□ 主人公はアナタ □


「ふむ」
読み終えた本をぱたんと閉じて、クリーオウは一言うなった。
なんというか、感慨深いものがある。
本の内容はアクションの混じった典型的なヒロイック・サーガ。
魔術を使うシーンもあり、現代的な要素も併せ持つフィクションのファンタジーだった。
読書のお供にはエスプレッソ。
ただしそれだけでは苦いので、バニラのアイスクリームを三つ入れてある。
話す相手がすぐ隣にいるのに本を読むのもどうかと思っていたが、ひとりで過ごす時間は大切である。
会話もなく、本を相手に自分たちはそれぞれの世界に没頭していた。
二時間ほどそうしていたのだが、クリーオウの方が先に本を読み終えたらしい。
クリーオウの愛する旦那様は、何がおもしろいのか分からないような分厚い専門書を読んでいた。
実はなかなかに知的なのである。
頬杖をついて、彼女はそのまじめな横顔をじっと見つめた。
視線に気づいた夫――オーフェンは顔を上げ、目を瞬かせてこちらを見る。
「どうした?」
そう尋ねてくる姿も、やけにかっこよく思えてしまった。
腰を浮かせて、軽く彼の唇に触れる。
「?」
眉根を寄せ、オーフェンは怪訝そうに目で問いかけてきた。
妥当な反応かもしれない。
クリーオウはいすに座り直すと、呼んでいた本を指でさした。
「これね、フィクションなんだけど、主人公がヒロインを守りながら敵と戦う話なの」
作者が耳にしたら怒ってしまうような適当な説明だろうが、概要は間違っていない。
オーフェンに聞いてもらいたいのはストーリーではないので、彼女はすれだけで済ませた。
「ふーん。それで?」
「うん。主人公は魔術とかも使って体術とかもすごくて、かっこよく書かれてるのよ。でも……実はわたしのすぐそばにそんなよーな人がいるのよね」
「うん?」
いまいちよくわかっていない様子で、オーフェンが首をかしげる。
しおりを挟んで本を閉じ、こちらに聞き入る体勢を取った。
「ていうか、オーフェンの方がすごいくらいなのよね。もしかするとオーフェンてものすごーく……かっこいい……の?」
「……は?何言ってんだ、お前」
やや動揺したようにオーフェン。
クリーオウは真顔のまま続けた。
「改めてよく考えてみるとかっこいいのよね。基本的にいつも無傷でわたしのこと守ってくれてたし、キメるときはキメてたし、わたしも当事者だったからあんまり意識したことなかったけど、客観的に見てみるとほんとはすごく……」
「おい、やめろ……」
それ以上言うなというように、オーフェンが手で遮ってくる。
めずらしいことに頬が紅潮していた。
格好良すぎる発言は、後で本人が思い出すと恥ずかしくなるのだろうか。
とりあえずオーフェンの場合はそうなのだろう。
いじめすぎるのもかわいそうだと思ったが、彼女としては真剣なのである。
旦那様が格好良すぎて困ることはない。
「いつもさりげなくかっこよかった気がするけど、いつばんはやっぱり聖域なのかしら。あ、せりふの話よ?一字一句までは思えてないけど、たしかわたしを抱きしめて、女神だって――」
「わーーーーー!!」
オーフェンは顔を真っ赤にして叫び、手でこちらの口をふさいだ。
黒い瞳には涙さえ浮かべて、肩で息をしている。
褒めているのに、とクリーオウは目で不満を伝えようとした。






(2008.11.12)
inハーゲンダッツ喫茶withエスプレッソアイス入り。
無謀編「なんでお前はそーなんだ!?」を読みながら。
今までやきもちでまともに読めなかったけど、オーフェンかっこよすぎ……。

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