クリーオウは午後の日差しが降り注ぐ部屋の窓際で、読書を楽しんでいた。 お気に入りのいすとテーブルを日当たりの良い場所まで移動させ、贅沢な時間を味わう。 本のタイトルは『恋人や結婚相手とうまくコミュニケーションを取る方法』だった。 それを読んではいるものの、興味がないわけでもなかったが、切羽詰っているほど必要としてもいない。 ただ本屋で立ち読みしたときに、内容がコミカルでおもしろかったので購入したというだけだった。 「ふーん」 ページをめくりながら、なるほどと呟く。 将来もしかしたら役に立つかもしれないことが書いてあるが、今は関係がなかった。 この知識を必要なときに思い出せるかどうかが次の問題になってくる。 それはそれとして、せっかく本を買ったからにはすぐに実践してみたい。 彼女はぱらぱらとページをめくり、とある項目に目をとめた。 曰く『パートナーにしてほしいことがあるなら、現状に不満を言うのではなく、お願いとして言葉にすると良い』。 実例は『静かにしてほしいとき、うるさいと言うより静かにしてほしいと言い方を変える』など。 そして『かわいくお願いするとなお良い』とあった。 (これなら早速使えそうね) 胸中で独りごちて、クリーオウは窓の外を見た。 家のすぐ近くで、オーフェンがやたら家を襲ってくる変態たちと戦っている。 彼は強大な魔術を連発していて、うるさいといえばうるさい。 地響きも頻繁に起こっているし、読書をするには快適とは言いがたい状態だった。 「オーフェーン!」 窓枠に手をかけ、部屋の中から夫の名前を呼ぶ。 爆音にかき消されたかと思ったが、オーフェンはこちらの声を聞きつけてくれたようだった。 くるりとこちらを向いて、嬉しそうに駆け寄ってくる。 (犬みたい) 一瞬そう思ったものの、口には出さない。 オーフェンはこちらまでやってくると、決まりごとのようにクリーオウの手に彼の手を重ねた。 家に高さがある分、今はクリーオウがオーフェンを見下ろしている。 彼の後方を見ると、変態が数人焦げた体から煙をあげていた。 「どうした?」 優しい口調で聞いてくる。 普段からオーフェンはこのような感じで、頼めば大抵のことはしてくれており、クリーオウには不満がなかった。 それでも買ったばかりの本が役に立つのか試してみたい。 「あのね」 「なんだ?」 「わたし今本読んでるから、ちょっとうるさ――じゃなくて」 「ん?」 これではいつも通りになってしまうと、彼女は言葉を切った。 にこにこと続きを待っている彼をそのままに、クリーオウは開けておいたままのページを見やる。 「えと、わたし今本を読んでるから、少し静かにしてもらえると……えーと、嬉しいな♥」 通常使わない言い回しを駆使して、かわいくねだってみる。 オーフェンはぽかんとし、すぐに満面の笑みを浮かべた。 「そっか、それは大変だな」 (べつに大変じゃないけど) 心の中で呟く。 「じゃあ邪魔しないように奴らは静かにぶちのめしてくる。後でコーヒーでも淹れてやろうか?」 「う?うん」 「がんばれよ」 言って、オーフェンはこちらの頭を引き寄せて口付けをした。 クリーオウを離してからは、嬉しそうに変態にとどめをさしにいく。 その後姿を見送りながら、彼女は本の効力に呆気に取られていた。 男の人は単純だと書いてあるが、どうやら本当にそうだったらしい。 少なくとも、オーフェンはそうだった。 テーブルに置いた本を再び手に取り、今度は熱心に内容を読み始める。 オーフェンがおいしいコーヒーを持って部屋にやってくるまで、家の近所は実に静かだった。 (2008.10.27) とある本を読んで。 オーフェンさんは単純そうですね。 |
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