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オーフェンはいつもの定位置から離れ、疲労から地べたに座り込んでいた。
休むなら、もっと他に心地良いところもあるだろう。
例えば寝床やら椅子やら、地面よりも柔らかい場所が。
その中で安らぎのない場所を選んだのに、特別な理由などなかった。
ただ、立てたひざの上に両ひじを乗せ、額を当て、気分が落ち着くのを待つ。
そうしている時間は長かっただろうか、短かっただろうか。
明るくはないその場所に、ふと影がさした。
太陽が翳ったからではなく、人工的に造られた影――それはつまり、オーフェンの前に誰かが立ったことを意味する。
わかっていたが、彼は顔を上げる相手を確認することはしなかった。
声もかけなかった。
声をかけられるのを待っていたわけでもなかった。
このまま、誰にも邪魔されず意識を飛ばして眠ってしまいたいと思ったのかもしれない。
だが、その人影はオーフェンのささやかな望みを叶えてはくれなかった。
「オーフェン、どしたの?大丈夫?」
外の音を遮断しようとしていた耳に、あっさりとした、けれど優しい彼を心配する言葉が届く。
クリーオウだった。
たぶんはじめから感じていた。
こんな状態の彼をいつも放っておかないのは唯一彼女だけだった。
いつもいつも、良いときでも、悪いときでも。
いつも必要でないときでさえ、おせっかいにも。
疲れた微笑がこぼれて、ようやくオーフェンがのろのろと重い頭を上げる。
真っ先に目に入ったのは彼女の綺麗な金髪で、まるで太陽のように輝いて明るい。
まぶしくて、オーフェンは目を細めた。
「大丈夫?」
彼女は心配そうな表情で、少し首を傾ける。
そうすると、クリーオウの柔らかい髪も一緒に揺れた。
「ああ、大丈夫だ」
目を伏せ、小さくうなずく。
こういう時、人は決まって同じことを言う。
例え大丈夫ではなくても、それしか答えがないとでもいうように。
オーフェンは短く答えると、また頭をもとの位置に戻した。
(…………)
目を閉じてしばらくしてから、ほんのわずかな後悔が芽生える。
せっかくクリーオウが彼のことを心配してわざわざ来てくれたというのに、悪いことをしてしまった。
今よりもう少しだけでも気力が回復したら、彼女に謝りに行かなくてはと、ぼんやりと思う。
疲れ果てて、すぐにはここから動くことができない。
再び意識が傾き始めたとき、ぽんと小さい手がオーフェンの頭の上に置かれた。
「よしよし」
「……なんだ」
頭を撫でる感触に、オーフェンは薄く目を開ける。
クリーオウはすでに行ってしまったと勝手に思っていたが、そうではなくまだここにいたらしい。
彼女はオーフェンの隣に腰かけ、ゆっくりした手つきで優しく頭を撫でる。
「大丈夫。大丈夫よ、オーフェン」
「…………」
何が大丈夫なのか。
怒りではなく単に疑問としてだが、それを聞き返そうとは思わなかった。
波に身をゆだねるように、オーフェンはもう一度ゆっくりと目を閉じる。
たぶん、クリーオウはどうして彼がうずくまっているのかを知らない。
けれど、意味のわからないまま彼女はオーフェンをなぐさめてくれている。
とがっていた神経が、いくぶんか和らぐ。
オーフェンがいつまでも動かずにじっとしていたので、彼女は根拠もなく大丈夫と言い続け、ずっと頭を撫でてくれた。
やや無責任な行動だと苦笑するが、しかしそれがとても温かい。
とても、優しい。
心の中で、彼はありがとうと呟いた。






(2008.9.16)
まだほんの最初のクリーオウのシーンしか見てなかった私が、その先を知っている某方のメモ(イラスト)を見たときに書きました。
何も知らなかったけれど、オーフェンがあまりにも疲れてて、知らないなりになぐさめてあげたくなったのです。
荒野のイメージですが、限定はしないように。
少し前に書いたものだったので、手直しをして、髪が長い設定があって苦笑しました。

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