□ カフェ・オレ □


時間がある。
ということは、のんびりと昔話をする暇があるということだ。
オーフェンは我が家――最近住み始めたばかりだ――で、なぜか他人から自分の昔話を聞かされていた。
スプリングの効いているソファに腰かけ、テーブルの上には二人分のティーセット。
目の前には必要ないほど青い瞳を輝かせている妻――クリーオウ。
妻という響きもまだ慣れてはいないが、とにかくそういうことだった。
オーフェンはクリーオウの話を、頬を引きつらせながら聞いている。
いらいらとひざを指で叩いているのだが、彼女が気にする様子はなかった。
「わたしも又聞きの又聞きだけど、オーフェンてそうとう酷いことしてたのね。どうして今自由にしてられるの?犯罪者じゃない」
悪びれる様子もなく、冷たくクリーオウが言ってくる。
自分の夫をここまでこき下ろすのも、彼女くらいなものだろう。
お返しに、オーフェンは思いきり皮肉気な笑みを浮かべてやった。
「お前のしたこととどう違うってんだ?火力が強い分、お前の方がタチが悪いと俺は思うがね」
「そうかしら。オーフェンのしつこさに比べれば全然マシな気がするわ」
自覚もないらしい。
オーフェンはくっきりと額に青筋を浮かべた。
「でもさあ」
カフェ・オレの入ったカップを持ち上げ、クリーオウは不思議そうな声を出す。
多少怒っていたため、オーフェンは視線だけで続きを促した。
クリーオウはカフェ・オレを一口だけ飲むと、再びカップをソーサーに戻す。
「毎日のようにトトカンタが破壊されてたっていうのに、どうしてわたしが気付かなかったのかしら」
「それはそうだろ。俺は毎日トトカンタを破壊してないし、被害もお前が思ってるほど出てない――」
「それはないわよ」
こちらを遮るようにして、きっぱりとクリーオウ。
「マジクからもだいたい同じようなことを聞いたもの。オーフェンが破壊魔としてトトカンタの歴史に残るのは間違いないんじゃないかしら」
「……」
ぎろりとにらみつけるが、クリーオウは涼しい顔でそれを受け流した。
さて、どうやってこの娘を説得しようか。
(とは言っても……)
感情に任せて反論したところで言い合いになるのは目に見えていたので、オーフェンは盛大ないやみにも歯をくいしばって耐えた。
口げんかする価値のあることかもしれないが、いくらもしないうちに後悔する予感がする。
オーフェンは震える息を何とか吐き出し、気を静めてゆっくりと考えたことを言った。
「トトカンタは広いし、小さな騒ぎだからお前が知らなくても無理ない。それに少しの被害があったのは下町で、お前が住んでた高級住宅街じゃなかった」
あくまで、オーフェンの出した被害はほとんどなかったと主張する。
だがそれも無駄な努力だったのだろう。
クリーオウはそこらへんの機微を見事に無視してくれた。
「だけどマジクとは学区は同じだったのよ?大爆発が起きれば、気付いても良さそうなものなのに」
「お前な」
「そっか。きっとマジクの家の近くには凶悪なテロリストみたいな犯罪者がいるから近づくなって言われたんだわ。覚えてないけど」
ぽんと両手を合わせて、嬉しそうに言ってくる。
さすがにそのせりふには悪意が感じられた。
そこまでいかなくても、ちょっとしたいじわるか。
微妙に傷ついて、オーフェンは拗ねて口を尖らせた。
「かわいくないことばっかり言ってると、キスして黙らせるぞ」
「して?」
「へ?」
冗談のつもりで行ったのだが、クリーオウは甘えたように笑う。
オーフェンがぽかんとしているうちに、クリーオウはとことことやってきて彼の隣にちょこんと座った。
すっと目を閉じ、唇を差し出してくる。
(あれ……?)
どういう流れで、こんな状況になったのだろうか。
つい先ほどまではクリーオウの憎まれ口を聞いていた。
それから数分も経っていないというのに、彼女はオーフェンからの口付けを待っている。
分からない。
分からないが――少なくとも嫌なことではなかった。
むしろ思いがけない幸運が転がり込んできたような気がする。
それまでの悶々とした話も忘れて、オーフェンはクリーオウの金髪に指を絡ませた。
そのまま軽く引き寄せ、口付ける。
クリーオウの唇は、甘いカフェ・オレの味がした。






(2009.1.21)
無謀編読み終わった記念。
読み始めた時と、同じ場所にて。
姉妹作という気分で。

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