、なぜか遠い気がする。
この隙間を埋めることができれば、自分は後悔しない未来を選べるように感じられた。
触れてみたいと、思う。
それが答えなのだろうか。
床を強く蹴って、彼との距離を半歩分縮める。
残りの半分は、手を伸ばす。
オーフェンの手は歩くのに合わせて動いていたはずなのに、あっけないほど簡単に、つかむことができた。
悩む時間もないくらい、本当にあっけない。
オーフェンは驚いたのだろう、床に足が着いたとたんよろめいた。
その間に、クリーオウが隣に並んでしまう。
しかし彼がよろめいたのはその一歩だけで、対応に困りながらもすぐに元通りのペースで歩いている。
オーフェンは無言。
クリーオウも無言。
オーフェンはクリーオウに手をつかまれたまま。
何の反応もなかったが、不思議と気まずい気分にはならなかった。
再び距離を取ろうとも思わない。
オーフェンは無言。
クリーオウも無言。
しばらくそのまま歩いていると、彼がこちらの手をにぎり返してきた。
「…………」
そのことがどのような意味を持つのか――まったく意味のないことかもしれないが――分からないが、悪い気分ではない。
むしろ、このまま手をつないで、どこまでも歩いていきたい。
一緒に新大陸へ行くとか、その答えはまだ出なかったが、彼女の心は確実に動いていた。






2009.2.8
この時期の微妙な心境を書きたかったのですが。
概ね思い通りに書けて満足。
もちろん捏造できるのも、という意味で。

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