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言い古された言葉ではあるが、恋をすると人は変わるという。 その変わりぶりが良く見て取れるのは、自分の元師匠だとマジクはつねづね思っている。 オーフェンは部屋にマジクが入ってきたのに気づかなかったのか、いすに座ったまま身じろぎせずに手元を見ていた。 魔王と呼ばれた人物が人の気配を捉えられないわけはないのだが、さらに三歩足を踏み入れても彼はまだ気づかない。 マジクのいる位置から伺えるのは横顔だけだが、彼はとても幸せそうな表情で、ずっと手元に視線を落としていた。 (慈しむような顔っていうのかな?) 愛情あふれる穏やかで、安らかな表情である。 彼はひたすら手元の何かに見入っていて、さらなるマジクの接近にも気づかなかった。 かなり近くまで来れたので、彼はひょいとオーフェンの手元を覗き込む。 オーフェンが大切そうにしていたのは、どうやら写真のようだった。 (はぁ……) 何とも言えないため息が漏れる。 その写真には、彼の大切なクリーオウが大写しで映っていた。 彼らはすでに結婚しているが、仕事でしばらく会えないのでわざわざ持ってきたのだろうか。 マジクは冷めた気分のまま、今いる位置から二歩下がった場所で声をかけた。 「オーフェンさん」 呼ぶと、オーフェンはその場で飛び上がらんばかりに驚く。 持っていた写真を近くにあった本に素早くはさみ、無理やり作った笑顔をこちらに向けてきた。 「なんだ?」 「いえ、昼食でもいっしょにどうかなって」 何食わぬ顔で、挙動不審なオーフェンを誘う。 そもそも、オーフェンは休憩時間になった後すぐに、この荷物のある場所へ姿を消した。 何をしているのかと思っていたら、こうして一人でクリーオウの写真をながめていたのだ。 「わかった。すぐ行く」 「じゃあ外で待ってますね」 色々と事情があるのだろうと察して、マジクはあまり深くは追求せずくるりと背を向ける。 すると、 「マジク」 部屋を出ようとすると、気まずそうな声で名前を呼ばれる。 「何ですか?」 振り返ると、オーフェンは所在無さげにその場に棒立ちになっていた。 「……見たか?」 「何をですか?」 「いや、それなら――」 「さっきオーフェンさんがクリーオウの写真見つめてでれでれしてたことですか?」 安心したところに襲撃をかけるような気分で、マジクがずばりと口にする。 するとオーフェンは口を半開きにして硬直した。 大量の脂汗を流し、視線だけを忙しなく泳がせる。 「そ、それはだな、たまたま荷物の中に入ってて――」 しどろもどろ弁解しようとする彼を、マジクは半眼で見返す。 「写真がたまたま荷物に入るわけないじゃないですか」 「あー、その、クリーオウの奴が勝手に……」 「その言い訳がいかにも嘘っぽいですよね」 優位に立てるということは、どうしてこうも気分がいいのだろう。 にっこりと、天使のように慈愛を込めた微笑を向ける。 自分の笑みに恐怖を感じるのか、オーフェンはぐっとうめいて絶句した。 「いやー、オーフェンさんでも恋すると変わっちゃうんですね。まるで少年のようですよ」 「……!」 からかってやると、オーフェンはこれ以上ないほど赤くなる。 図星をさされて、彼は空気を求めるように口をぱくぱくとさせた。 (何だかなぁ……) 激怒するかと思いきやこれである。 「……クリーオウには言うな」 オーフェンはしばらくあえいでいた後、しぼり出すような声でやっとそれだけを口にする。 「てことは自分で写真を持ってきたことを認めるわけですね?」 「…………!」 かまをかけたつもりだったが、彼の表情を見れば答えがわかる。 マジクはやれやれと肩をすくめて、今度こそ動かなくなったオーフェンを残して部屋を出た。 クリーオウに言うかどうかは、マジクの気分次第である。 (2008.10.18) 書いてからネタがかぶってるーと思いました。 同時にUPするとよけいにそう感じますよね。 |
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