□ 果ての先に □


そいつらは風の吹きすさぶ荒野を三人で歩いていた。
各々が小さくはない荷物を持ち、会話もなくただ前に向かって進んでいる。
無造作に歩いているように見えるが、実際彼らに隙はない。
特に一番左を歩いている黒ずくめの男。
魔王と呼ばれるのにふさわしいのかどうかは知らないが、クリーオウはそいつに向かって魔術を放った。
白い光は、周囲の風を切り裂いて飛ぶ。
たった一年間の修行では大した威力もありはしないが、人を傷つけるには十分だった。
何らかの防御(魔術が好ましいと思うが)を取らなくては、大怪我をする。
しかしそれでも――そいつは魔術を使うこともなく、全てを見ているのかのごとく自然に、横に跳び危なげなくかわした。
それでいい。
そうこなくては。
彼女は自分の魔術を追いかけるように、黒ずくめの男めがけて走っていた。
あと五歩の距離。
一秒で縮め、間髪いれず回し蹴りを放つ。
それも予想していたのか、そいつは軽く体をひねってよける。
が、こちらもかわされるのはわかっていた。
回転を利用してさらにもう一発蹴りを入れる。
会心の出来だったが、どうやらそれまでのようだった。
そいつは彼女のふくらはぎを左手で掴み、右の肘で骨を折ろうと、鋭く振り下ろす。
ずいぶんと慣れた動作だった。
そいつの動きに、ためらいは微塵も感じない。
きっと、幾度となくこうして狙われてきたのだろう。
彼女はそんなことを思いながら、折られそうな足ではなくそいつを見た。
スローモーションのように流れる時間の中、鋭く感情のない黒い瞳が、ふとこちらを捉える。
目が合った瞬間、そいつは全ての動きを止め、目だけをまん丸に見開いた。
完璧な暗殺技能者ではなく、冷たさのかけらも残っていない彼女の良く知っている雰囲気のそいつになる。
「クリーオウ?」
思わず、といった風にそいつはぽとんとクリーオウの足を離した。
完全に無防備のそいつ。
クリーオウは肩にへばりついていたディープ・ドラゴンの子どもを掴み、力いっぱい投げつけた。
意志のある黒い塊は、体を目いっぱい広げてそいつの顔を覆う。
「おわっ!?」
明らかに状況についていけない彼は、間抜けな声を上げて格好悪くも地面に尻餅をついた。
「お、おいっ?」
まさかそいつが負けるとは思っていなかったのだろう、昔会ったこともあるあいつらも、同じように面食らった顔をしてあわてたようにそいつらに駆け寄る。
その様子を満足げに見回し、クリーオウは誇らしく胸を張った。
「勝てるもんね、意外と」
満面に笑みを浮かべて、その場にいる全員に向かって言い放つ。
あいつらがあっけに取られている中、そいつは顔にくっついたディープ・ドラゴンをはがし、困惑した表情でこちらを見つめた。
「クリーオウ?」
その呼びかけに、彼女は笑顔でうなずいた。
けれどその笑みも長くはもたない。
顔が歪み、瞳から涙が流れ出る。
止まりそうにない涙をそれでも止めようと、彼女は自分の腕を顔に押し付けた。






(2008.9.11)
設定とか大きく違うのだろうけど、それでも浮かんできたからかまわず書いた物。
てか、やっぱり魔術は覚えないと思うのよね。
亡霊でも「無理だし、ならないほうがいい」って言ってたし。
再会して一作目の作品でした。

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