□ かわいくって、つい □


自覚をしてしまった。
彼女のことを好きだと、自覚してしまった。
それで片思いであればこれから辛くも楽しい日々が待ち受けているのだろうが、彼の場合はそうではない。
彼女――クリーオウが、自分のことを好きだと教えてくれたからだ。
クリーオウが自分のことを好きだと言ってくれたので、オーフェンも彼女のことが好きだと気がついた。
気づいた瞬間から両思いである。
オーフェンもうなずいたので、これからはいわゆる恋人関係の始まりである。
彼女と気持ちが通じてから数日して、オーフェンは久しぶりに彼女と二人きりになった。
誘ったのはオーフェンである。
暇を見つけて公園でも行こうかと声をかけたのだが、自分でも驚くほど緊張していた。
人の多い公園のベンチに並んで座り、今は無言状態になっている。
意識しすぎるせいか、話題が完全に頭から消えていた。
「クリーオウ」
何か話をしなければと、声をかけてみる。
彼女はゆっくりとこちらを見上げ、少しだけ首をかたむけた。
「なに?」
クリーオウはいつも通り。
のように見えるが、よくよく見ると彼女もまた緊張しているようだった。
はっきりとわかりやすく緊張はしていないが、雰囲気がいつもより硬い。
手の中のレキにも、やや強めに力が加わっているように思えた。
(どうしよう、なんか……)
かわいい。
声をかけておきながら、そんなことを思ってしまう。
普段から親しみを持っていたが、それに愛しさが加わったような感覚。
それを意識したとたん、彼女に触れたくなった。
「手に、触ってもいい、か?」
(って、俺何恥ずかしいこと聞いてんだ……?)
一体どんなダメ男の質問かと。
こんな質問をするのはモテない男だけだと、遥か昔に彼の姉達も言っていた。
そしてオーフェン自身、何人かの女性と良い雰囲気になっても、その質問をしたことがない。
案の定(悲しいことだが)クリーオウもまたほんの少し失望したように眉をひそめた。
「そんなことわざわざ言わなくてもいいのに……」
遠まわしな非難と許可を口にする。
そしてこちらから視線をわずかに逸らし、右手を――オーフェンに近い方の手を差し出してきた。
綺麗な小さい手が、微かに震えている。
オーフェンはそれに気づかない振りをして、彼女の手をそっと握った。
それは緊張しているせいか冷たくはあるが、とても滑らかで柔らかい。
要するに、ものすごく触り心地が良い。
(これは……なんていうかとてつもなく。うん、やばい)
かわいすぎる。
今まではどさくさにまぎれて抱きしめたことすらあったというのに、それ以上に愛しい。
オーフェンは思わず身を乗り出して、彼女に口付けようとした。
「えっちょっ!?」
クリーオウがかわいい声を出している。
遠くでそれを聞きながら――なにか唇でないものが、触れるのを遮った。
訝しんで目を開けると、細い指の向こうで青い瞳が戸惑いに揺れている。
オーフェンは目をぱちくりさせ、それから顔を真っ赤にさせた。
あわてて体を元の位置に戻し、クリーオウと距離を取る。
「わ、悪っ……かった……な。すまん」
反射的に謝罪して、オーフェンは脂汗を流した。
衝動にかられたとはいえ、今の自分の行動は酷すぎる。
手を繋ぐのには許可を取ったというのに、キスは無断でしようとした。
本来そういうものかもしれないが、その場合は空気というものがある。
あまりに突然すぎて、クリーオウが驚くのも無理ないといえた。
「ううん……わたしもその、びっくりしちゃって……」
しどろもどろに、彼女も謝ってくる。
それを聞いて、オーフェンは罪悪感にかられた。
こんなことで謝罪させてしまう自分が憎らしい。
今まではそれらしい素振りも見せなかったというのに、気持ちを告げた瞬間これかと、クリーオウは彼に幻滅するだろう。
(最低だ……)
自分に毒づく。
それなのにオーフェンは彼女の手を握ったままだった。
すでに離れがたくなっている。
「ごめんな」
握った手を意識して、心の底から詫びる。
すると視界の隅で、クリーオウがこくりとうなずいた。
「……うん」
怒ってはいないようである。
だからといって済まされるものではないが。
「……少し、歩こうか」
こんな雰囲気でいると、また先ほどのような衝動が襲ってきてもおかしくはない。
クリーオウは律儀に周囲を見まわすと、素直に返事をした。
「そうね」
オーフェンもうなずいて、立ち上がる。
手を差し出す必要はない。
すでに繋いでいるのだから、その手を引いて彼女が立つのを手伝った。
クリーオウと向き合うことで、彼女の表情が良く見える。
やはり怒ってはいなかった。
ただ困ったような照れたような、あいまいな笑みを浮かべている。
自分も同じような顔をしているのだろうなと思いつつ、ゆっくりと二人並んで歩き出す。
左手にはクリーオウの温かさがあった。
たったそれだけのことだが、気分がとても穏やかになる。
「オーフェン」
「ん?」
まだいくらも歩いていないうちに、クリーオウが名前を呼んでくる。
こちらを見上げてはいなかったので、オーフェンは彼女の顔の半分だけを上から眺めた。
「ごめんね。さっきはその……避けちゃって」
「いや、俺も……」
「でも好きなのは本当だから」
こちらの謝罪を遮るように――けれどそれほど強くはなく、しかしはっきりとクリーオウは言った。
よくよく観察すると、耳まで赤くなっている。
(もうなんか……)
言葉にできないほど愛しい。
「ああ。……俺も」
心が震える。
今すぐクリーオウを抱きしめたかったが、また驚かせてはいけないと一所懸命自制する。
顔は見えなかった。
見えなかったが、微笑んでいるように錯覚する。
愛しい。
オーフェンは幸せなため息を吐いて、ほんの微かに手を握る力を強めた。


後日談として、オーフェンがクリーオウのことを想って自制するあまり、キスもできない状況が本当に長い間続いた。






(2009.1.16)
「想いは通じ合ったけど、なかなかチューができずに悶々とするオーフェン」のリクエストいただいて作ってみたのですが、あれ、もんもんとしてんのラスト一行!?
まぁこれにはオーフェンが勝手に動いてしまったという言い訳があるのですよ。
どこまで許してくれるのかなー?
的なことを考えさせようとしたはずなのに、体が動いちゃった!
しかもこれクリーオウから告白してるよ!どうなってんだ!?
というわけで、リクエストに答えられずにすみませんでした(土下座)

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