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左腕に巻いたデザイン性の高い時計を、クリーオウは時間を確かめるために見やった。 しばらく確認していなかったが、針はだいだい自分の思っている場所まで動いている。 時間つぶしのためにと、偶然入ったジャンク売り場だったけれど、なかなかに楽しめた。 まだ商品を眺めていたい気もするが、そろそろ次の行動にうつらなくては予定に間に合わない。 「オーフェーン」 彼女は店の奥でクリーオウと同じように物色している彼の名を呼んでから、外へ出ようとした。 が、店の外の様子にぽかんと口を開ける。 「まいったな、こりゃ」 背後から聞こえた声に、クリーオウも同意した。 いつの間にか、雨が激しく降ってきている。 店内の音楽が大きかったせいか、今の今まで雨音に気づかなかった。 目的地まではさほど遠くはないが、この雨量で傘もささずに歩けば、下着までずぶ濡れになってしまう。 かといって予定があるので、雨が止むのを待ってはいられない。 「どうしよう、オーフェン?」 クリーオウが困ってオーフェンを見上げる。 彼もまた困ったように腕を組んで首を傾けた。 と、良い商売になると踏んでか、絶妙のタイミングで店員が傘のたくさん刺さったかごを持ってきた。 外と傘と自分達を見てから、にこやかにレジへ戻っていく。 親切ではあるが、もちろん商売なのだろう。 かごには値段の書いたプレートがでかでかと張ってあった。 だが、法外なほど高い値段ではない。 むしろ女性用のデザイン傘よりははるかに安かった。 顔を上げると、オーフェンも彼女を見下ろしてきたところだった。 考えることは同じらしい。 「しょーがねーから買うしかないな。どれにする?」 「どれって……」 B級品を扱うだけあって、畳んであるの物をざっと眺めるだけでもデザインが奇抜な物が多いとわかる。 試しに無難そうな一本抜いてさしてみるが、開いてみると真っ黒な布地のどくろ模様だった。 「…………」 無言で元に戻し、他の傘を見てみる。 が、蜘蛛やら卑猥なイラストやら趣味の悪さに大差はない。 さすがにそれらをさして歩きたいとは思えなかった。 「……これにするか」 何を選んだのか、妥協したように彼が呟いたので、クリーオウは期待せずに目をやる。 オーフェンが開いていたのは、白地に赤のハートひとつだけを全面を使ってプリントされた傘だった。 「……でも、これハートよ?」 本気かと、少し抗議の込めた声で聞く。 「……そうだな」 「オーフェンが、ハート?」 「かと言っても他のものよりはいくらかマシだろ」 言いながら、彼は困ったように肩をすくめる。 せりふと声音とその態度からすると、オーフェンもそれほどよくは思っていないのだろう。 だが時間のないことを知っているからか、彼は半分くらい投げやりに説得してきた。 「こんだけ柄がでかけりゃ、垂直にさせば誰も気づかないだろうし、たぶん大丈夫だ」 「オーフェンがいいならいいけど……」 釈然としないが、とりあえずうなずいておく。 悪趣味だとだだをこねる時間もなかった。 あきらめた心境でレジに持っていくと、店員が二人を見比べる。 「これ、けっこう小さいですけど、一本で大丈夫ですか?」 「とりあえずはその場しのぎでいいんだ。てゆーか、こんな趣味の悪い傘を二本も買ってどうしろと?」 「そうですね。では300ソケットになります」 悪趣味と言っても否定しないことにあきれながら一本だけ購入して店を出る。 外は相変わらずどしゃぶりの雨だった。 たった数分では天気が変わるはずもないだろうが。 買った早々無駄にならずに喜ぶべきかは知らないが、早速オーフェンが悪趣味な買ったばかりの傘をさす。 大きなハートのデザインに改めて驚かされつつも、それに二人で苦笑しながら一本のかさにくっついて入る。 だが、やはり二人で入るには幅が足りないらしく、数秒もしないうちに雨が肩を濡らす。 「やっぱり小さかったわね、この傘」 「ま、コストの関係やら売り上げやら考えると、こんなもんじゃないか?」 「そりゃそうだけど」 気になるのは、彼女以上にオーフェンの肩が濡れていることだった。 クリーオウに気を使っているのが、なんだか決まりが悪い。 「オーフェンてば、そんなゆっくり歩いてないでさっさと行きましょうよ。濡れちゃうじゃない」 「かわいくない言い方だな、おい」 むっとしたらしいオーフェンが、それでも彼女の方へ傘を傾ける。 そんなことをしたら、彼がますます雨に濡れてしまうではないか。 その優しさに腹が立ち、クリーオウは乱暴に彼の腕を抱き、体を密着させる。 それからついでにオーフェンの唇も奪ってやった。 (2008.9.15) ラストがかわいくなってちょっと気に入りました(笑)。 黒の聖域の草河先生の「激安だから(桃)缶が薄い。店だってちゃんと考えてますよ」的なコメントが未だに忘れられません。 というか、安売りの商品を見るたびに考えさせられます。 あの言葉は真理だと思う。 |
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