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食欲の秋というが、それは誰にでもあるのだろうか。 その時の気分次第ではないかと、クリーオウは時々思う。 例え秋でも、食欲よりも楽しいことがあればそちらに意識が偏るだろうし、秋の間中ずっと食欲がわくわけでもない。 同じようなことを色々考えてから、彼女は何事も気分によるものだと結論付けた。 つまるところ、今は秋であるが、クリーオウには食欲の秋という言葉は当てはまらないのだ。 オーフェンはいつでも食欲があるので、現在は別段旺盛というわけではないと思う。 そうすると身近な人間の該当者はあいつだけかと、クリーオウは家の敷地に入ってきた人物を見やった。 成長して、もう女の子には見えなくなってしまったマジク。 彼は狩猟に行って来た帰りのように、何かがつまった袋を提げて満面の笑みを浮かべてやってきた。 突然の訪問だが、彼はいつも好きなときに来て好きなときに出て行くので、通常のことだと受け止めている。 そして好き勝手に出入りしているので、気づいていても出迎えたりはしなかった。 料理の本のページを繰りながら、待つともなしに待つ。 「オーフェンさーん、クリーオウー」 数秒後、マジクは玄関を開け、自分達に来訪を告げる。 すでに家族同然なので、呼び鈴は押さない。 どれもいつものことなのだが、まさか気づいていなかったのか、オーフェンはびくりと肩をすくめた。 いたずらを隠す子供のように、彼女の肩を抱いていた腕をあわてて外す。 (突き放さなくたっていいじゃない……) 顔をしかめるが、オーフェンは玄関に視線を向けたままクリーオウを見ない。 それだけでは飽き足らず、彼はそそくさと向かいのソファに席を移動した。 (仲良くしてるのを見られるのが恥ずかしいのかしら) 自分達が結婚しているのはマジクも知っている――というか知った上で遊びに来ているし、他人に見られて困るようなことはしていない。 だからオーフェンの行動は意味不明だったが、彼女は何も言わずにいた。 「こんにちは」 オーフェンがソファに座りなおして落ち着きを取り戻した後、マジクが気軽に部屋に入ってくる。 「どうしたのよ、その荷物?」 あいさつもそこそこに、クリーオウはマジクの手に注目する。 遠くからでは分からなかったが、白い袋にでこぼことしたものがたくさん詰まっていた。 「これ、近所を歩いてたらもらったんだ。たくさん採ってきたから良かったらどうぞってさ」 彼はそう言って袋をクリーオウに渡してくる。 おすそわけしてもらったものを、さらにわけてくれるらしい。 興味深々に袋の中をのぞきこむと、まだとげのついた栗がいくつも入っていた。 「いが栗……?」 「そう」 マジクはうなずきながら、オーフェンとクリーオウを見比べる。 どこに座ろうかと考えていたのか、結局マジクは彼女の隣に腰かけた。 食べ物のことならクリーオウだと思ったのかもしれない。 マジクが彼女の隣に座った瞬間、オーフェンのまゆがぴくりと動いたのを彼女ははっきりと見た。 「今が食べごろらしいよ。なんだったらぼくが何か作ろうか」 「うーん」 料理することが億劫なのではないが、いが栗のままでもらっても手間がかかって正直めんどうである。 「なんでこのまんま持ってくるのよ?」 いたずらも兼ねて、マジクに栗を投げつけようと袋に手を突っ込む。 と―― 「いった……!」 そっと触ったつもりだったが、手加減が足りなかったのか棘が指に突き刺さった。 あわてて手を引っ込めながら、自分でも間抜けなことをしたと落ち込む。 指を見ると、少しだけ血が出ていた。 「大丈夫?」 そんなに心配もしてなさそうな顔で、マジクがこちらの顔をのぞきこんでくる。 「大丈夫よ」 苦い思いで彼の顔を見返しながら、クリーオウがうめく。 ため息は、前の方から聞こえてきた。 「見せてみろ」 めんどくさそうに、オーフェンは立ち上がって彼女の手を取る。 血が出ている指を見て、彼はまゆをひそめた。 もう一度嘆息し、彼の口元に指が引き寄せられ――半分ほどの距離でぴたりと静止する。 オーフェンは一瞬固まった後わざとらしく咳払いなどしつつ、引き寄せた彼女の手にもう片方の手をかざした。 「我は癒す斜陽の傷痕」 呟いた瞬間、流した血だけを残して小さな傷がふさがる。 もともと大した傷ではなかったが、痛みもきれいに消え去った。 「クリーオウには甘いんだから」 先ほどのことに気づいたのかそうでないのか、マジクは不機嫌そうに呟く。 「うるせえよ。それで、これで何作るんだ?」 照れているのか、オーフェンは彼女の手を離して強引に話を変える。 彼の憮然とした横顔を見ながら、クリーオウはくすりと笑った。 そんな彼女を、オーフェンは不機嫌ににらみつけてくる。 別に恐くも何ともなかったので、クリーオウは微笑んだままちょうど読んでいた料理の本に目線を下げた。 「ここに栗料理の特集があるけど、何食べたいの?」 巻頭に載っていた栗の料理のページを開く。 そばに立っているオーフェンと隣のマジクが、頭を寄せるように、それぞれ本をのぞきこんだ。 「……モンブランいいな」 「モンブランってケーキですよね?」 「おう」 「上手に作れるかしら」 レシピは簡単そうに作り方を書いてあるが、作ったことがないのであまり自信がない。 するとオーフェンは腰に手を当てて、自信有り気に宣言した。 「大丈夫だ。そーゆー時のお前の料理はうまい」 「どーゆー意味よ!?」 オーフェンに低くうなってから、理解者を得ようと隣のマジクを見る。 しかし彼はクリーオウと目を合わす前に、すでにあらぬ方を見ていた。 「マジク!?」 「あ、ちょっとぼくトイレ」 いきなりそんなことを言い、そそくさと席を立つ。 逃げるようにマジクはさっさと部屋の外へ消えた。 「もう!」 マジクは昔から都合が悪くなるとよくどこかへ行く癖があった。 それを思い出してクリーオウが腹を立てていると、オーフェンが彼女の手を取った。 「手、大丈夫だったか?」 「手?」 唐突に聞かれ、何のことだかわからずに首を傾ける。 オーフェンは先ほどとは打って変わって、少し心配そうな表情だった。 一拍置いて、とげで指を刺したことを思い出す。 痛みも引いていたので、すっかり忘れていた。 「オーフェンてさ」 「ん?」 「……いいの。なんでもないわ」 「ふーん?」 何か言いたい様な気もするが、上手い言葉が思いつかない。 マジクが外しているからか、うなずいてからもオーフェンはまだ彼女の指に触れていた。 (2008.10.11) なんか好きだな、これ。 秋なので。 |
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