オーフェンと再会していちばん安心したのは、彼がクリーオウのことを追い返さないことだった。 彼女が現れた後はひとしきり混乱したようだったが、こうしてアーバンラマに連れて来てくれている。 もとから意外にもめんどう見の良い人だったから、再びクリーオウを危険な場所に放り出すような真似ができなかったのだろう。 そして自分の居場所がないことを気にしてか、忙しいはずなのにずっと同行を許してくれている。 とても嬉しかった。 (でも、それだけなのよね……) 一歩前を歩くオーフェンの後姿をながめながら、クリーオウは声に出さずに呟いた。 彼はもうすぐ、新大陸に向かう船に乗ってしまう。 離れてしまえば、もう二度と会えないかもしれない。 それを分かっているのに、クリーオウは自分はどうするかをまだ決めていなかった。 オーフェンもそれについては一切触れてこない。 ただ彼女の前で色々な人と色々な話をしながら、その旅の危うさを遠まわしに知らせてきているようでもあった。 そばにいるのは許してくれているが、一緒に旅をしていた頃よりは確実に距離を感じる。 オーフェンが意識してやっているのか、それとも自分たちが変わってしまったからか分からなかったが、くだらない言い争いはまだ一度もしていなかった。 今思い返すと、自分はそれがとても好きだった。 現状は言い争いをしようにも、時間がないのだろう。 準備はいよいよ大詰めで、ゆっくり食事をする暇もない。 (一緒に行くって言ったら止めるかしら) 変わらない黒ずくめをながめて、自問する。 答えはすぐに出た。 止めるだろう、確実に、一度は。 けれど、クリーオウが言い張れば勝てるのも知っている。 オーフェンもたぶん、彼女を止められないことも知っている。 つまり、クリーオウの好きな通りにできるということだった。 その上で自分はどうするのか。 行くのか、留まるのか。 じっくりと悩む時間はない。 オーフェンとの距離は一歩。 近くにいるのに、なぜか遠い気がする。 この隙間を埋めることができれば、自分は後悔しない未来を選べるように感じられた。 触れてみたいと、思う。 それが答えなのだろうか。 床を強く蹴って、彼との距離を半歩分縮める。 残りの半分は、手を伸ばす。 オーフェンの手は歩くのに合わせて動いていたはずなのに、あっけないほど簡単に、つかむことができた。 悩む時間もないくらい、本当にあっけない。 オーフェンは驚いたのだろう、床に足が着いたとたんよろめいた。 その間に、クリーオウが隣に並んでしまう。 しかし彼がよろめいたのはその一歩だけで、対応に困りながらもすぐに元通りのペースで歩いている。 オーフェンは無言。 クリーオウも無言。 オーフェンはクリーオウに手をつかまれたまま。 何の反応もなかったが、不思議と気まずい気分にはならなかった。 再び距離を取ろうとも思わない。 オーフェンは無言。 クリーオウも無言。 しばらくそのまま歩いていると、彼がこちらの手をにぎり返してきた。 「…………」 そのことがどのような意味を持つのか――まったく意味のないことかもしれないが――分からないが、悪い気分ではない。 むしろ、このまま手をつないで、どこまでも歩いていきたい。 一緒に新大陸へ行くとか、その答えはまだ出なかったが、彼女の心は確実に動いていた。 2009.2.8 この時期の微妙な心境を書きたかったのですが。 概ね思い通りに書けて満足。 もちろん捏造できるのも、という意味で。 |
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