彼の前に彼女が再び現れてから、自分の中で何か変化したと、確かに気づいていた。 二人の関係は以前と全く変わっていない。 男女の雰囲気になったとか、そういう類でも一切ない。 彼女の言葉を借りるとしたら、二人は一応『パートナー』であるのだが、それはもう一年以上も昔のことで、現在ではどこまで有効なのか、確かめる術は失っていた。 もしかすると、二人の関係は昔よりも希薄になっているのかもしれない。 彼女の方もその髪の毛から察するに、かなりの心境の変化があっただろう。 とりあえずはオーフェンに会おうとしてくれていたみたいだが、会った後はどうしたいという具体的な希望は聞いたことがなかった。 要するに、お互いの話をしていても、どこかぎくしゃくしている。 二人ともが懐かしさを感じながらも、深く語り合うということは一切なかった。 それでも、オーフェンは自分の心に変化があったと思う。 たとえ表面的な会話だろうと、心が癒されるのを感じている。 「クリーオウ」 何とはなしに、彼女の名前を呼んでみる。 一心に荷物を漁っていたクリーオウは、顔をあげてすぐにこちらへ寄ってきた。 「なに?」 「いや、特に用事があったわけじゃねえんだけど」 「そうなの?」 「ああ、悪いな」 謝るくらいなら最初から呼ばなければいい。 けれどクリーオウは嬉しそうに笑った。 「だったらわたしの話を聞いてくれる?」 「……どうぞ」 苦笑しながら答える。 うなずくと、クリーオウは身振り手振りを加えながら、一気にまくしたてた。 他愛のない話だが、オーフェンにとってはやけに懐かしく感じる。 ここ一年は、こんな風に他人と話す機会を失っていた。 必要以上に人と関わり合うのもめんどうで、いつも一言二言しか口にしていない。 クリーオウがそばに来てから、彼は会話をする大切さを改めて知った。 隣でしゃべっている彼女を見下ろしながら、オーフェンはぼんやりと思う。 (今なら、死んだっていいかもしれない……) こんなことを口に出そうものなら、クリーオウにこっぴどく叱咤されるだろう。 あらゆることを例に出して、オーフェンの口を出す暇も与えず、延々と説教をするはずだ。 あえて言い訳をするのなら、死にたいわけではないのだ。 死んでもいいと思っているだけである。 それは今が幸せだから、このまま死ねたら悪くないと思っているだけで。 この一年、元の体に戻るために駆けずりまわり、今も元の体には戻れずにいる。 騎士団は今でもオーフェンの命を狙っている。 一歩も前に進んではいないが、クリーオウがいるだけで以前とはまったく気分が違う。 命が狙われようが苦痛を感じる体だろうが、それでも安らぎを感じていた。 乾いていた自分を知っていたからこそ、今の時間がかけがえのないくらい貴重だと心の底から思い知る。 未来はもっと幸せになれるかもしれないが、今の状況でオーフェンは満たされていた。 死んでもいいと思う。 けれど、逃げずに立ち向かいたい。 (2008.10.7) 今の気持ち。もう今が幸せで、もういいの。 このままで十分満足だから。 でも、もっと幸せになれるんだろうか? |
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