□ 写真に微笑み □


言い古された言葉ではあるが、恋をすると人は変わるという。
その変わりぶりが良く見て取れるのは、自分の元師匠だとマジクはつねづね思っている。
オーフェンは部屋にマジクが入ってきたのに気づかなかったのか、いすに座ったまま身じろぎせずに手元を見ていた。
魔王と呼ばれた人物が人の気配を捉えられないわけはないのだが、さらに三歩足を踏み入れても彼はまだ気づかない。
マジクのいる位置から伺えるのは横顔だけだが、彼はとても幸せそうな表情で、ずっと手元に視線を落としていた。
(慈しむような顔っていうのかな?)
愛情あふれる穏やかで、安らかな表情である。
彼はひたすら手元の何かに見入っていて、さらなるマジクの接近にも気づかなかった。
かなり近くまで来れたので、彼はひょいとオーフェンの手元を覗き込む。
オーフェンが大切そうにしていたのは、どうやら写真のようだった。
(はぁ……)
何とも言えないため息が漏れる。
その写真には、彼の大切なクリーオウが大写しで映っていた。
彼らはすでに結婚しているが、仕事でしばらく会えないのでわざわざ持ってきたのだろうか。
マジクは冷めた気分のまま、今いる位置から二歩下がった場所で声をかけた。
「オーフェンさん」
呼ぶと、オーフェンはその場で飛び上がらんばかりに驚く。
持っていた写真を近くにあった本に素早くはさみ、無理やり作った笑顔をこちらに向けてきた。
「なんだ?」
「いえ、昼食でもいっしょにどうかなって」
何食わぬ顔で、挙動不審なオーフェンを誘う。
そもそも、オーフェンは休憩時間になった後すぐに、この荷物のある場所へ姿を消した。
何をしているのかと思っていたら、こうして一人でクリーオウの写真をながめていたのだ。
「わかった。すぐ行く」
「じゃあ外で待ってますね」
色々と事情があるのだろうと察して、マジクはあまり深くは追求せずくるりと背を向ける。
すると、
「マジク」
部屋を出ようとすると、気まずそうな声で名前を呼ばれる。
「何ですか?」
振り返ると、オーフェンは所在無さげにその場に棒立ちになっていた。
「……見たか?」
「何をですか?」
「いや、それなら――」
「さっきオーフェンさんがクリーオウの写真見つめてでれでれしてたことですか?」
安心したところに襲撃をかけるような気分で、マジクがずばりと口にする。
するとオーフェンは口を半開きにして硬直した。
大量の脂汗を流し、視線だけを忙しなく泳がせる。
「そ、それはだな、たまたま荷物の中に入ってて――」
しどろもどろ弁解しようとする彼を、マジクは半眼で見返す。
「写真がたまたま荷物に入るわけないじゃないですか」
「あー、その、クリーオウの奴が勝手に……」
「その言い訳がいかにも嘘っぽいですよね」
優位に立てるということは、どうしてこうも気分がいいのだろう。
にっこりと、天使のように慈愛を込めた微笑を向ける。
自分の笑みに恐怖を感じるのか、オーフェンはぐっとうめいて絶句した。
「いやー、オーフェンさんでも恋すると変わっちゃうんですね。まるで少年のようですよ」
「……!」
からかってやると、オーフェンはこれ以上ないほど赤くなる。
図星をさされて、彼は空気を求めるように口をぱくぱくとさせた。
(何だかなぁ……)
激怒するかと思いきやこれである。
「……クリーオウには言うな」
オーフェンはしばらくあえいでいた後、しぼり出すような声でやっとそれだけを口にする。
「てことは自分で写真を持ってきたことを認めるわけですね?」
「…………!」
かまをかけたつもりだったが、彼の表情を見れば答えがわかる。
マジクはやれやれと肩をすくめて、今度こそ動かなくなったオーフェンを残して部屋を出た。
クリーオウに言うかどうかは、マジクの気分次第である。






(2008.10.18)
書いてからネタがかぶってるーと思いました。
同時にUPするとよけいにそう感じますよね。

広告 [PR] 再就職支援 わけあり商品 冷え対策 無料レンタルサーバー ブログ blog