彼女が目を覚ますと、いちばんはじめに認識するのはたいていがオーフェンだった。 彼がこちらを向いているか、背中を向けているか、それはその日によって違う。 寝返りを打つのはクリーオウも同じことなので、彼が先か部屋の壁が先か、これも日によって異なる。 今日は前者だった。 そしてオーフェンはこちらを向いている。 ひとつ違ったのは、すでに彼が目を覚ましているということだった。 「おはよう」 すでに眠気はないような口調で、オーフェンが言ってくる。 彼女はその言葉を頭の中で繰り返し反芻させ、十数秒後にやっと同じことが返せた。 「おはよう」 まだ眠気の残っている目を手でこする。 その様子さえ嬉しそうに見ているオーフェンに、彼女は眉をひそめた。 「……いつから見てたの?」 「そうだな、三十分くらい前から」 じっと見ていないで起こせばいいのに、とクリーオウが胸中でののしる。 オーフェンがことさらのんびりしているのは、今日が休日だからだろう。 ともかく、目が覚めたからには起きなくてはいけない。 クリーオウは胸元をシーツで押さえながら、上半身を起こした。 寝間着は昨夜のうちにすべて取り払われている。 どこへ行ってしまったか検討のつかないそれらを探すのは、起きて真っ先にする仕事だった。 彼女と、そして彼の分を見つけ、着るなりたたむなりする。 ただ今回に限っては、自分の分だけで良いだろう。 探し物はすぐに見つかった。 クリーオウの着ている色の布が――上だか下だかは知らないが――ベッドのすぐわきの床に落ちている。 下着も必要だったが、とりあえず体を隠すことができればそれでいい。 拾い上げようと、クリーオウは彼に背中を向けるような形でベッドから足を下ろした。 そうすると背中が丸見えになってしまうが、この際いたしかたない。 唐突に彼が呆然とした声を出したのはそのときだった。 「それ……」 「?」 「これ……どうした?」 いつの間に近づいてきたのか、オーフェンの指が裸の彼女の背中に触れる。 そんなことは日常茶飯事だったが、触れられた位置にクリーオウは肌を粟立たせた。 彼が触れたのは、心臓のちょうど裏側。 長く忘れていた記憶が、一瞬にしてよみがえる。 全身が凍りついたように体温が下がったが、クリーオウは弱く首を振ってゆっくりと息を吐いた。 「クリーオウ」 オーフェンにもそこが急所だと分かっているのだろう。 それも深く突けば、どんな優れた医療や魔術であろうと治療は不可能の、即死が約束されている場所だ。 彼女の名前を呼ぶ声には極度の緊張が含まれていた。 そして彼が今どんな表情をしているか、それもだいたい想像できる。 恐怖は鮮明に思い出してしまったが、しょせんそれだけのことだ。 もう危険な状況に身を置いてはいない。 クリーオウは彼に背を向けたまま、なるだけ平坦になるような口調を心がけた。 「あいつにやられたのよ、昔ね」 「あいつ……?」 「分かってるでしょ?あいつよ」 背後でオーフェンが押し黙る。 指はもう離れていたので、クリーオウはシーツで胸を隠したまま寝間着――幸運なことに上着だった――を拾った。 「目立ってる?」 過去の出来事よりも、現在はそちらの方が気にかかる。 ついでに、その傷のせいで下着を付けるたびに痛い思いをしたのを思い出す。 傷が治ってそういう支障もなくなったが、当時は痛みやら心配やらでとにかく憂鬱だった。 「いや……小さなものだし、ほとんど見えない……」 「そう、良かった」 ほっと胸を撫で下ろす。 実際オーフェンも今日の今日まで気づかなかったようだし、大丈夫なのだろう。 安堵の息をもらして、裏返った寝間着を元に戻す。 「……あ」 服に片方の腕を通したとき、傷のある場所を柔らかいものが触れる。 唇だと理解したときには、彼の腕がクリーオウの腰に絡みついていた。 先ほど同様、クリーオウの背中が粟立つ。 しかしそれは恐怖ではなく、淡い快感を伴っていた。 今度は体温が上昇する。 「オーフェン……」 名前を呼んだが、それに答える声はなかった。 (2008.10.21) コルゴンとの接触シーンまで読んで……傷! 残ってるか残ってないか微妙なとこでしょうが、深いし。 寝ようとしても寝付けずに、耐えられずに浮かびました。 あれ、でもコルゴン魔術で治してくれるかな?と今日気づいた。 それが分かるのは今日の更新なんですよね。 |
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