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自分には物心ついた時から母親という存在がいなかったけれど、もしいたとしても彼女の様にはいかないだろうと、オーフェンは思った。 オーフェンはあいさつもかねて、久しぶりにエバーラスティン家へ訪れている。 どうしてこんな風になってしまったのだろうと焦りを覚えつつ、彼はちらりと彼女――ティシティニーを見やった。 隣には以前見合いと称して詐欺を働こうとした娘、マリアベル・エバーラスティン。 二人セットにすると、オーフェンは後ろめたさのあまり気を失ってしまいたかった。 今日は何も重大なことを言わずあいさつだけのつもりだったというのに、この威圧感は何だろう。 単にオーフェンが一方的に委縮しているだけのような気もするが、とにかく居心地の悪さは最悪だった。 こんな豪華な部屋に案内されてすら、荒野の方が何倍も楽に思える。 「じゃあお母様、わたしはこれで」 オーフェンの引きつった笑顔に何かを感じてくれたのか、マリアベルがおっとりと席を立った。 間をかせぐためにオーフェンはティシティニーと彼女が部屋を出ていくのを見守る。 ぱたんと扉が静かに閉まり、再び静寂が訪れた。 これでティシティニーと完全に二人きりである。 唯一の味方であるはずのクリーオウは――オーフェンを置き去りにして真っ先に遊びに行ってしまっていた。 「あー」 沈黙が気まずくて、とりあえずオーフェンがうめく。 けれど、うめいたところで話の種になるようなことなど何も浮かばなかった。 ティシティニーはにっこりと微笑んだまま何も助けてくれはしない。 何となく試されているような気分になりながら、オーフェンは気を紛らわせるために両手を揉んだ。 「……クリーオウが姉の――レティシャ・マクレディのもとで修業っていうか、そんなことをするのをあっさり認めたんですってね。こんなはずではなかったと、ぼやいてたって聞きました」 「ああ、そんなこともあったわね」 大した話ではないかというように、ティシティニーは笑顔のままあいづちを打った。 その表情からは、何の感情も読み取れない。 心底笑っているのか、こちらを馬鹿にしているのか、オーフェンにはうかがい知ることができなかった。 動揺しながら、仕方なく続ける。 「だから……すごいなと。大切な娘をまたさらに長い間手放せるなんて」 「そうかしら?最初にクリーオウをあなたにお預けしたんだもの。その時に覚悟はできてるのだから、一年や二年延長しても大差ないと思うのだけれど」 「はぁ……」 「そしてこれからもあなたは……クリーオウを預かってくださるのよね?」 「はぁ……」 もう何もかもお見通しのようだった。 当然と言ってしまえば当然なのだが。 オーフェンはそれ以上会話を続ける勇気がなかった。 というより、何を話していいのかが分からない。 糸口を見つけられれば、しばらくはしゃべっていられると思うのだが。 広い部屋の中、時計を探すわけにはいかず、彼が途方に暮れる。 ティシティニーの笑顔に、どのくらいの間さらされただろうか。 「オーフェーン」 心底のんきな声で、クリーオウがノックもせず部屋に入ってきた。 ほっと息をついて、オーフェンが若干気を緩める。 彼女はとことことやってきて、こちらの腕を引っ張った。 「あのね、街に新しいカフェができてたの。それって最近人気のとこらしくてね。今なら人も少ないみたいだから行きましょって呼びに来たの」 「お前……」 いきなり戻ってきて何かと思えばこれである。 オーフェンは半眼になって嬉しそうなクリーオウの顔を見やった。 と、今は彼女の母親がいるおとを思い出し、あわてて取り繕う。 「カフェなら後で行くから」 「えー。今じゃなきゃ混むんだってば」 「じゃなくてな。お前せっかく実家に帰って来たんだから、親孝行とかいろいろあるだろーが」 「あら、いいじゃないですか、オーフェンさん」 「へ?」 横から、クリーオウと似た声が割り込む。 それにオーフェンは素っ頓狂な声をあげた。 見ると、ティシティニーが口に手を当てて上品に微笑んでいる。 「わたしもご一緒してよろしいから。マリアベルも」 「そりゃ、まあ……」 「そーね。みんなで行った方が楽しいもの」 「ありがとう。ではマリアベルを呼んできますので、こちらでお待ちいただいてよろしいかしら?」 「ええ、もちろん」 呆気に取られながら、オーフェンがぎくしゃくとうなずく。 優雅に部屋を出ていくティシティニーをながめ、オーフェンはソファの横に立っている彼女を見上げた。 「いろいろとすごいよな、ティシティニーは」 「なにが?」 わけが分からないというように、クリーオウがきょとんとくびをかしげる。 オーフェンは答えず、彼女の指先に触れた。 それを不思議そうにながめる彼女は、このやたら豪華な部屋でも溶け込んでいる。 生家なのでなじんで当たり前だが、財産に強い執着心もない。 そのあたりの大らかさだか根性だとかは、やはりティシティニーと母娘なのだと感じさせた。 母親の奥ゆかしい部分が遺伝したのがマリアベルなのだろう。 「あの母にしてこの娘ありってか?」 言うと、クリーオウは疑わしげに首をひねった。 そうかしら。わたし性格はお父様に似たって言われることの方が多いんだけど」 「いや、度胸がすわってるのは、間違いなく親子だ」 「ふうん」 納得したようなしていないような、クリーオウはとりあえずというようにあいづちを打った。 けれど、本人たちには分からなくてもいいのかもしれない。 絆というのは、見えるものではないのだから。 オーフェンはソファから立ち上がり、この手強いエバーラスティン家の女性たちをどうエスコートしようかと案を練り始めた。 (2008.10.15) クリーオウ2回目のターン。 ティッシの、お母さんが許すわけないと思ったというのでその母の登場を書きましたが。 やはり難しすぎます。 気まずいだろうなぁ(笑)。というか、あいさつできるのか? |
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